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立川寸志の伊勢ばなし④いよいよ「喋る」…その前に

 ここまでの二日間、歩いて飲むだけのただのツーリストだったが、そう三日目こそが本領発揮の日、落語会の日です。今日こそ「喋る」のです。
 実はこの二日間、歩きながら稽古をしていました。噺家は歩きながら稽古することが少なくありません。朝は外宮周辺、昼は外宮から博物館エリア、夕暮れ時は川沿いに河崎の街――伊勢のあちこちをブツブツと口の中でセリフをさらいつつ歩く――なかなかの不審者ぶりです。
 落語会の前に内宮も行っておかなくては、と朝早く外宮前からバスに乗って内宮へ。伊勢神宮は朝に限ります。日の光に洗われ磨かれた鳥居、橋、そして社。放し飼いの美しい神鶏に見とれていたり、奉納された酒樽の前で「ええっと、これは飲んだことあるな…これは初めて見た銘柄だな…」などとやっていたら、ホテル方面へ戻るバスに乗り遅れてしまいました。

神々しい朝。
作、而今、滝自慢、天遊琳、宮の雪、若戒、鉾杉、るみ子の酒は飲んだことあり。

 タクシーの運転手さんと「宇宙の果てには何があるか」という哲学的会話をしながら外宮前まで戻り、高座前の腹ごしらえで伊勢うどんを。伊勢うどんは大好物。やわらかさもさることながら、たれの甘濃さと麺の熱さが好きなのです。牛肉伊勢うどんをチョイス。嗚呼、半ライスをつけるべきだったかと思いつつ10分もかからずペロリ。腹ごなしに稽古しながら、昼のしんみち商店街から高柳商店街を歩くと、商店街のはずれの小さなお宮で神楽の笛の稽古をされている方がいました。気持ちよく高い音が伸び、あたりの空気がキリッと引き締まる――こっそり立ち聞きで聞きほれてしまいました。神様へささげる神楽が日常に溶け込む伊勢。いいなあ~。

インパクトありすぎ! 落語会会場の手書きポスター

 稽古を終えていざ会場へ! ようやく「喋る」の場面が。ブツブツ稽古しながら歩いていたら迷ってしまい、焦りながら会場入りします。スタッフの皆さんにご挨拶して設営に入ります。みんなでステージに落語用の高座をつくり、広いフロアに椅子を並べます。その数70席ほど。知名度もなければ地縁もない若手落語家の会にこんな集まってくれるだろうか――不安に思っていると、「これ、入り口に貼りましょう!」とスタッフの方が持ってきた模造紙を広げます。それが、これ!

正式なチラシと比べてみました。(撮影:O記者)

「こ、これは……」手書きの落語会ポスターでした。しかし色んな情報が微妙に違う。一番違うのは絵の人物で、これはもしかして…私…なの? 伺えば、シニア向け市民講座の《ポスターをつくろう》という講座に参加された皆さんがつくってくださった作品とのことでした。情報をまとめて一枚に表現してみようというコンセプトで、まだ企画が固まりきらない段階でのトライだったようです。でも想像上の私は結構インパクトあって、こっちの方が売れそうな気がするぞ! イメチェンするか!

立川 寸志(Tatekawa Sunshi) 落語家

https://tatekawasunshi.com/

【滞在期間】2022年11月25日〜12月1日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)