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ゴールド 金と人間の文明史-48 主権国家が債務不履行におちいる

スペインが黄金に溺れておかした最大の無駄は安ピカのものを買い込んだことでもなければ、商業や金融を発達させそこねたことでもない。

それは、スペイン王政の栄光を夢見たことだった。

いつの世にも黄金は権力と結びついている。アメリカ大陸での金の発見によってどれほど膨大な資産がもたらされるかに気付いたとたん、当時のスペインの王たちはこの資産で世界を意のままにできる、とりわけカトリックとプロテスタントとの激しい対立にようやく終止符が打てると確信した。


1516年にスペイン王に即位したカールⅤ世はスペインをヨーロッパの覇権国にしようと決意していた。

また、神聖ローマ帝国の皇帝になりたいとも考えていた。皇帝になるためには選挙により選ばれる必要があった。そこで、同じ野望を持っていたフランソワⅠ世と激しい票の買収合戦が起こった。カールにはアウグスブルクの大銀行家であるフッガー家がつき、選挙に勝つことが出来た。しかし、選挙には勝ったが、カールは借金で首が回らなくなった。


さらに、カールはネーデルラントを自分の帝国の領土だと主張し、息子のフェリペⅡ世に統治を委ねた。

フェリペも無謀さではカールに劣らず、イングランド女王エリザベスを倒そうとして、1588年に有名な無敵艦隊を派遣したあげくに敗れ去った。


こうした企てにはどうしても資金がいる。カールⅤ世がスペイン王だった40年間に累積した3700万ドゥカートの対外債務は、当時アメリカ大陸からセビーリャに運ばれて王室に割り当てられた貴金属の総額を200万ドゥカートも超過していた。


フェリペⅡ世も軍隊に借金をした。そして、自分の資力で賄いきれなくなり、債権者に無理やり負債の大半を長期貸付金に切替させた。この過程でフッガー家は没落へと追い込まれた。

こうして、フェリペⅡ世は西洋世界に極めて珍しいが衝撃的な現象を始めて見せつけた。

君主が、すなわち主権国家が債務不履行におちいったのだ。スペインはこののち、1596年、1607年、1627年、1647年にも同様の財政危機を繰り返すこととなる。


ゴールド 金と人間の文明史 ピーター・バーンスタイン


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