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映画をつくり、観てもらうこと。

 2020年 7月 25日、日比谷図書文化館のホールで、毎日映画コンクール ドキュメンタリー賞 受賞記念上映として『えんとこの歌』と『奈緒ちゃん』が上映されました。上映後に行われた対談をご紹介します。

上映作品
◆『えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋』(2019年/96分)
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=dSmsmUnyaz4
◆『奈緒ちゃん』(1995年/98分)
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=ENoRzBcNZvw

トーク対談者
◆ 飯田光代(優れたドキュメンタリー映画を観る会・ピカフィルム)
◆ 藤崎和喜(メイシネマ代表)
◆ 伊勢真一(ドキュメンタリー映像作家)

僕は「つくる」っていうことを一生懸命にやり、「観てもらう」ことに対して本当に力になってもらっています。(伊勢)

伊勢 今日はゲストに、映画『奈緒ちゃん』から上映を一緒にやってきたというか、並走してというかな、僕が映画をつくり、上映の場をつくって提供してくれて一緒に『奈緒ちゃん』からそれ以降の作品の上映に取り組んでくれたお二人、世田谷で取り組んでくれた飯田さんと、江戸川で取り組んでくれた藤崎さん。上映の仲間を紹介して、3人でね、〈映画をつくり、観てもらうこと〉っていうような話をしたいと思っています。
 飯田さんと藤崎さん、お願いします。(会場拍手)

(飯田さん、藤崎さん、客席から登壇)

伊勢 『奈緒ちゃん』がちょうど1995年ですから、25年になるんですね。25年歳をとった3人で話しましょう(笑)。

飯田 こんにちは、飯田です。私は知的障がいを持つ次男がおりまして、その子をどうやって育てようかっていうときに伊勢さんの映画『奈緒ちゃん』に出会いました。本当に大きな勇気と希望をいただいて、この映画を地域のいろんな人に観てほしい、それで「私たちの子どもはみんな成長するんだよ」ってことを、まわりの人に理解してもらいたくて、がむしゃらで上映しました。それからずっと伊勢さんが映画をつくる度に上映しています。

藤崎 みなさん、こんにちは。『奈緒ちゃん』の映画を初めて上映したのがちょうど25年前ですね。今日(来てくれたお客さんは)5人とかでしたけど、実は『奈緒ちゃん』を初めて上映したときも……(笑)。江戸川区の花火大会の日に、メイシネマ(※1)で『奈緒ちゃん』を上映して、そのとき今と同じ5、6人だったんですね(会場笑い)。当時はまだ映画ができたばっかりで、まだ『奈緒ちゃん』という映画自体もほとんど誰も知らない状態だったことと、メイシネマ自体ささやかな映画祭なものですから、呼びかける人もそんなにたくさんいなかったこともあって。でも、もう少しくるのかなと。
 というのは、『奈緒ちゃん』を最初に試写会で観たときに、特に社会問題を扱っていたり何か事件が起こったりとかいうドキュメンタリーではなかったのだけども、「日常」がすごく写っていると思ったんです。この映画を観ていろんなことが映画の中から染み出してくるというか、“観る方が発見できる”っていう映画で、そういう映画こそドキュメンタリーのひとつの大きな力じゃないかなと、それはぜひやりたいなと思ったんです。
 もうメイシネマは今年で30年になるんですが、そのうちの25年は『奈緒ちゃん』(奈緒ちゃんシリーズ)や『えんとこ』とかを上映しています。伊勢さんの映画っていうのは、長く観られる、何度も上映できる。映画を観る方も上映する方にも力を与えてくれるなあ、と思っています。

(※1)メイシネマ… 藤崎さんが主宰している映画祭。今年(2020年)で30年目になる。通常は毎年5月に江戸川区の小松川区民館ホールで開催しているが、今年は新型コロナの影響で11月に開催予定となっている。11月15日(日)のメイシネマ祭で、14:20〜『奈緒ちゃん』を上映予定。 
■ お問合せ: メイシネマ祭(TEL. 03-3659-0179/藤崎) 

伊勢 藤崎さんは最初のときに、今も覚えてるんだけど、長い手紙をくれて。「とてもいい映画だと思いました」って。「なぜかというと、プロパンガスが写っているから」って。藤崎さんはプロパンガス屋さんなんですよね(会場笑い)。でもその一言にものすごく共感したっていうか。“みんながそれぞれの想いで映画を観る”っていうことを思って感動したのを覚えています。
 飯田さんは最初に紹介されたとき、てっきり僕の姉(奈緒ちゃんのお母さん)の友人だと思ったんですよね。すごく親しい感じで「(映画を観て)ほんとによかった!」って来たから、あれ? 知ってる人かなって思ったら全然知らない人だったんだけど(笑)。それからずっと25年。それで自分の(お子さんが通う)小学校で『奈緒ちゃん』を上映してくれて、その後も映画ができるたびに世田谷のいろんな場所で自主上映をしてくれながら、下高井戸シネマで「優れたドキュメンタリー映画を観る会」を毎年4月頃に主宰して、義理堅く必ず僕の映画を呼んでくれて。それで5月になると「メイシネマ」で、藤崎さんが江戸川で呼んでくれるっていうね。この2つはもうそれをしないと春がはじまらないみたいな感じです。
 映画をつくり続ける限りは上映してくれる、応援してくれるっていう感じで、僕は「つくる」っていうことを一生懸命にやり、「観てもらう」ことに対して本当に力になってもらっています。

相模原事件の4年目にして、今日も明日もこんなにがんばって上映会を開いてくださったので、嬉しいと思っています。(飯田)

伊勢 飯田さん、今の状況も含めてまた(話を)。ドキュメンタリー映画をつくり、観せるっていうところで。ものすごくたくさんのドキュメンタリーを「優れたドキュメンタリーを観る会」を含めて、観て上映するようになったと思うけど、最初は(ドキュメンタリーが)大嫌いだったって言ってたね?(笑)

飯田 本当にあの…おしゃれな映画が好きで、フランス映画とか結構アヴァンギャルドな実験映画とかアート系が好きで、ドキュメンタリーはもうチケット買ってまで行きたくないって。小さいときに観てショックを受けてしまったのがちょっとトラウマになってたんですね。ですけどそれが『奈緒ちゃん』で本当に心が解放されました。
 それで、伊勢さんも冒頭でおっしゃってましたが、相模原の事件から4年経ちました。今日来てらっしゃる西村信子さん(奈緒ちゃんのお母さん)も私も、障がいを持つ子の母親です。植松被告が死刑になるだけでは済まされない社会背景が、この相模原事件には含まれています。先週の東京新聞で、作家であり活動家の雨宮処凛さんが相模原事件を振り返って、やはりこのままでは終わらせちゃいけないんだということを書いていました。その中で私も母親としてすごく気になったのが、植松被告が最初は「障がい者のために僕は働きたい」という意思を持ってあそこに就職なさった、ということ。だけど、だんだんに、最後には殺害するまでに至った、その経過があるということです。これはやまゆり園の方がきちんと今までの状況をオープンにしなきゃいけないんですけど、やはり日常的に虐待が繰り返されていたっていうんです。
 世田谷では相模原事件のあと、すぐに私たちは集会を開きました。それで近隣に住む方をお招きしたり指導員の人を呼んで話を聞いたりしました。ここにも日本の福祉が今本当に枯渇していく背景が見えるんですけれども、10年前は土日になると利用者さんと介護者が揃って外食に来ていたんですって。お小遣い持って好きなものを食べて、餡蜜を食べたりオムライスを食べたり。それが何年か前から全く姿を見せなくなった、と。閉じ込められてしまったんです。その中で何が起こっていたかは、闇に包まれたままです。今回の相模原事件が起きる前にも千葉の袖ヶ浦で知的障がいの男の子が内臓破裂するまで暴行を加えられた事件がありました。それも本当に闇に包まれたままです。
 やはり閉じ込めてしまうことはいけないんです。そして、そういう社会をつくることも絶対に許せないんです。
 〈中略〉
 本当に生きなきゃいけないんです。与えられた命は。それを支えるのが社会なんです。奈緒ちゃんのお母さんも私も、障がいを持っている子どもを育てていくっていうのは、映画に写ってるほど容易いことじゃないんですね。大変なことなんです。でも「何とかやっていける」「大丈夫だ」っていう社会があれば、育てていける。
 相模原事件の4年目にして今日も明日もこんなにがんばって上映会を開いてくださったので、嬉しいと思っています。やっぱりそのことを忘れちゃいけないと思って、私は今日来ました。
 すみません、長くなって。もうしゃべんないから(笑)。

「一体どういうことなんだろう?」とそれぞれが思いを深めていくのは大切なこと。そう思いながら映画をつくり続けてきた(伊勢)

伊勢 映画を観た人それぞれが「このことをしゃべりたい」とか、「このことを誰かに言いたい」となっていくのが、特にドキュメンタリー映画の場合には(大切なこと)。僕らは何とかいい映画をつくりたいと思っているわけだけれども、同時に、受け取る側がそれをしっかり受け止めることで、またボールを返してくれるというか、まわりの誰かに手渡していくっていうのかな。そういうことが起こることに、とても意味がある。一方通行の、例えばマスメディアで出される情報がね、人の気持ちに届いてボールがキャッチされていく、ということになっているだろうかと思うと、やっぱり心配というか、不安ですよね。
 例えば、植松被告が死刑になるっていうことに対して、僕は死刑にしてはいけないって気持ちを持っています。もっともっと、彼の存在、彼がしたことを、彼も含めて社会がしっかり考えていくってことをしていかない限り、人一人をそうやって裁いて、映画(『えんとこの歌』)の中でも誰かが言っていますけども、裁いていい気持ちになってる、みたいなね。そうなるようなメディアや社会っていうのは絶対におかしいと思う。「一体どういうことなんだろう?」とそれぞれが思いを深めていくのは大切なことで、ずっとそう思いながら映画をつくり続けてきたっていう気がしてるんだよね。

家で一人でテレビで観るのと、みんなで映画館で観るのと、同じ映画でも感じ方が違う場合が結構ある(藤崎)

伊勢 藤崎さんはドキュメンタリーを毎年15本とか20本くらい上映してるんだよね?

藤崎 まあ、14〜15本くらいですかね。

伊勢 ずっとやってきて今、昔に比べて本当に(メイシネマに)お客さんが来るようになったし、いいなって思うんだけど、若い人があんまり来ないとか、そういうことってちょっとあるんじゃないですかね?

藤崎 “映画を観る”っていうのが、僕なんかの世代とはちょっと違う感覚になってきているのかなっていうのはありますよね。それはドキュメンタリーに限らず普通の劇映画でも。映画館で映画を観ないで、今は公開から半年もするとDVDが出ちゃうので、その段階ではじめてその映画を観るという人は増えているのかなと。
 でも“映画を観る”ってやっぱりね、自分の家から出てきて会場(劇場)で観ることだと思う。それは時間もかかるし、レンタルで観るより料金もかかるかもしれないけど、そういう一見無駄に見えるところにこそ何かもっとね。人間生きていくうえですべて効率とかだけの世界じゃないですし。たくさんの人と一緒に観ることによって感じることってあると思うんです。自分の家で一人でぽつんとテレビの画面で観るのと、みんなでこういうところで観るのと、同じ映画を観るのでもやっぱりね、感じ方が違う場合が結構あると思うんですね。
 僕なんかは、例えばどこの映画館に行って観た、なんでその映画と巡り会ったかとか、そういう映画の内容とは関係ないようなこととか、そのときたまたま何となく観てしまった映画がずっと心にあるとかね。端に一般的なメディアで言っているようなことだけを頼りに、ビデオを観たりするっていうのではなくて、自分で観に行くとか、誰かを誘って行くとか、そういうのがやっぱり映画の見方なのかなって感じますね。

「今こそ『えんとこの歌』を!『奈緒ちゃん』を!」というつもりで今日も、ジブリと同じような志で(笑)。(伊勢)

伊勢 僕は1週間前くらいにね、映画館でジブリの『もののけ姫』を観たんですよ。「今こそ映画館でジブリを観よう!」みたいなキャッチフレーズで。ジブリに関してだけじゃないけど、あ、そうか確かにテレビやDVDで観ている人がすごく多いんだなと思って。それで、映画館でジブリを観た人の反響がものすごくいいんですって。映画館で観ると(感じ方が)すごく違いますよね。僕は「今こそ『えんとこの歌』を!」「今こそ『奈緒ちゃん』を!」というつもりで今日も、ジブリと同じような志で(笑)。いや、ほんとに今この映画を観るといいと思うんですよ。 今このコロナの状況の中で、ある意味で一人ひとりが分断されていくというか、ソーシャルディスタンスみたいなこと含め、これは仕方ないってみんな思っているんだけど、でも「距離を保て」とか「人と関わるな」とかいうことが、ある種の正義みたいな感じになって、学校でも子どもたちにそういうことを言っているという状況です。でももう片方で、「人と関わる」っていうことをしない限り生きていけない人がたくさんいるんだっていうことがある。「人と関わる」っていうことを、もちろん肉体的な距離感とかいうことはあるけども、もし距離をとらなきゃいけないんだとしたら、より一層それなら「どう気持ちを繋げていくか」みたいなことを考えていかないと、あるいは子どもたちや若い世代の人たちに伝えていかないと、そのままで、それでいいんだってなっていったら、恐ろしいことになる可能性がありますよね。「人と関わらない方がいいんだ」「できるだけ人と距離をとるのがいいんだ」ってことが正論みたいになってね。 例えば「えんとこ」の場合にね、こないだ一週間前くらいに「えんとこ」へ行って、谷ぐちくん(「えんとこ」介助者・ミュージシャン)ていう、飯田さんの息子さんの介助者でもあるんですけども、パンクロッカーのお兄ちゃんが、「伊勢さん、今えんとこの映画を観たら、みんなはどう思うんでしょう。あんなに口元まで顔を近づけて。こんなことしちゃいけないってみんなに言ってる中であれ見たら、どう思うんでしょう?」って。でもそれはね、谷ぐちくんが(映画の中で)言ってたように、寄り添うんじゃなくて“寄り合う”っていう気持ちが、どんなふうにしてお互いの中で出てくるかなんだと思う。覚悟って言ったらおかしいけども、“寄り合う”っていう気持ちがない限り、それはできないですよね。誰だってノーリスクで生きていくことはできないわけだけれども、でもリスクを背負いながら、そのことをお互いがある意味で認め合いながらやるっていうこと。それを、「えんとこ」は今も淡々とやっていますね。
 多くの介護の現場はそうせざるを得ないってことももちろんあるけども、そうしないと生きていけないんだから。そういうことを大事にしながら生きていく社会をね、それこそ相模原のこともそうだけれども、そのことをしっかり考えて、いろんな人と話をしていくみたいなことをやらないと、これでいいんだ、これでいいんだって言って、要するに「関わらない」っていうことをそのまま肯定していったら、もっと恐ろしいことが起きる可能性があるっていうのかな。そのことに対して責任をとる政治家やジャーナリストがいるかっていうといないし、責任はとれないと思うんですよ。だからこそ一人ひとりがね、ある意味で防衛していかなきゃ、守っていかなきゃいけない。一緒に考えていくことが、守っていくことだと思う。

藤崎 確かにそうですね。感染症のことは、僕はよくわからないですが、例えば「手で触れる」とか、「お互いにハグする」とかね、本来はそういうことが人間同士の間では一番大事なことのひとつだと思うんです。そんな中で「新しい生活様式」とかいろんなことを言われていますけど、そうは言いつつ実際には満員電車っていうのはあるだろうし、すごく矛盾することを言っているわけですよ。それで結局最終的には個人に責任を押し付けてしまうみたいな。それは今はそういう(触れないようにするなど)必要性があるところももちろんあるかもしれないけど、「新しい生活様式」っていうので、それがそのまま、そういう社会になっていっちゃうと本当によくないなと思いますね。

口先だけのボジティブはあり得ない。本当はある意味ネガティブになって「NO」と(飯田)

飯田 そうですね、私も気をつけていろんな人の意見を聞いたり読んだりしているけど、やっぱりこれはコロナが収束した後も元どおりにはならない、って。私たちも意識を変えなきゃいけない。今日この映画(『えんとこの歌』)の中で「口先だけ」って、遠藤さんが言ってた安倍首相のね「一億総活躍」とか言ってたけども、とうの昔に経済は破綻しているのに今も「GO TO ……」? とかもう本当にありとあらゆることを言って、それでこの世の中もポジティブであること、前向きであることがいいことになってるっていう。私も引き算できない人だったんですね、あれもやりたい、これもやりたいって、でもいろんな失敗してやっと引き算ができるようになりましたけど、やっぱり今の社会とか、人間一人ずつ、ほんと口先だけのポジティブ、前向きではあり得ない。もっと本当はある意味ネガティブになって「NO」と、無いものはできないって、不可能なことはできないって。福祉の現場もそうです、もうてんこ盛りは無理なんだっていうことを、きちんと足元から変えていかないと。何かきっと、コロナって私たちに与えてくれているものがあると思います。

僕らはここにいるわけだから、ここで自分ができることをやりながら、誰かにしてもらうだけじゃなくてね、逆にできることを自分なりに見つけて続けていくことをね。(伊勢)

伊勢 不要不急なものは要らないみたいな感じがものすごく強く言われたりして、でも今だからこそってね。僕らはここにいるわけだから、ここで自分ができること、自分たちができることをやりながら、自分が誰かにしてもらうっていうことだけじゃなくてね、逆にできることを自分なりに見つけていって続けていくことをね。まあ、それぞれ3人ともそうだと思うけど、続けていくっていうことをずっとやってきたと思うんだよね。
 藤崎さんはもう今年で30年メイシネマをやって、飯田さんも30年近く自主上映活動と今は配給(ピカフィルム)をやっていて、僕は僕でずっとドキュメンタリーをつくり続けてきて、このやり続けてきたことを、ともかく、どこまでできるかわからないけれどもやり続けたいって、とても今思っていますね。もちろん、もう駄目だっていうときも来るかもしれない。もうどうしようもないって時も。でもやっぱり自分が映画をつくりたいとか、映画を観てもらいたいっていう気持ち自体に終わりはないって思っているから。
 たくさんの人に観てもらえるようにウェブで流す(ネット配信)とか、そういうこともひとつの在り方だと思うけど、在り方っていうのは僕らが創り続けていくためのひとつの方策ではあると思うけど、でもやっぱり映画はこうやって観せて、観てもらって、つくった方も観る方もね、そのことでなんか「出会いましたね〜!」みたいな感じがね。特に僕らみたいに自主製作でつくったりしてる人間にとっては、できるだけ自分でつくった映画が上映するときにはそこへ行ってみんなと話をするみたいなことをずっと続けてきたわけだから、「生きてること」が本当に「映画をつくり、映画を観てもらうこと」に直結しているわけですよね。だから、そういうふうにして今までもやってきたことを、ともかく出来うる限りやり続けたい、と思ってるんで。また応援してください。

映画っていうのはやっぱりスクリーンで、暗いところで観るっていうのが、いいなって、改めて思いました。(藤崎)

藤崎 いいですか、最後に。あ、最後じゃないかもしれませんが(笑)。今日は仕事の関係で上映を最初から観ることができなかったんですが、暗闇で映画を観たっていうことが本当に何ヶ月ぶりぐらいでね。こう暗闇に入って観ると、やっぱり「映画を観よう」っていう気持ちがね。テレビで観ていると他のこともしようってなるというか。(映画館やこういう場で観ると)映画に集中できるっていうのかな、そういう感じがすごくして。映画っていうのはやっぱりスクリーンで、暗いところで観るっていうのが、いいなって、改めて思いました。
 それでね、これ、朝日新聞の「声」っていう、読者の声ですね。ちょっと紹介してもいいですか? 5月の18日。緊急事態宣言がされている最中ですから、当然、映画館もどこも、要するに映画を観る機会がなかった時。そんなところでね、65歳の男性の方なんでしょうか。ちょっと読ませていただきます。

 映画は在宅じゃ楽しめない。つらいですね。映画館が休館になっていることです。私は週1回ほど映画館に通っていましたが、新型コロナウイルスの影響で休館。映画を観られない日々がこんなにつらいとは思ってもいませんでした。じゃあDVDを借りてきて家で観ればよいと思われるかもしれませんが、家では2時間半も集中できないんですよ。どうしても飲んだり食べたり、ひどいときには寝てしまいます。あの映画館の暗闇の中だからこそ、映画に集中できるんです。それに映画はやっぱり大きなスクリーンで観てこそ。テレビとかスマホの画面でちまちま観る気にはならないんです。今苦境にある小規模映画館が多いと聞いています。閉館から守るために立ち上げられたミニシアターエイド基金に、わずかですが寄付しました。コロナ禍のあと、映画館の復活を心から願っています。
(2020年 5月 18日 朝日新聞「声」より)

 僕はたまたまこれを読んだんだけど、僕はこの「声」を読んで、こういう人がいて本当によかったなってすごく感動したんです。

(ミニシアターを)地域で応援してくれることが、経営者と従業員の人たちを本当に後押しすることができるんだと思いました。(飯田)

伊勢 飯田さんは文字通りそのことをね、今やってるって言ってたね。

飯田 そうなんです。映画館ていうのは私たちが想像する以上に家賃とか設備費、人件費が本当にすごいんです。
 それで、誰かがやってくれるんじゃないかってずっと私は待ってたけども誰も立ち上がらないし、国も何も映画館に対して、アーティストにもそうですけども、監督にもそうですけど、手を差し伸べようとしないので、これはもう市民力と思って、6月1日に、下高井戸シネマを応援、カンパしようっていう会を立ち上げました(※2)。一口千円の単純なカンパの応援の会なんですけど、300万近く集まりました。それよりも地域でこうやって応援してくれることが、経営者と従業員の人たちを本当に後押しすることができるんだと思いました。
 でも今日ここへ来たら、私は逆に、いせフィルムを応援してカンパする会をつくらないと、これはイカンのではないかと…(笑)。

(※2)「下高井戸シネマへの応援カンパを募ります!」詳細は下記チラシをご参照ください。

スクリーンショット 2020-09-06 23.25.06

伊勢 確かにそうなんだよね(笑)。製作の方には本当に公の支援もないし、まるでないっていうのが今の現状なのね。でもそれは今までだってそうだったと思ってるようなところもあって、自主製作ってまさしくね、自分たちなりでやっていくっていうことだから。だから何クソ〜! っと思ってやってんだけど(笑)。
 でもそれでもやっぱりなんとかしなきゃと思って、さっき藤崎さんが言ってくれたことと矛盾しちゃうんだけど…、DVD-BOXをつくったの(苦笑)。今までのヒューマンドキュメンタリーを全部ね。これはシリーズの第1弾で「奈緒ちゃんシリーズ」。
 確かに家で観てるとね、集中できないっていうのもその通りだし、僕自身も映画を暗いところで観るのが、それが映画だと思ってる。でもなんかね、自分の愛着のある作品を手元に置いてもらうっていうのはちょっといいなって思っているのもあって。

飯田 お値段は?

伊勢 お値段?(笑) お値段はね4本セットで15,000円なんです。それで、みんなで観ようなんてことをやるときには「団体視聴」ということになるので、またちょっと値段が高くなるんだけど。だから、まあ、高いか安いかわかんないんだけど、なんとかこれで生きていくぞ! みたいな(笑)。

〈0512〉奈緒ちゃんシリーズDVDBOXチラシ

藤崎 もちろん、そういうことも必要だと思うんです。というのは、例えばやっぱり映画館と言っても、今映画館の数はそんなにたくさんあるわけじゃない。昔は町々に映画館があって、まあドキュメンタリーを上映している映画館はそんなになかったんですけど(笑)、映画って本当に手軽に観れるものだったじゃないですか。ちょっと仕事が終わった後に歩いてとか自転車とかで行くような感じだったんですよ。今はなかなかそういう映画館のあるところっていうのは少なくなっているし。それに気に入った映画って、やっぱりそばにね、本と同じようなもんでね、そばにあるとね、観たいときに観ることができる。一番いいのは映画館で観て、さらにDVDを買う、というのが一番いいと思う。

伊勢 それがいいですね(笑)。
 また今度はですね、このDVD-BOXシリーズを2ヶ月に一回出していこうっていうので、『妻の病』とか『ゆめのほとり』とか認知症とケアに関する作品を集めたDVD-BOX第2弾の発売記念上映を9月20日(日)にここ(日比谷図書文化館 B1 ホール)でやって、11月にまた(第3弾を)ここでやる予定です。ここで必ずDVD-BOXの発売記念上映というのをやりながら、さっき藤崎さんが言っていたように、映画で観てもらって、それからDVD-BOXを知ってもらうっていうのかな、そういう、自力でやっていけることのひとつだと思っているんですけれども、だから、ぜひ力になってもらいたいです。それからまた自主上映も、藤崎さんや飯田さんみたいな形でどこかでできる可能性があったら、ぜひお願いしたいと思います。
 ありがとうございました。

飯田 ありがとうございました。

藤崎 どうもありがとうございました。

(会場拍手)


【終了しました!】
伊勢真一監督作品DVD-BOX 第2弾「認知症・ケア」シリーズ 発売記念上映
会 場:日比谷図書文化館 B1F 日比谷コンベンションホール  
    (千代田区日比谷公園1番4号)

■ 11時より(10時30分開場)
 『えんとこの歌 寝たきり歌人・遠藤 滋』上映(96分/2019年)
  ★上映後、伊勢真一監督の舞台挨拶あり。
  料金:1,500円(税込)

■ 13時30分より(13時15分開場)
 『妻の病 ーレビー小体型認知症ー』上映(87分/2014年)
  ★上映後、西川勝さん(臨床哲学プレイヤー・認知症の人と家族の会 大阪支部 代表)と伊勢真一監督によるトークあり。
  料金:2,000円(税込)

■『えんとこの歌』『妻の病』2作品  料金:3,000円(税込)

*現地決済です。当日受付にてお支払いください。
*キャンセル料はかかりません。ご一報いただけると助かります。

西川勝さんプロフィール

自称・臨床哲学プレイヤー。元看護師。あれこれの現場で活動中。著書に『ためらいの看護ー臨床日誌から』(2007年 岩波書店)、『となりの認知症』(2013年 ぷねうま舎)などがある。認知症の人と家族の会 大阪支部 代表。

伊勢真一監督プロフィール

1949年東京都生まれ。ドキュメンタリー映像作家。デビュー作は『奈緒ちゃん』(1995年 毎日映画コンクール記録映画賞他受賞)。その後、数々のヒューマンドキュメンタリーを自主製作・自主上映で創りつづけ、『えんとこの歌』(2019年)で再び毎日映画コンクール・ドキュメンタリー賞を受賞した。

[ご予約・お問合せ]
いせフィルム TEL. 03-3406-9455   E-mail. ise-film@rio.odn.ne.jp
https://www.isefilm.com

いせフィルム公式サイト
いせフィルムtwitter

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