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【短編小説】春もどき
「相談したいことがある」
友人から呼ばれ私は喫茶店を訪れていた。この喫茶店は私と友人が学生時代よく通い他愛もない話 に耽った場所である。
彼とわたしは大学生の頃に知り合った。入学直後の4月ではなく、正月もとっくに過ぎてしまった2月のころであった。彼は地面に這いつくばって何かをスケッチしていた。私は草を描いているのかと思ったが手元を覗くとソレ はサナギだった、蝶の蛹だった。私が不思議そうに見下
【ショートショート】父をたずねて
探検家の父親から息子に手紙が届いた。目が痛いほど鮮やかで大きな花の写真が同封されていた。されていた。息子は父親に会いたいという気持ちよりも、その花を自分の目で見てみたいと思った。
父親が拠点にしていた集落を訪ねると、彼は息子に手紙を出したその足でジャングルに潜ったらしかった。父親がの残した地図や資料を元に息子はジャングルを進みあの花を発見した。それは黄色く人間ほどの大きさのウツボカズラにフタ
【ショートショート】リレー
玄関のインターホンが力無く鳴った。トイレ、台所共有、風呂なし四畳半、家賃1万6千円也。尾人義男の住むアパートは新聞はおろか宗教の勧誘すら訪れないほど貧乏人の巣窟である。義男は訝しげに扉を開けると、義男ですら哀れみの目を向けたくなるような襤褸をまとった老人が1人立っていて「貧乏神です。こちらでご厄介になります」と挨拶した。
普通なら、勝手に部屋に上がり込む老人など警察に通報して引き取ってもらう
【ショートショート】人形町
厭な夢を見た。
そこは奇妙な町で、住民はボロボロで手足が無かったり、髪の長い和服を着た女性がぷらぷらとと歩いていたりする。
「すみません」と話かけ「ここは何処でしょうか」と言いかけたところで、ハッとした。その人には顔がなかった。薄汚れてはいたが、ツルリとした質感はすぐにマネキンだと分かった。この町の住人が全て人形だと思うと頭がクラクラした。
「ここは捨てられた人形の町ですよ」突然声をかけられた
【ショートショート】足の父
「行ってくる」
いつも通りそう言って父がトラックで仕事に出掛けた日、地球外から侵略者達が飛来した。いつもなら長くても2,3日で仕事から帰る父は帰って来なかった。
数週間が経ち、各地が侵略者に襲撃され壊滅したというニュースを怯えながら目にしていた。そして遂に、私の町にも奴らがやって来た。母と避難所に移動している最中、それを目撃した私と母は目を疑い、しかしすぐに確信して涙した。
侵略者に
【ショートショート】才脳
脳を解析する技術が開発され、人は5歳になると才能を明らかにすることが義務付けられた。
私に眠っていた才能は『殺し』の才能だった。
来る日も来る日も、あらゆる殺しのアイデアが湧く、若い頃は死ぬほど悩まされた。救いだったのはアイデアだけで殺意は無かった。
毎日、毎日、アイディアをノートに書き留めた。30年が経ちノートは部屋を埋め尽くした。5歳のあの時から30年、私はこの閉じられた部屋から出てい
【ショートショート】起動怪人
死神と呼ばれた悪の研究者が死の間際に完成させ、起動した怪人は暴虐の限りを尽くしていた。多くの人を殺め、そして喰った。まるで、空腹に癇癪をおこした子どものように、喰い荒らした。
不眠不休で暴れ続けた怪人はついには疲弊し、やがて捕縛された。罪なき人々を欲望の命ずるままに殺めた彼には、電気椅子での処刑が言い渡された。
そして刑が執行された。彼は普通の人間ならば即死してしまう高圧電流が身体を巡る
【ショートショート】数
真夜中の高速道路を一台の車が走っている。不思議と他の車は見当たらず、運転手はストレスを感じることなくアクセルを踏み込んだ。
30分ほど走り続けていると【120】と表示された電光掲示板が目に入った。時速120キロもスピードを出していいのかと疑問を持ちながらも、周りに他の車が走っていないことを確認すると、アクセルを踏み込んだ。夜の闇は罪悪感すら隠してくれる。どんどん車はスピードを上げ、そしてガード
【ショートショート】桜も山の賑わい
「きれいね」
無邪気に笑う彼女を助手席に乗せ、山一面に桜が咲く頃、俺は故郷に帰省した。家族に紹介したいと伝えると、彼女はとても喜んだ。同棲を始めて今年で8年目、やっと決心がついた。
彼女を父に紹介すると「よくやった」と褒めてくれた。母は泣いて喜んで「これ、貴女の木よ。記念に山に植えるの」と桜の苗木を彼女に見せた。
「素敵ですね。お義母様」
春の温かな陽光は眠気を誘うはずだが、俺は彼女を両親に
【連作短編】|囁聞霧江《ささやききりえ 》は枯野を歩く②〜学び舎・後編
城ヶ崎慎吾は逃げている。
「あるはずない。そんなはずない」
彼は始めから"学校の七不思議、数えてみた"の企画を6番目の七不思議を本物に見せかけて、最後の1つを知ると死んでしまうから試せなかった。と演出するつもりだった。だが、実際は丁度よい最後の1つが決まらず、なしくずし的に設定したものだった。彼は《学校の七不思議などない》という妄想に取り憑かれていた。
「全部あなたの妄想だ。と言ったんです」
【連作短編】|囁聞霧江《ささやききりえ 》は枯野を歩く②〜学び舎・ 前編〜
「皆さん、コンバンは~。今夜は廃校を探検したいと思いま〜す」
いかにも軽薄な間延びした声は、「俺は今、変なコトをしていますよ」という自己満足と欺瞞に満ちた演出に彩られていた。
「ちょっとカメラ止めてぇ!オネェさんも楽しそうな顔してくれないと!そういうのも視聴者に伝わるんだよ」やたらと大げさな身振り手振りで騒ぐ城ヶ崎慎吾に霧江は「はぁ」と、殆ど溜息の返事を返した。初夏の蒸し暑い夜、《聴き屋》である
【ショートショート】ファンタジー・ファンタジア
とある村の少年、アルフレドは小説好きだ。小説を読んでいると辛い毎日から抜け出して、旅をしている気分になる。
彼の村は都から遠く離れた辺境、村の主要な産業は狩猟によって得られる皮や骨を使った工芸品などだ。当然、書店という商売は成り立たない。たまに行商人が運んでくる荷物の中に紛れ込んだ盗品まがいの本を安くで譲ってもらえればマシな方だ。
アルフレドの両親も例に漏れず猟師だ。暇さえあれば読書をしてい
【ショートショート】過去進行形
灰色の雲から雨が降っているが、僅かに陽光の気配があるので明るい。もう少しで雨は止むだろう。
雨上がりはいつも僕を憂鬱にさせる。
僕は彼女に聞こえないように小さく溜息をつきながら「雨の日だけ死んだ人に会える場所があったら、死んだ僕に会いに来る?」商店街の屋根を打つ雨音に負けないように横を歩いている彼女に問いかける。
「雨やみそうだね」
問いかけには答えてくれない。肉屋で買ったコロッケ
【ショートショート】オレンジの光
「やだ!オレンジにして」
ナツメ球というらしい。白く発光するあの天使の輪みたいな蛍光灯を消すと点灯する淡いオレンジ色の光を放つアレ。少し大きな豆電球みたいなやつ。子どもの頃から妹は暗いと眠れないので、あのオレンジ色の明りを残さなければ泣いて駄々をこねた。大人になってからもその癖は治らなかった。わたしはあの光があると落ち着いて眠れない気がした。妹は「夕日だと思えばいいじゃん」と言っていたが、わたし
【ショートショート】機械と砂漠と私と
ロボットと人間が砂漠を旅をしていた。名前はアマンダとSA-8。二人はロボットと人間が共生しているという街を目指していた。
高温のためだろうか、SA-8が道半ばで倒れた。これまで一緒に旅をしてきた相棒をアマンダは見捨てられなかった。彼女は相棒を担いで歩いた。街に着けばまだ間に合うかもしれない。僅かな体温を背中に感じながらアマンダは夜通し歩いた。
そしてついに街に辿り着き、アマンダが倒れ込むと。
【短編小説】水泡にキス
行方知れずの夫『満男』は数年後に滾々と水が湧き出る泉の水辺で見つかった。
帰ってきた満男は水しか飲ま無かった。
満男を連れて散歩に出かけた時には、少し目を離しただけで姿が見えなくなった。また、彼が何処かに行ってしまう。焦りながら探していると、近くの川で子どものように笑いながら、服が濡れることも気にせずバシャバシャと手足をバタつかせている。私は靴を履いたまま川から満男を引き摺りだした。
彼はど