立川寸志の伊勢ばなし③二日目/外宮から博物館を「歩く」
美味しくて楽しい酒は残りませんね。ばっちり目覚めてすぐ、宿の隣りにある「伊勢駅前商店街」というアーケードを探索して濃厚な昭和感を朝から体感し、その足で外宮へと歩いていきます。
参道でこれも伊勢名物・朝熊山の万金丹を購入。昔の旅人が携帯した万能の薬です。落語にはずばり『万金丹』というネタがあります。江戸っ子二人連れの旅の噺です。この万金丹、薬と言っても現代の基準では「加工食品」。今晩の酒に備えてすぐに開けて食べてみましたが、まぁ苦い苦い。歯にくっつく。噛むもんじゃないのかもしれないけど、いくらか気分爽快になりました。
さわやかな気を帯びた外宮に参拝。朝早くから人でにぎわっています。儀式を終えた神職たちが社務へ戻る行進を見ることができました。
すごいぞ、農業館!
外宮から御幸道路を歩いて神宮の博物館エリアへ。
神宮美術館は初めて。ガラス張りの向こうの庭の木々。カフェがあれば何時間でも過ごせそうです。
神宮徴古館は重々しさが好き。展示物もさることながら、建物から展示ケースまで空間自体が素晴らしく、ここも何時間でもいられるます。地下にあるトイレの「男性便所」「女性便所」のロゴが素晴らしいです。昭和デザインがお好きな方はぜひ利用して見てみてください。
そして今回驚いたのが農業館。レトロを超えた古色蒼然感。それでも古い展示ケースの趣きなど味わい深い、大好きなスポットなのですが、今回驚いたのが、展示物に付された解説キャプションが、ぶっ飛んでいたことです。何体もある剥製・模型(これら自体が時代的な制約もあってものすごく貴重なもの)の解説がどこかとぼけた味わいがあって可笑しい。出色は養蚕のコーナーで、富岡製糸場の説明とともに、なぜか「富岡土産のお菓子ベスト3」を勝手に――そう、解説を書いている人の個人的な好みで――選出し発表しているのです。どうした農業館! すごい学芸員が現れたのだけは確かで。今後も目が離せません。
美術館の駐車場の石垣でテイクアウト弁当をぱくついていたところを事務局Mさんに見つかりました。午後はMさんの車で各所を訪問します。伊勢古市参宮街道資料館では、館長に古市の歴史と伊勢市電についてうかがい、明治に入ってからの古市の賑わいを感じました。
所蔵図書で私がものすごく食いついた市電写真集を古書店で手に入れられるよう御差配いただきました。ありがたし!
山田奉行所資料館では海に開かれた地としての伊勢の重要性がよくわかりました。ここに赴任していた大岡越前の資料も豊富にあります。復元された雪隠(トイレ)が狭いながらもなかなかのものでした。実際には使えませんが、落ち着く空間です。
川沿いの古い商家町・河崎にある古書店で取り置いていただいた伊勢市電の写真集『伊勢の市電』を購入。8000円も全く惜しくなくにやにやしながらホテルのベッドで眺めていると、あたりはとっぷりと暗くなります。
さぁ今夜は一人で居酒屋探訪。一軒目で満足できず駅から少し離れたアーケード街しんみち通りを歩いて、横にそれたところにある焼き鳥屋「能代」へ。店全体が焼き鳥の煙に燻された味わい。これだけで飲める。濃厚なタレの肝焼に焼酎の梅割り。昭和~! 伊勢の地酒もたっぷり味わった後、名物せせり焼きの弁当を持ち帰り、途中コンビニで買った三重の地酒「鉾杉」のカップ酒とともにシメ。
伊勢の濃さがしみてきた二日目でした。
立川 寸志(Tatekawa Sunshi) 落語家
【滞在期間】2022年11月25日〜12月1日
※この記事は、「伊勢市クリエイターズ・ワーケーション」にご参加いただいたクリエイターご自身による伊勢滞在記です。
伊勢での滞在を終え、滞在記をお寄せいただき次第、順次https://note.com/ise_cw2020に記事として掲載していきます。(事務局)