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海から来ました。(エッセイ)

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エッセイと写真。
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2019年2月の記事一覧

火花散る、角膜。

海沿いに引っ越して2ヶ月半が過ぎた。子どもたちは保育園に通い、夫は自宅から都内の会社にリモートで働き、わたしはというと専業主婦状態にある。 十代のわたしが知ったら言葉を失うだろう。多少賢い高校を出て、国立大学に入ったわたしが専業主婦?呆れてものも言えない。そう思うだろう。 それは昨年末、母の「大学まで行かせたんだから働いてほしい」という言葉ににじむ価値観そのまんまだ。 今のわたしは、毎日を以前より幾分か丁寧に暮らしていて、外部からの刺激や他人との衝突も減り、穏やかだ。多

火事とおにぎり

8年ぶりに会った友人。1ヶ月だけ同じ病室で過ごした女性。 もともと足に障害があり、障害者スポーツに精を出していた。わたしと会う前にスキー事故に遭い、わたしとはその手術やリハビリで入院中に出会ったらしい。 年末に自宅が火事になり、すぐには住めないこと。火傷で入院していること。それらを知って、昨日お見舞いに行った。 色々な状況が重なって、行き場を無くして入院していた彼女。 彼女は「家に帰りたいけどなぁ」と涙をぬぐった。修復せねば住めない家に無理やり暮らすか、収入がない

ひとりきりなのよ

2017年の年の瀬。海のそばに生きたい、と口に出した。今まさに暮らす、海のない埼玉に背を向けて、遠い遠い福岡を目指した。 2019年2月。わたしは今、願った以上に海のそばで暮らしている。 夜。最寄りの駅から家に帰るときには、砂浜に並んで歩く道を選ぶ。 海は、でっかいプールみたいで好ましい。たぷたぷに満たされたガラスの水槽に心が癒されるように、海の前のわたしは心やすらかにリズム良く歩くことができる。 反面、夜の海は恐ろしい。たやすく人を呑み込む黒い液体で眼前が満たされる