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【人生百年時代】リスキリングについて考える。〜陣屋の事例に学ぶ〜

 今月の初めに社内の勉強会があり、リスキリングについて発表する場があった。リスキリングの定義とは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、 必要なスキルを獲得する/させること」(2021年2月26日 リクルートワークス研究所 石原直子 人事研究センター長/主幹研究員 経済産業省HP) となっている。AIなどの台頭による産業構造の変化に伴い、従来の産業からGXやDXなどの成長産業へ労働移動させることが主な狙いだ。コロナ禍で労働環境が大きく変化したこともリスキリング取り組みが注目された背景となっている。

 発表にあたりリスキリングについていろんな事例を探していたところ、老舗旅館の陣屋の事例が大変興味深かったので共有したい。

陣屋は1918年創業の老舗旅館であったが、バブル崩壊後に売上が落ち込み、一時は倒産の危機にあったようだ。2009年に就任した新社長は、創業以来継続している手書きの台帳が、顧客満足度を妨げていると感じ、自らもSEだった経験を踏まえ、ITを導入することを決断した。ちょうどスタッフ応募の面接に来た人が元SEだったこともあり、その人をIT導入担当として、社長と二人三脚で開発を進めたそうだ。当時は資金繰りに苦慮されていたこともあり、システムは自社で開発し、クラウドサービスにのっけて当初は予約機能のみで開発から2か月あまりで運用開始したという。このシステムは「陣屋コネクト」と名付けられ、その後勤怠管理、業務連絡、原価管理などの機能を順次追加していった。ITの導入により人員の配置や業務の効率化を価値創造に変え、赤字も解消し、今では予約も取りにくい高級旅館に生まれ変わっているという。

ただし、老舗旅館の従業員をいかにリスキリングさせるには相当苦労があったようだ。
当時の従業員はほぼシニア世代でパソコンも扱える従業員は1名だけ、数十人の組織において組織はサービス係・清掃係・フロント係というように細分化され、顧客情報は営業担当の頭の中のみといった感じで、情報の共有ができてない上でのトラブルやクレームがあったようだ。

社長は改革に際し自ら各従業員にIT導入の必要性を説いて回り、紙の台帳は金庫に保管して台帳管理からの決別を促し、また全員にタブレットを持たせ勤怠管理を自ら入力させ、勤怠入力しないと給料が払えないようにするなど様々な工夫を行った。一方で、入力ミスなどの失敗を許容し再発防止策に注力するなど、従業員のITに対する拒否感緩和に腐心されたようだ。

この陣屋からのリスキリング&DX成功事例から学ぶことは、

・組織のトップが率先して進める
・過去のやり方からの決別(アンラーニング)
・小さく早くはじめる(アジャイル開発)
・失敗を許容する

など、どの組織の改善にも参考になる事例だと思われる。

その後「陣屋コネクト」は自社の経営改善にとどまらず、別会社を立ち上げてシステムを外販しており、今では550以上の施設で利用されている。さらに「陣屋コネクト」を応用展開し「里山コネクト」として、周辺地域の観光業活性化にも取り組まれている。二人三脚での取り組みが周辺地域の活性化を呼び込むエコシステムまで発展したという好事例であり、いたく感心してしまった次第である。

高級旅館ではあるが、ぜひ一度宿泊してDXの成果を体感したいと思っている。

参考文献;
中小企業が小規模な変革から始めたDXの成功事例 老舗旅館「陣屋」 - 部品でWEBシステム開発に特化、柔軟・高品質・短納期のサイバーウェーブ株式会社 (cyberwave.jp)
老舗旅館『陣屋』が実行した驚くべきICT経営革命【SalesforceによるDX事例】 - 松田軽太のブロぐる (matudakta.com)など

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