あらたにわたしがみつけたもの/松尾たいこ
私が初めて伊勢を訪れたのは10年前。
4泊5日で伊勢神宮125社を巡るというハードな旅を行い、イラストエッセイ「わたしがみつけたもの 伊勢神宮125社をまわって」を出版しました。
それまでは寺と神社の区別もつかなくて、神様なんていないし人は死んだら無になると思って生きてきました。
だけど125社を巡る中、シンプルで特徴のない(社殿もなく石が置いてあるだけだったり!)神社たちをどう描き分けたらいいのか・・・と向き合い、大きな空や木々を眺め、風を感じ鳥のさえずりに耳を澄ませ、キラキラとゆれる木漏れ日を見つめているうちに私は変わっていきました。
「ここは気持ちがいい場所だなあ。守られている気がする。」→「もしかしたら神様っているのかも。」と思えるようになったのです。
素直ですねっ。
(「わたしがみつけたもの」の出版後、2013年の式年遷宮で御正宮は隣の敷地へ遷されています)
それがきっかけとなり、神社や祀られている神様に興味がわき、出雲の神社を巡る本や古事記の本も出版。いまでは、森羅万象に神が宿るという古代日本の概念にも共感し、作品での表現を追求しています。
(「古事記ゆる神様100図鑑」と「ゆる神様の神社ナビ ころころ古事記」は古事記初心者でも古事記通になれますよ♪)
だから、伊勢は私の原点とも言える場所。
でも今回の旅の目的は、伊勢神宮に行って体と心をリラックスさせ、何か作品のインスピレーションを得られればいいなあ、というぼんやりしたものでした。
しかし蓋を開けてみると・・・ご縁がご縁を呼んだり繋げたりの日々。
同じ時期に滞在していたクリエイターさんたちから刺激を受け、伊勢の伝統工芸や職人さんたちから学び、美味しいモノを毎日堪能。そして・・ミラクル体験までしました。
そんな日々のいくつかを紹介します。
伊勢神宮
一番楽しみにしていた神馬の見参は、外宮内宮どちらでも拝見できました。菊の紋章の付いた馬具を身にまとった神々しくもかわいらしい神馬が、御正宮前で静々と頭を下げます。地元の年配の男性が「1のつく日、天気がいい日、神馬の機嫌がいい日、三つが揃わないと行われない」と教えてくださり「あなたはついてるよ」と言われました。
朝の外宮では、誰もいない小道を歩いていた時、神様のご飯をお供えする日別朝夕大御饌祭に出会えました。祝詞をあげる様子は厳かで、しばしその空間を独り占め。
外宮はほぼ毎日、内宮も5回ほど伺い、月次祭も拝見、正式参拝もさせていただきました。
(125社の中で一番好きな瀧原宮を再訪できたのも嬉しかったです)
伊勢の伝統工芸や職人さん
伊勢には、いろんな伝統工芸があります。見学させていただいたのは、4つの工房。
■伊勢根付
40年ほど前に独学でこの道に入られた中川さんの作品は、技巧を凝らしているのにぬけ感があり魅入ってしまいます。「僕は同じものは作りたくないの」と笑顔でおっしゃる言葉が印象的でした。
■伊勢和紙
中北さんは「クリエイターさんが全国から来て見て宣伝してくれる。こんなにありがたいことはないです。」と積極的に見学を受け入れてくださっています。20名ほどがそれぞれの箇所で専属で作業されていますが、常に新しいこと(和紙に別のものを混ぜるなど)にも挑戦され、仕事への誇りを感じました。
■春慶塗
室町時代に伊勢神宮の式年遷宮の余材で作られたのが始まりだとか。プラスチックに押され消え去りつつあったものを十数年前に復活させたそうで、別の会社で定年を迎えた神戸さんはその時にこの道に入られた方。何かやるのに遅いってことはないんだなと教えられました。
■伊賀くみひも
内宮おかげ横丁のくみひも平井。いろんな色の絹糸を編んでいく作業の様子をジッと見ていたら、別の日に体験をさせていただけました。糸巻きの重さを利用し、力を入れず頭より手が覚えた動作で作っていく。力を抜くことで美しいモノが出来上がるというのはおもしろいですね。
伊勢のおいしいもの
私は小食だけど好き嫌いなし&お酒が大好き。でも伊勢には全く期待していなかったので、こんなにいいお店がたくさんあるとはびっくりでした。
Facebook【伊勢市クリエイターズワーケーション】非公式食堂ガイドのおかげもあり、毎日美味しいものを食べ歩きました。
私の一押しは、駒鳥食堂の伊勢まいりうどん。
手打ちの伊勢うどんに、揚げたてのエビフライ・ハムカツ・カキフライ、そしてとろろ・卵焼き・かまぼこなどが乗っていて、めでたい感じがします。
いな妻のひつまぶしも体験してほしいです。うなぎがカリッと香ばしく焼かれていて、出汁はかけません。
他にも、「一月家」「にかわ」「道」「能代」「Root2」などたくさんオススメのお店があって、ここに書ききれないので・・・。
食べログ グルメ著名人コーナーに「松尾たいこ 多拠点生活おとな日和」のページを持っていて、そこに順次、行ったお店をアップしているので参考にしていただけたら嬉しいです。
不思議体験
初めてお会いするクリエイターさんたちに誘っていただき熊野古道伊勢路の馬越峠を超えるルートを体験しました。
ガイドの東さんのお話を聞きながら、あまり急ではない美しい石畳を歩くのはとても楽しかったです。それまで「わざわざ辛い思いして山に登るなんて、意味がわからない」と思っていたのに、気持ちのいい空間をひたすら歩いていると嫌なことを考えたりする暇もなく、勝手に前向きな気持ちになってきますね。
この後はノープランだったのですが、私は友人から「花の窟神社」をオススメされていて、もうひとりは「熊野本宮大社」に行きたいということで、じゃあその2つを周ろうということになりました。
まずは「花の窟神社」。日本最古の神社ということしか知らないまま伺ったのですが・・・鳥居をくぐった私たちの目の前には真っ白な壁。いや、よくみたら巨大岩(御神体)なんですが、迫力のある光景に3人とも「いったいここはなに?」としばし呆然としていました。
そこに現れた地元の年配の女性Nさん。「ここすごいでしょ?」と、神社の歴史や、縄がたくさんぶら下がっている理由などを教えてくださったのですが、しばらく話した後、急に「ちょっと待って。あなた達にお土産あげるわ。」と脇にある茂みに入ったのでした。
戻って手にしていたのは、梛(ナギ)の葉。ポカンとしている私たちに「あなたたち、どうも気に入られたみたい。」
そこから急展開のお話になりますが・・かなりスピリチュアル&長くなるので、ご興味がある方は私のインスタグラムの記事を読んでください。
その後、Nさんの指示通り、熊野本宮大社でミサンガを探した私たち。最初に見つけたのは数珠っぽい腕輪で「これは・・着けたくないかも。」「赤がないね。Nさんはピンクも赤も同じって思ったのかな?」などと話しながらふと目を挙げると、本当にミサンガ(聖紐でした)がありました。
青(表現力と人間関係)黄(理性と金運)赤(生命と健康)をそれぞれ手に入れました。手に巻いて眺めるたびに、Nさんから「あなた、とんでもなくおもしろい作品が生まれるかもしれないよ」と言われた言葉を思い出しています。
クリエイターさんたちとの出会い
各自が自分の好きな日程で滞在ということだったので、こちらで他のクリエイターさんたちに会えるとは思っていませんでした。だけど「いつかお会いしてみたいな」と思っていた人たちが同じタイミングで滞在していることがわかり、さらに情報交換をしているうちにどんどんと新しい出会いが生まれました。
分野が違うクリエイターさんとの出会いは新鮮で刺激的。初対面でも「伊勢で何かを見つけたい」「何かをやってみたい」と思っている人たちばかりなのですぐに打ち解けられます。
(こちらで出会った方、そしてなぜか伊勢でばったり会った知人、遊びに来てくれた友達の一部)
■後日談
2月にClubhouseを使って、伊勢市クリエイターズワーケーションオンライン同窓会が開催されました。いつか伊勢でリアル同窓会をやりたいねという話もチラリと出ています。伊勢での出会いも私の宝物のひとつです。これからも仲良くして下さい。
旅を終えて
外宮前にある菊一の山本さんに伊勢神宮について教えていただいた時に出てきた言葉「常若(とこわか)」。常に若々しく美しいということを意味していますが、神道でよく使われる言葉だそう。
常若の考え方から、伊勢神宮は20年ごとに式年遷宮を行い、毎日、神様のお食事を準備し一度使った器は壊し、また作ります。作り替えることでデータベースを残し、繰り返すことで思いを継承するそう。
新しくすることでよみがえり繋がる。
思えば、ずっとこの旅の間中、常若が私の中心にあった気がします。毎日、新しいモノや場所や人に出会い、自分の中の古いものが崩れ、新しいものが入ってくる。
最初に紹介した本「わたしがみつけたもの」は、発売直後に出版社が倒産。担当編集者さんが新たに作った出版社(かざひの文庫)で引き続き販売してくださっていました。
何冊か伊勢に持ってきていたのですが、興味を持ってくださった方にお渡ししていたら、すぐになくなり、さらに出版社の在庫も私の伊勢滞在中に売り切れました。でも本は無くなったけれど、私の心の中には、今回感じた新しい伊勢と伊勢神宮があります。
これからは「あらたにわたしがみつけたもの」を形にしていきたいです。自分でも楽しみ。
松尾 たいこ(Taiko Matsuo) アーティスト/イラストレーター
https://www.taikomatsuo.com/
https://www.instagram.com/taikomatsuo/
【滞在期間】2020年12月9日〜12月22日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)