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「記憶」映画作家

2024年 3月

撮影が始まって、今年で42年…。
まさか、こんなに長く撮り続けることになるとは、思ってもいなかった。

障がいのある姉の長女、姪っ子の奈緒ちゃんと家族の普通の日々を、何日間か撮ってまとめようと、ちょっとした思いつきから始まった企画…。「映画」と呼べるほど立派なもんじゃない、ささやかなプライベートムービーのつもりで。
主人公の奈緒ちゃんは「長くは生きられない…」と医者に言われるほど、重いてんかんと知的障がいを併せ持っていたから、せめて、元気なうちにその姿を記録し、動く家族のアルバムのような短い映像を創って、奈緒ちゃんの家族にプレゼントしよう、と考えていただけのことだった。
気がついたら、42年間撮影が続き、4本の長編ドキュメンタリー映画が完成し、今、5本目の映画『大好き ~奈緒ちゃんとお母さんの50年~』の編集が佳境に入っている。「長く生きられない…」と言われた奈緒ちゃんが50歳になったんだから、ずっと見守ってきた親戚のおじさんとしては、映画にしないわけにいかないじゃないですか…。

撮影が始まったのは奈緒ちゃんが9歳の正月。だから、それまでの記録は動画ではなく、時々私が姉の家に行って撮ったスチールがあるだけ…。奈緒ちゃんが一番大変だった、生まれて間もない頃のことは数枚ある写真と、姉の記憶をたどるしかないのだ。

「記録」というよりも「記憶」。
私はドキュメンタリー映画は、むしろ「記憶」が語りかける物語のような気がしている。

姉(奈緒ちゃんのお母さん)は、一番大変だった幼い頃の奈緒ちゃんのこと、その頃の母親としての自分自身のことを語る時には、とても雄弁になり、生き生きとした表情になる。時には涙を浮かべたりしながらも、言葉が言葉を呼ぶ、という感じの語りを聴かせてくれる。辛い思い出に違いないのに…。

 「悲しき時のみ
  詩をたまふ神
  雁渡」

小児科医で俳人の友、細谷亮太氏の名句が言うように、辛い悲しい時にこそ「言葉」がやって来て、その想いをカタチにし、心を癒してくれるのだろう。

「記録」というよりも「記憶」。
ひとりの人の中で、「記録」が「記憶」に置き換えられていくことで、やっと持ち堪えて生きながらえることだってあるのだから。勘違いや想い過ごしを含め語られる物語…「記憶」。それでいい。私的で個的な物語を語りかけることこそが映画の可能性であり魅力なのだと思う。

伊勢真一の「真」を私はそんな風に受け止められるようになった。
記録映画作家というほど上等な肩書きではなく「記憶」映画作家ということかな?

「記憶」は過去のことにとどまらない。
「記憶」は今のこと、これからのことに大きく翼をひろげ、想いを深めることができるのだ…。

もうすぐ『大好き』という名の「記憶」映画があなたの空に飛んで行くはずだ。
耳を澄まし、眼を凝らして見てもらえたら嬉しい。

あなたの「記憶」に重なり合うことを願って…。

(かんとく・伊勢真一)



上映情報


温故知新!! ドキュメンタリー名作上映会

2024年 3月 30日(土)
会場:日比谷図書文化館 B1F 日比谷コンベンションホール

~温故知新~
日本の福祉ドキュメンタリーの原点とも言われる名作『 夜明け前の子どもたち』と、私のドキュメンタリー創りの原点となった作品『奈緒ちゃん』を併映。4月27日(土)に日比谷図書文化館で完成上映会を予定している“奈緒ちゃんシリーズ”の最新作『大好き~奈緒ちゃんとお母さんの50年~』のプロローグとしたい。この二作は共に、私のドキュメンタリーの師とも言えるカメラマン、瀬川順一さんの撮影である。
(カントク・伊勢真一)

■11:00~『夜明け前の子どもたち』
日本で最初の重症心身障がい児施設「びわこ学園」の療育活動記録。
医療と療育の一体化した取り組みを記録し、日々の生活の中に発達の芽があることを描き切った、“この子らを世の光に”という視点をアピールし、福祉の在り方に一石を投じたドキュメンタリー。
(柳澤寿男監督作品・120分/1968年)

★上映後トーク
伊勢真一監督 (映画『奈緒ちゃん』監督)


■13:30~『奈緒ちゃん』
伊勢長之助と仕事を共にしたスタッフによる製作。伊勢長之助の孫、奈緒ちゃんはてんかんと 知的障がいを持って生まれた。奈緒ちゃん一家の日常を12年間にわたり見つめ続け、映画は“しあわせ”について問いかける。その記録は、“奈緒ちゃんシリーズ”として42年間撮り続けられ、最新作『大好き』に至っている。
《毎日映画コンクール記録映画賞グランプリ》
《キネマ旬報文化映画ベストテン2位》     
(伊勢真一監督作品・98分/1995年)

★上映後トーク & 特別ムービー上映
伊勢真一監督 (映画『奈緒ちゃん』監督)
西村信子さん(奈緒ちゃんのお母さん)
最新作『大好き』カウントダウンムービー特別上映!


〈料金〉各回トーク付き 2,000円
*1日通し 3,500円(前売り:3,000円) 
*障がいのある方1,000円 *価格は税込です

主催:いせフィルム 協賛:エーザイ株式会社

〈ご予約・お問合せ〉
いせフィルム www.isefilm.com
TEL. 03-3406-9455 FAX. 03-3406-9460
E-maill. ise-film@rio.odn.ne.jp



“いのち”を巡る映画上映会

4月 6日(土)
会場:日比谷図書文化館 B1F 日比谷コンベンションホール


~“いのち”を巡る~
年に一度の小児がんの子どもたちの〈スマートムンストン〉キャンプを中心に記録した『風のかたち~小児がんと仲間たちの10年~』と、そのキャンプの担い手の一人だった小児科医、石本浩市さんと認知症の妻の日々を描いた『妻の病~レビー小体型認知症~』。共に10年間に及ぶ“いのち”を巡るドキュメンタリーの二本立て上映会。上映後は〈スマートムンストン〉キャンプのリーダーだった細谷亮太医師、キャンプスタッフ、小児がん当事者の方々に、それぞれの思いを語ってもらう・・・。
(かんとく・伊勢真一)

■11:00~『妻の病 -レビー小体型認知症-』
愛する人が認知症になった時、あるいは自分が認知症になったとき、一体何が大切なのか・・・。四国・南国市の豊かな自然に育まれ、支え合うように生きてきた一人の医師と「レビー小体型認知症」の妻との、10年間に及ぶ“いのち”を巡る愛の物語。
(87分/2014年)

★上映後トーク
細谷亮太さん(小児科医・俳人)
伊勢真一監督 (映画『妻の病』『風のかたち』監督)


■13:30~『風のかたち -小児がんと仲間たちの10年-』
「こどもは、死んじゃいけない人たちだよね・・・」小児がんはもう不治の病ではありません。10人のうち7人から8人は治るようになりました。10年間の歳月が語りかける、小児がんと闘う仲間達の生きる力・・・悲劇の物語でなく「再生」という希望を語りかけるドキュメンタリー。
監修:細谷亮太(小児科医)ほか。《文化庁映画賞》《日本カトリック映画賞》《キネマ旬報文化映画ベストテン3位》
(105分/2009年)

★上映後トーク
細谷亮太さん(小児科医・俳人)
「スマートムンストン」スタッフ
小児がん 当事者

〈料金〉各回トーク付き 2,000円
*1日通し 3,500円(前売り:3,000円) 
*障がいのある方1,000円 *価格は税込です

主催:いせフィルム 
共催:記録映画作成委員会 
後援:公益財団法人 がんの子どもを守る会 

〈ご予約・問合せ〉いせフィルム www.isefilm.com
TEL. 03-3406-9455 FAX. 03-3406-9460
E-maill. ise-film@rio.odn.ne.jp


※各上映の予定は諸事情により変更になる場合がありますのでご注意ください。
※詳細は各問合せ先または、いせフィルムのX(@iseFilm)等にてご確認ください。


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