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大東市がすごい

大阪府大東市には昭和40年代に建てられた市営の飯盛園第二住宅がある。その市営住宅を大東市と民間が連携してエリア開発を行う「北条まちづくりプロジェクト」によって生まれ変わった。住宅と店舗スペースが共存する複合施設で、住む人、働く人、憩う人が集まれる交流の場として全国から注目されている。

そもそものこの地域の背景として、人口減少局面の中で、市営住宅を約4000戸抱えており、財政圧迫の要因になっていた。その中で、市長をはじめ政策部担当職員数名で参加した勉強会で、公民連携事業を学ぶ機会があった。そこで大東市が参考にしたのは岩手県紫波町のオガール広場だった。民間事業者が主体となり、地域課題に取り組むPPP手法を大東市でも実践しようとして、日本ではじめて市営住宅をPPPの手法を使って建替えから運営管理が行われている。

運営会社である株式会社コーミンは「公民連携でしかできないことで、住民の幸せにつながる公共サービスを提供する」ことをミッションとして、代表者である入江社長は市役所を退職してこの法人を立ち上げた。飯盛園第二住宅は建替え以前、144戸のうち半分しか埋まっておらず、それを74戸に減らして建替えを行った。この「北条まちづくりプロジェクト」を進めるうえで、地域住民との合意形成がどう図られたのかが疑問点としてあった。もし、本プロジェクトが「ただ部屋数が縮小する」というのでは市民からの反発もあったであろうと想像できる。しかし、本事業のSPCのトップには地域住民で構成される委員会の人が入って社長を勤めていることもあり、コーミンの入江代表が「入居者の生活がジャンプアップする市営住宅を作りたい。周辺の住民が喜ぶ市営住宅建替をしたい」という想いが共有された結果なのか、大きな反発が生じることなく進んだ要因の1つだと言える。

「PFIとPPPでは全く手法が異なる」ことが体験できる視察であった。PFIは市が仕様書を書いて、それを民間事業者が直接実施するか、民間資金をどれだけ活用するのかといった手法である。それに対してPPPは、市が主導権を握るわけではなく、住宅用定期借地と事業用定期借地で長期契約を結び、その上の設計段階から運用まで民間の采配で行うことができる。それは大東市公民連携条例に沿った形で行われる。この条例があることによって、市長が変わった時や議会の突然の方針転換に対して、提案権や審査などが盛り込まれている。つまり民間事業者にとって長期的な投資を促すことができる。

本事業の数字的な成果としては、令和4年度に周辺道路の路線価が前年対比で125%UPという結果を出している。今回の視察での貴重な学びは「テナント先付け逆算開発」という手法によって、その成果が現れている事例を見ることができた点である。テナント先付けによって、設計段階から店子の希望を叶えることができて、長期的なビジネス計画にも沿って対応ができる。

行政主導でプロジェクトを進めようと思うと、見積り一件を取るにも時間がかかるが、事前調整を柔軟に行うことが可能となる。それに加えて、行政主導の場合はエリアの価値を上げたり、近隣さんが喜ぶとか、近隣の不動産価値を上げるような市営住宅というのは日本全国でも聞かない。それを可能たらしめている点として、税金を使わずに、民間が金融機関から直接借入を行いリスクをとってコミットしていることが結果的に事業を強いものにしていることもあげることができる。

公民連携の本事業について今のところ地域住民からも議会からも大きな反対意見は出ておらず、成果があがっている。もちろんこの手法が万能であるというほど単純な話しではないが、今後の公共事業を考えるにあたって、リスクを取らずに行政だけで公共事業を行うことには限界があるように思える。歳出を減らすのと同時に歳入を増やすことを実現しなければ、社会保障や公共サービスの維持は難しくなる一方である。西尾市においても、民間事業者との連携を今一度見直す必要があることを提言したい。

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