ゴールド 金と人間の文明史-13 金の蓄えが増すと思うと人の心は奮い立つ
ローマ帝国で、貨幣改鋳に踏み切った最初の皇帝はネロだった。
260年に単独皇帝となったガリエヌスは銀の含有量をたった4%にまで落とした。その結果、手の付けられないインフレーションとなった。
そこで、284年に即位したディオクレティアヌスはおよそ20年をかけて、通貨の改革を実行し、インフレーションを抑えようとした。
ディオクレティアヌスのあとを継いで皇帝になったコンスタンティヌスは、東ローマの通貨の信用と流通性を回復するためにソリドゥスと呼ばれる新しい金貨を発行した。
この硬貨は、のちにベザント硬貨として知られるようになる。
ベザント硬貨はローマ帝国が異民族によって滅ぼされてからもおよそ700年 -歴史上最も長く使われた硬貨- ものあいだ、重さも純度も変わらずに鋳造され続けた。
コンスタンティヌスは金、銀で納入する新しい税制を定め、その税収を鋳造所に供給して、新しい貨幣に変えた。
しかし、もっとも豊富に金が供給されたのは、税収としての金ではなかった。
コンスタンティヌスはキリスト教に改宗し、313年にキリスト教をローマの国教に定めたことで、豊富に金を得た。
コンスタンティヌスは、キリスト教をローマの国教に定めた。そして、ローマ帝国中の異教の寺院が数百年にわたって蓄積してきた財宝を奪ったのだ。この金の一部はコンスタンティヌスの頭上に黄金の王冠としてほぼ永遠に飾られた。
こうして、宗教上の金と貨幣としての金が、ここでまた、交わることとなった。
しかし、貨幣は、飾り物としての金に対してばかりでなく、金そのものに対しても勝利者となった。
以後、金の所有はもはや権利や特権や社会的な階級を意味することではなくなった。
金は、手に入れるもの、奪うもの、川や山で新しく発見するものとなった。源泉が何であれ、金の蓄えが増すと思うと人の心は奮い立つ。
なぜなら、黄金は金と権力への近道だからである。
ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン
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