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2020年11月20日 ホテルローヤルにみた「諦め」と「強さ」

映画館で見る公開予定映画の予告はどれも魅力的だ。
今はアプリやSNS、情報収集の手段はたくさんあるけど、物語の始まりを楽しみに高揚する気持ちで見る劇場での予告は他のどの媒体で見るそれより作品の空気感が伝わる魅力的なもの。あれもこれも自分の中の「観たい映画リスト」に登録されていく。

春の停滞期間があったからか、だいぶ前から予告を見ていた気のする「ホテルローヤル」。
Leolaさんの歌う主題歌「白いページの中で」が印象的(最近AppleMusicで聴けるようになり嬉しい限り)で、きっと作品も主題歌同様湿度というか空気感というかそんなものの感覚があう感じかな、そうだといいなと静かに期待を抱いていた。

2時間3800円の非日常。
二人で映画を見るのとおんなじ。
毎日あれこれあるけど、たまにお金を出して非日常を体験することで繰り返す日常をいなす心のあそびを取り戻す。
非日常を体験することも含めた日常を繰り返す、延々と。

ラブホテルという非日常に生きる人、区切られた時間そこに身を投じに来る人、その登場人物に共通する「諦め感」が心地いい。
「望んでいることをやめる」というより、本来の意味である「明らかにする」や「真理・悟り」に近い「諦め」。思い通りにならないことを「諦め」るため、わざわざではなく自然と自分の内にあるものや置かれた状況を明らかにし受け入れていっている全うさみたいなものが、清々しく映る。

主演の波瑠さん、神様が丁寧に作り上げた、隅々まで美しいオーラ溢れる俳優さんなのだろうけど、映像作品の中ではゴージャスすぎず、無理せず見ている側が自分を投影しやすい存在なのかなと思ってその活躍を見ている(同じ感じの俳優さんが多部未華子さん。「空に住む」の働き女子感、ドラマでもそんな役だったよなぁ)。
ホテルローヤルでの波瑠さんが演じる雅代の、自分の置かれた環境や家族との関係、進みたい道に進めなかった挫折。対峙したら消耗してしまう、でも生きていく上でどうしたって切り離せないあれこれを、淡々と「諦め」を持っていなし生きていく様が揺るぎない安心感を与えてくれる。
事情はあれどそれでも生きていく強さ、当たり前なのかもしれないけど、今の自分の心に強く響く強さだった。

北海道という土地に生きる人がなせる「諦め」もきっとある。天災で大きな被害が出た時、報道されたものを見て感じた北海道に生きる人の強さ。
自然の中に住ませてもらって生きていく、抗えないことが起きる中で生きていく、そんな生きていく上での「諦め」がベースにあって、それでも、しっかり根を張り生きていく「強さ」を北海道の人は持ち合わせているように思う。

大吉(安田顕さん)の安定のダメっぷりも、宮川さん(松山ケンイチさん。横顔がとても美しかった)の東北のあたたかい言葉と意思ある行動を選択する律儀さも、本間夫人(内田慈さん)の痛いほどの等身大感も(でも、彼女はすごく幸せ者だ)。
みんな地に足をつけ根を張り生きている人達、「明らかにして」「諦めて」生きていく人達。
私も生きていかなきゃな、そんなふうに思わされる。

大吉とるり子、宮川さんと雅代。
それぞれに2人を繋ぐもの、そしてそれをるり子はずっと大切に日常に取り入れ続けていたこと。それを途切れさせず引き継いでいた雅代。
きっとそれは雅代のこれからでも大切であり続けるのだろう。
この先雅代がどうなるのか描かれていないけど、でもきっと彼女は大丈夫、そんな思いで2時間の非日常を終えた。


薄暗くなり始めた帰り道、日常との境目が曖昧になるような等身大でほんのりと明るく足取り軽い余韻で終わる2時間1900円の非日常もやっぱりいいなぁと思いながら。

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