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脱植民地主義を考える。カリブ哲学協会サマースクール体験記

6月25日から1週間、テネシー州メンフィスで行われたCaribbean Philosophical Association(カリブ哲学協会)のサマースクールに参加してきました!今度はなぜカリブ哲学??と思うかもしれませんが、裏テーマとしてはDecolonization(脱植民地主義を実現する哲学)を考えるということであり、主にラテン系やアフリカ系の支配された歴史を持つルーツのある学者の人々が始めたサマースクールでした。日本ではあまり有名ではないですが、Decolonial studiesの分野では有名なLewis GordonやNelson Maldonado-Torresなどの超胸熱な教授たちと院生/PhD生達に囲まれて、1週間毎日合計6時間のレクチャーとディスカッションをする最高な日々でした。(学部生は僕だけだったので、みんな可愛がってくれました。)

植民地主義/Colonialismに問題意識を持ったのは、気候変動の根本的な原因として植民地主義があると気づいたからです。植民地支配の中で、有色人種(特にアフリカ系や先住民族)の人々が奴隷化され搾取されるシステムが、現在も欧米がグローバルサウスの国々を搾取し続けていることの土台となっています。そして植民地化の中でアニミズム的な他の生き物や自然を敬う自然観を抹消し、支配的なエコロジーが世界中に広まったことが自然を搾取し尽くす現状を文化的に肯定してきました。

こういった背景を踏まえて、大学の恩師に誘ってもらったこともあり、実際にDecolonization/脱植民地化を実現するための哲学的なフレームワークを学ぶためにこのサマースクールに参加しました。

今まで大学や日本であまり深くまで話せなかったこの話題を、自分よりも超詳しく知っている学生や教授たちと話し合い学ぶことができ本当に貴重な時間でした。それぞれの研究トピックも、環境正義・セックス・美学・ラテンアメリカの社会運動・Queer Studiesなど超様々でした。

今回のサマースクールにおいて学んだこと、再確認した事はとても沢山あります。

いくつか書き連ねていくと、まずとても大きかったのはNelson Maldonado-Torres教授のレクチャーでした。La Collectiva Feminista en constracion in Puerto Rico(プエルトリコのフェミニスト集団)の研究をしているNelsonは、彼女たちの運動を参考にしながら実際に政府や体制に対する批判を行い、「批判」という行為をどう脱植民地化することができるのかを考えていた。La Collectivaが語った言葉でとても印象的だったのは、「私たちは西洋が植民地主義とともにもたらした時間を拒絶する。進歩や個人主義に囚われた直線的な時間ではなくコミュニティをケアしあえるような時間を取り戻すのだ」と語っていて、Decolonizeするプロジェクトとは、時間という私たちの世界観の根幹自体を変えることを意味するのかと気づかされました。

そしてもう一つ印象的だったのは、論文やアクティビズムなど私たちが取り組むプロジェクトがファノンが言う”Combative”(体制を壊す)ための動きになっているか、と言う問いでした。哲学的なフレームワークを考えていると、美しい論理を生むことの楽しさに惑わされることがありますが、このDecolonial/脱植民地主義に取り組む中では変化をもたらさなければ意味がない。”Say what you must” あなたが言わなければならないことを言いなさい、と言う言葉が刺さりました。

全体的にレクチャーを聞いていて印象的だったのは、植民地主義によって西洋的な形の「知識」や「存在のあり方」が押し付けられたことに対抗するための可能性として、「スピリチュアリティ・宗教性」がとても重要視されていることでした。すでに気候変動運動でも先住民族の人々は西洋科学が学ぶ前から生態系に関するとても解像度の高い知を持っていることが広く言われています。植民地化の中で消されかけてきた「Other ways of knowing / 今とは違う形の知のあり方」を今こそ考えるために、西洋科学がタブー化したスピリチュアリティを学ぶ必要があると多くの教授が語っていました。

そして脱植民地化/decolonizationを実現することに、終わりはなく完璧を求めてはいけないと言う話がありました。完璧という状態を求めた途端、その未来図は主観的かつ静的になり排他的な暴力性を孕みます。常に変化のプロセスとして状況に合わせてWork Throughしていくことが大切だ。そして変化がいつ起こるか分からないし、未来が良くなるとも限らない。けれど絶対に手遅れなんて事はない。可能性がある限りアクションを取り続けるというラディカルな希望を持つことは気候変動にも繋がると思いました。

実際にサマースクールに来る前には、Decolonizationを実現した未来はどういう形なのだろうか?実際に世界ではどのようにそのプロセスが進んでいるのだろうか、という疑問を持っていました。今回サマースクールに参加して感じたのは、哲学というアプローチの楽しさもあるが、自分にとってはより現実の実践と深く結びついた学問とPracticeを行なっていきたいと感じました。今その観点で興味を持っているのが、Political Ecology(政治エコロジー)という分野です。生態系の働きを踏まえて、政治社会経済の構造的な不正義を問いただし、文化的な観点からの影響も考察する分野で、面白さを感じています。

正直、今回のサマースクールでは未来の設計図を教えてもらったというよりは、実際に不完全さや矛盾を受け止めながら、現場のコミュニティと共に変化を作っていくことの大切さ、自分で手を動かし足を運んで考えていくことなのだと思いました。

Work ThroughやProcessという言葉を多く耳にしました。完全な未来を思い描くのではなく、変化のプロセスとして着々と取り組んでいくことの大切さを再確認する時間になりました。

もしこのサマースクールに興味があったら、ぜひこちらをご覧ください。
https://caribbeanphilosophy.org/summer-school 
また来年も開催される予定ですし、もし日本から直接参加する人が来たらおそらく初になるだろうと教授たちが言っていました。

これからさらにこのテーマを深めて、自分の取り組んでいることがより脱植民地化・気候正義の実現につながるように今後もアクションを続けていきたいと思います。

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(追記 2024年3月)
最近になってこの記事を読んでくれている方や友人たちが多くいることに気づきました。

2年前に参加したこのサマースクールは確実にその後の自分自身の選択に大きく影響を与えています。レイシズム・家父長制・気候変動などといった様々な課題の原因を遡ると植民地主義の歴史にたどり着くことに気付かされ、実際にこのテーマについて対話を行うために自主編集のマガジンを発刊しています。
マガジンという形式で、植民地主義・脱植民地化について日本・東アジアでの対話を開くというアイデアを後押ししてくれたのはこのサマースクールで出会った教授たちでした。

そしてこの記事の中で「今回サマースクールに参加して感じたのは、哲学というアプローチの楽しさもあるが、自分にとってはより現実の実践と深く結びついた学問とPracticeを行なっていきたいと感じました。」と語っていますが、この後の2年間、日本で発酵の現場にフィールドワークに行ったり、インドに留学をする中で、また違った考えも芽生えてきました。

この世界の複雑さの中にもまれながらも、その中で変化を画策するためには、今の世界の基盤となっている思想や哲学を学ぶ必要があると思い、今は大学で西洋哲学や経済思想の古典を読み進めています。

植民地主義と深く結びついた思想の中で定義されてきた「人間」のあり方を、様々な生き物たちとの関係性の中で考え直し、新たな存在論を考える上で、カリブ海哲学の先人たちが行ってきた存在論的・知識論的な抵抗の歴史を学ぶことは不可欠だと思い、今年再びサマースクールに参加することを予定しています。

哲学的な基盤を身につけながら、ラディカルな世界との関わり方を考えるために、カリブ海哲学との付き合いはこれからもっと深くなって行く予感がしています。

最近、日本でもカリブ海思想についてジャマイカの西インド諸島大学で博士号を取得された中村達さんの『私が諸島である』が出版されています。
この本の中では、このNoteでも名前をあげているLewis GordonやNelson Maldonado-Torres、さらにカリブ現象学の専門家であるPaget Henryなどサマースクールで出会った教授たちが取り上げられています。
彼らの思想的取り組みが日本に紹介されていることに胸が熱くなりました。

今年のサマースクールでは、どのような学びを得ることができるのか、すでに興奮がおさまりません。また報告しようと思います。


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