スマート農業の最前線〜きゅうり生産者から学ぶ〜


はじめに

先日、地元西尾市のキュウリ生産者のもとを訪問し、スマート農業についての講習を受け、実際の畑を見学させていただきました。新しい農業の形が今、多くの地域で実践されています。西尾市は自動車関連の製造業が主な産業であることとも関係しているのか、ハウス栽培の高機能化に取り組む生産者が多くいます。例えば、IoT(設備とインターネットをつなぐ技術)や屋根の開閉などの自動制御設備が取り入れられています。一般的な露地栽培とは異なる模様をお伝えしたいと思います。

データ蓄積の重要性

お話をしていただいたのはJA西三河きゅうり部会に加盟する生産者の下村さんです。キュウリのスマート農業が評価されているのは、元エンジニアである下村さんの情熱によるところが大きいです。下村さんは日々のデータ収集の重要性を強調していました。灌水量、暖房機の稼働時間、収穫量といった多岐にわたるデータを記録し、それをもとに植物の状態や今後の予測を立てています。例えば、光合成最適温度の計算機器を導入し、最適な環境を保つことで収穫量を向上させています。この機器は日本でも珍しい技術であり、農業の効率化に大いに貢献しているとのことです。

見える化と効率化の追求

Googleフォームを使ったデータの収集やLooker Studioによるデータの見える化は、無料で活用でき、労働効率を飛躍的に向上させる手段として導入されています。作業者ごとの労務データを可視化し、作業時間の最適化を図ることで、人件費の削減にも成功しています。また、動画撮影による作業のフィードバックも行い、下村さんは「従業員のエンゲージメント向上に努めている」と言います。ビジネスにおいては、会社への「愛着」や「思い入れ」として使われます。作業のフィードバックを動画で行うことが、エンゲージメントの向上に役立つのは、丁寧な教育により成長が実感できる機会を作ることにあると思います。

新しい取り組みと課題

令和3年度には、出荷量予測を用いた小売との商談、パッケージングの改善、物流問題への対応といった三つの柱を掲げ、取り組みを進めてきました。特にパッケージングに関しては、自分たちのキュウリを袋詰めし、ラベル付けすることで自社ブランドのアピールを強化しました。袋詰めをしないと、生産者が誰か分からなくなり、ブランド化が難しいと話していました。しかし、こうした技術の導入には費用がかかるため、生産者は投資対効果を常に考えなければなりません。最新の設備を導入するだけでなく、それを使いこなすための知識と技術も求められます。

地域資源の活用も重要な課題です。地元の畜産業者との連携による有機堆肥の利用や、ハウス内の環境コントロールによる農薬使用の最小化など、環境面と経済面の両方にメリットがある農業を目指しています。特に有機堆肥は、地元の資源を循環させることで地域全体の環境負荷を軽減することが可能です。

スマート農業の未来

今後のスマート農業の発展には、行政の協力が不可欠です。まとまった土地の確保も個人農家では難しいです。また、他県で取り入れている補助金が愛知県では採用されていない場合、農作物の利益率に大きな違いが生じます。例えば、台風などの災害時にハウスが倒壊した場合、ある地域では全額修復費が出るのに、愛知県では半額しか補償が出ないということがあります。自然災害のリスクがある農業にとって補助金は大きな助けになりますが、不健全な競争を招くことにもなるので、適切な配分が求められます。愛知県の有利な点として、消費地からの近さを生かし、効率的な農業経営を実現しやすいことが挙げられます。このような販売網に生産者をつなげるように行政が支援することも必要です。

また、若手農業者の育成や、新しい技術の導入を促進するための教育プログラムも重要です。スマート農業は、生産者の労力を省く効率化と、農薬や肥料の使用量を極力減らして環境配慮を両立させる新しい形の農業です。その成功には、生産者間での成功事例の素早い共有や、新しい技術を紹介するセミナーや研修会を活発に行うことも必要だと思います。

結び

キュウリ生産者から学んだスマート農業の取り組みは、少ない人数で生産量を高められる、農業の未来を示しています。しかし、大きなハードルがあることも知りました。今回見学したスマート農業の技術は、ハウス栽培を前提とした農業です。運よく古いハウスを譲ってもらうことがない限り、ハウスを建てるには3000万円ほどかかります。さらに、下村さんが取り組むやり方ではデータ記録装置や自動制御設備に約1000万円が加わります。新規就農者には非常にハードルが高いです。生産者を育てていくためには、新規参入しやすい環境を整えることが必要です。下村さんはこれから、キュウリで培った技術をイチゴ生産にも応用していくためにサポートをしていくとのことです。西尾市の農業が発展していくのを、皆様もぜひ注目をして、応援していただければ幸いです。

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