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【ショートショート】起動怪人

 死神と呼ばれた悪の研究者が死の間際に完成させ、起動した怪人は暴虐の限りを尽くしていた。多くの人を殺め、そして喰った。まるで、空腹に癇癪をおこした子どものように、喰い荒らした。
 不眠不休で暴れ続けた怪人はついには疲弊し、やがて捕縛された。罪なき人々を欲望の命ずるままに殺めた彼には、電気椅子での処刑が言い渡された。
 
 そして刑が執行された。彼は普通の人間ならば即死してしまう高圧電流が身体を巡るのを感じていた。"感じることができていた"
 
 怪人は笑った。
 怪人は笑った。
 怪人は笑った。
 怪人は満たされていた。どんなに血肉を貪ろうが満たされなかった感情。
 それは食欲だった。
 彼の造りの親というべき科学者がこの世を去った今、誰にも知られていない知る術もない。死神と呼ばれた科学者によって生み出された"彼の名"は『雷人』。
 彼は僅かな電力で起動されて以来、食事を摂っていなかった。自分にとっての食事が電気だとは知らなかったから無理もない。
 そして今、彼は初めての食事を経験している。
 彼は産みの親である博士の最期の言葉を思い出していた。

「……雷人、起動せよ」

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