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立川寸志の伊勢ばなし⑤いよいよ「喋る」!

 開場するやお客様がぞくぞくと詰めかけてくださり、開演直前にほぼ満席となりました。ありがたい! 最終的に80名様近くのご来場。うれしや! 都内で自分の会を開いてもこんなに集まりません。スタッフの方のご尽力に感謝しつつ、マイクを手にステージへ飛び出します。
 初めてうかがうところでは、まずセルフ前説をやります。はじめましてのトークです。ハンドマイクで座布団に座らず、立ったままで話します。自己紹介と落語家の修業、特に失敗談を通して「落語ってこんなもの、落語家ってこういうもの」を知っていただくコーナー。つかみに、歩き稽古中に見つけた注意書き《信号機が倒れたのは犬のおしっこが原因》の話をしてみたけど、皆さん見慣れているものらしく、反応はいまひとつ。むむむ。ちなみにその注意書きがこちら。

涓滴岩をも穿つーー感慨深いものがあります。

 一席目は前座噺『子ほめ』。お客様の反応はまだおとなしいけれど、後半で勢いついてきました。最前列の真ん中で聴いてくれている小学生の女の子も、ケラケラ声を立てて笑ってくれます。よしよしよし。
 休憩を挟んで『井戸の茶碗』。実はこのネタ、夜の伊勢のナビゲーターであり、本当は今回の企画の陰の立役者であるO記者からリクエストのあったものでした。屑屋が裏長屋の浪人者から買った仏像をある細川屋敷の若侍に売ったところから始まる騒動を描いたもので、間に入った屑屋が裏長屋と細川屋敷を行ったり来たりする噺。ドタバタの笑いもあれば人情噺っぽい涙もある。結構長い。熱演するともっと長くなる。やり始めて「ああ、今日は長くなるなぁ」という手ごたえ。お客様が集中して聞いてくださる感じだが、一番前のあの女の子は両足をしきりにバタバタさせています。「ああ、退屈しちゃったかな」と思いつつ、サゲまで終えました。55分。はー、お客様も疲れたろうけど、私も疲れた!!

高座にて。(撮影:O記者)

「ありがとう」の感想とてるてる坊主

 それでも今日いらしていただいた皆様にお礼をしたくて、袖に引っ込んですぐに出入り口に走って、皆さんをお見送りしました。コロナ禍の日常では遠慮していたお見送りですが、今日はどうしてもお礼がしたかったのです。
 ありがとうございます、ありがとうございます、お気をつけてお帰りください、ありがとうございます――お見送りする私に「面白かったよ」「よかった!」と口々に感想のお声がけをしてくださいます。中には目に涙浮かべて「ありがとう――」と言ってくださる方もいて、私もジーンとしてしまいました。落語やらせていただいて、こんな気持ちになるとは思ってもみませんでした。
 あの最前列の女の子に「あとの方は、つまらなかった?」と訊くと、首を横に振って「あのね、行ったり来たり行ったり来たりするのが面白かった!」と言ってくれました。ちゃんとわかってくれてるんだなあ。心より感謝!
 そして、打ち上げです。打ち上げの酒はふだんの酒とは別もの、格別のものです。お店はスタッフ皆さんの御用達の「ふる里」という居酒屋さんの二階。アットホームな雰囲気のお店という表現をしますが、このお店は雰囲気ではなく本当にホームなのです。ほっこりした煮物、分厚く大きく切られた刺身、サラダも大盛。中学生の息子さんが料理を運んでくれたり。実家に帰ったような心やすさです。
 外は強い風が吹きはじめました。天気予報が翌日の雨を知らせます。明日が遠足か運動会か。お店の女の子がてるてる坊主をつくっています。たくさんつくったそのうちの一つ、私にくれたてるてる坊主は、メガネをかけていました。バッグのポケットに入れて、明日の「歩く」に備えます。

明日晴れますように。

立川 寸志(Tatekawa Sunshi) 落語家

https://tatekawasunshi.com/

【滞在期間】2022年11月25日〜12月1日

※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)