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立川寸志の伊勢ばなし⑧伊勢の近現代を「歩く」~鉄道物件

 伊勢を歩いて、面白い<近現代>が発見できることに気づきました。伊勢と言えば神宮をはじめとした<古代>に直結したイメージかもしれませんが。しかし伊勢には、明治期後半から、国威発揚のための神宮参拝が謳われ、その利便性を向上させるべく、たとえば道路や鉄道、それに関連する建築物など、近代的なものが比較的早期に導入されています。それが今でもあちこちに残っているのです。伊勢は「近現代」も面白いのです。
 伊勢市内の賑わいから少し離れたところに唐突に表れる駅名表示。「大神宮前」としてあります。裏へ回るとかつてこの場所に伊勢電気鉄道大神宮前駅があったことが記されています。伊勢参拝のために多くの私鉄が名古屋方面・関西方面から路線を伸ばしてきました。その歴史は複雑ですが、当時の伊勢が鉄道王国だったことがうかがえます。

あたりは小さなオフィスと住宅がまじる静かな場所。
ライバル会社との複雑な離合集散があった。

威風堂々かつ優雅!宇治山田駅の魅力。

 宇治山田駅は昭和6(1931)年に建設されました。当時の地方私鉄の駅舎としては破格の規模・デザインで、現在国の登録有形文化財に指定されています。威風堂々たる駅舎の細部がまた素晴らしいのです。

宇治山田駅。広い間口と南橋の塔部部分が特徴。
宇治山田駅の細部デザイン、その1。
宇治山田駅の細部デザイン、その2。

 駅舎を入るとそこは、優雅な雰囲気の駅コンコース。細部にまで凝らされたデザイン。乗る列車を一本遅らせてでもひと時過ごしていただきたい!

八角形の窓の麗しさ。
柱を囲う木製ベンチ。ここで行き交う人を眺めているだけで幸せ。

 そして改札を入って高架のホームへ上がると、お好きな方にはたまらない物件が! NHKの某歴史散策番組でも取り上げられたという「転車台」です。行き止まりになっている1・2番線ホームの先にあります。

よい眺め!
別角度から。

 これは賢島方面へ行くバスの転車台です。昭和36(1961)にホームからバスへ直接乗り換えができるようにつくられたもので、平成6(1994)年まで使われていました。下の道路から見上げるとこんな感じ。

異様な迫力。

 これも鉄道物件ですが、鉄道線の橋脚です。場所は伊勢警察署前から二軒茶屋方面へ抜ける道路がJR参宮線とクロスするところ。なぜか歩道と車道を分けるように立派な橋脚が立っています。

大きくはないが重厚な造り。
この色が時代を表しています。

 実はこの道は旧伊勢市電の廃線跡。変電所のあった中山から二軒茶屋・二見方面への路線があったところでした。思わずぺちぺちと撫でたくなる鉄橋橋脚。これも伊勢に息づく「近現代」の素晴らしさ。宇治山田駅と比べて壮麗さはありませんが、武骨で実直な「近現代」に触れられるのです。

立川 寸志(Tatekawa Sunshi) 落語家

https://tatekawasunshi.com/

【滞在期間】2022年11月25日〜12月1日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)