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ゴールド 69 緊縮財政こそが望ましい

モンテギューにはジョン・ロックの後ろ盾があった。

※ジョン・ロックはイングランド銀行の最初の出資者の一人であり、1690年に発表した「人間知性論」で名を上げた高名な哲学者である。


ロックは平価切下げに反対する立場だった。ロックにとって「1シリング」と示されている貨幣は1シリング貨幣なのである。その貨幣が原型を留めないほどに削り取られていても1シリング貨幣なのである。鋳貨が物理的な傷をどれほど負っていようとも、昔から公式に定められた重量やイングランドの貨幣の基準を変更するのは彼にとって許せなかった。

さらに、ロックはイングランドの銀が海外に流出しているのを防ぐためには輸入の需要を抑えることが適切な解決策だと論じた。彼はこの問題を人間に例えて、「ある領域のなかで暮らしている農夫が勤勉と倹約によって資産を増やしていけば、年度末に負債を抱えることは決してない。貸借対照表の末尾には必ず受け取り分が残っているはずだ」と述べている。

つまり、緊縮財政こそが貴金属の海外流出に対する望ましい措置だという見解である。

※この考えは19世紀の金本位制のもとでは標準的な政策となり、1931年の大恐慌時にもイギリスとアメリカはこの原則に基づいて政策を決定した。そして、この原則が1930年代の破壊的なデフレの原因となっていた。


さらに、ロックが平価切下げに反対したのは、一度平価切下げを認めると、この行為が何度も繰り返されてしまうということだった。

そして、ロックとモンテギューは勝利し、削り取られたシリング貨幣は額面金額と同じシリング貨幣と交換されることとなった。しかし、その損失は納税者が負担することとなるのだが。


ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン

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