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アトピーの自然療法

アトピー性皮膚炎で悩む人は多い。その分、怪しげ民間療法が跋扈しがちだ。「怪しい」と書いたが、それで「治った」人も多くいる。

アトピーが多いのは、生後4か月の一般乳児で15%ほどが発症する(2006-2008乳幼児健診)。しかし、4か月をすぎると7割が寛容する。これは消化器官の発達に関係している。消化力が弱いとタンパク質が分解できず、大きな分子のまま血中に入りこむ。これがアレルギー反応をおこしていたわけだ。

2才ほどになると消化器官がずいぶんと発達してくる。アトピー性皮膚炎の発症率もぐっと下がる。そのタイミングで民間療法を試すと、それは「治った」ことになる。自然に治っていた可能性も高いわけで、民間療法の効果を測ることは難しい。

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免疫機能は人それぞれで、大人になっても寛容しないケースも多々ある。皮膚がただれ、「血がつくので白い服は着られない」「お化粧はできない」「旅行もいけない」と女の子が「普通のこと」だと思うことができない。

今回は、そういう女性がどのようにアトピー性皮膚炎を自然療法で克服していったかの話。かといって、僕の立場は「ステロイド反対」とか「代替医療礼賛」ではなく、医学のメインストリームを支持している。ステロイドは量さえ守れば安全なものだし、皮膚のバリア機能を高める保湿剤は実に有効である。

「自然の健康」という視点から、アトピー性皮膚炎を眺め、いくつかのコメントを加えようと思います。

食事が体質を変える

秋桜子さんは、「不健康は束縛。お泊りにいけないし、おしゃれもできない。仕事もできない。できないことばっかり」と振り返る。今は華やかなクリエイティブな世界で活躍している。姿勢がすっとしていて、おしゃれで、声は自信に溢れている。

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お肌をみても、「服に血がにじんでしまって」という皮膚炎の過去はみじんも感じられない。

わたしにとっての転機は、「食事で体質を変えられる」と信じたから。と言う。秋桜子さんは自然の食材だけで生きることにした。加工食品はいっさいとらず、出汁は自分でひく。

「アナログ、発酵、ナチュラル」 彼女はこの言葉をマントラとし、生活を変えていき、紆余曲折を経験しながらも、アトピー性皮膚炎を克服した。

アナログは手作り、シンプルな食事。できる限り自分でつくるし、お店で売っている商品も、シンプルにつくったものを選ぶ。

発酵は積極的に植物性の発酵食品をいただく。納豆、漬物、味噌(時間をかけてつくったもの。もちろん「出汁入り味噌」は論外)、ノニジュース、酢、塩こうじ、発酵玄米、発酵茶などなど。

ナチュラルは保存料など添加物を加えていないもの。簡単にいうと、ひいばあちゃんの時代に食べていたものをいただく。

自然な健康 アトピー編

秋桜子さんのアトピー性皮膚炎はすっかり寛容してしまったようだ。さて、どういった仕組みでアトピー性皮膚炎が良くなったのだろう。

アトピー状態では遺伝的、環境的な要因がからみ、免疫が過剰に働いている。難しい言葉をつかうと、「Th2型免疫応答の過剰活性化」が起き、皮膚バリアが壊れる。壊れた皮膚は異物が入りやすく、侵入した異物がアレルギー反応を引き起こす。

発酵食品で免疫の調整ができないか? という研究が「Nutrients」という学会誌に掲載されていたので、紹介しよう*。

動物に薬剤(2,4-ジニトロクロロベンゼン)を与えてアトピー状態にする(こういう動物実験を見ると、心が痛くなりますね)。免疫が乱れ、皮膚がただれてくる。顕微鏡で観察すると、表皮が薄くなり、異物が血中に入りやすくなっている。

血中をみるとIgE抗体が増えているし、ヒスタミンを増えている。これは「かゆみ」を数値化している。増えれば増えるほど、痒がるはずだ。

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免疫も数値化することができる。血中の免疫物質(インターロイキンという)を測定する。こちらも実験動物は増えている。

準備ができたところで、発酵植物を与える(この場合は発酵ノニ。学名: Morinda citrifolia)。すると、不思議なことに、免疫が正常値まで下がってくる。ここが肝のところだが、免疫が下がるといっても、正常な状態より下がることはない。

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そして、皮膚の厚みが戻り、マウスの毛並みがきれいになる(想像するに、肌の厚みが戻っただけでなく、消化器官もしっかりしたんじゃないかなぁ)。

発酵で何が変わった?

この実験では植物の発酵前と発酵後を調べている。

植物成分の変化が記録されている。ノニ植物には特徴的な健康成分、イリドイドが含まれている。イリドイドはマイナーな存在で、多くの人にとっては、聞いたことがないと思う。アカネ科やスイカズラ科、トチュウ科という漢方系植物に含まれるものの、一般的な食用植物には至極珍しい。

ただ、このイリドイドは抗酸化性に優れ、安定しているため体内への吸収が良い。僕たちの実験でも、「!」って結果がでる。この研究者もそれを承知していたようで、イリドイドの量を発酵前・発酵後で測定している。

結果: イリドイドは発酵によって40%増えている。

発酵により、ポリフェノールを含め植物栄養素が増えていたのだ。

発酵はビタミンを減らすものの

「健康に良い栄養素」と聞くと、多くの方はビタミンやミネラルを思い浮かべるだろう。「風邪にはオレンジがいい。ビタミンが入っているから」と理論づけする人も多い。

実は発酵によって、ビタミンKこそ増えるものの、ビタミン・ミネラル類は軒並み減少する(たぶん、微生物によって代謝されるのだろう)。そういうわけで、伝統的な栄養学の見地からは、発酵の良さは強調しにくい。

僕らはノニ植物を重点的に研究してきた。ノニにはヘミセルロース分解酵素が含まれており、自然発酵の進みが速い。植物の自然発酵を調べるには、なかなか良いモデルだと思う(寿命研究を線虫でするように)。

1日の変化で植物栄養素が増えることが分かったし、発酵が進むと逆に植物栄養素がなくなることも分かった。興味深いことに、ポリネシアに伝わる伝統的な製法は、植物栄養素がもっとも多くなる方法になっていた。

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アナログなプロバイオティック

秋桜子さんの言葉、「アナログ、ナチュラル、発酵」は深く考えさせれらる。

「発酵」は一見「アナログ」で「ナチュラル」に聞こえるが、すべてがそうではない。多くの場合は「ひとつのターゲット物質」を最大化するために、工業的に環境を整えている。

アルコール発酵ならアルコールを短期間で最大化するため、厳選された麹菌を使う。消費者の受けはよくないが、遺伝子組換え麹菌だって存在する。

工業的に作るヨーグルトは、厳選された1株に負うことになる。おかげで最短期間でヨーグルトを出荷できる。しかし、ブルガリアの一般家庭のキッチンでつくられるヨーグルトは、雑多な菌が含まれる。この差が「ナチュラルな発酵」になる。

じつはこのような家庭で行う発酵では何が増えているか分からない。このような家庭発酵を嫌う専門家は多い。試しに、「紅茶キノコ(家庭で培養する」をネットで検索すると、注意喚起する専門家の意見を目にする。

実は、このコントロールされない発酵が、免疫には良いのだ。

狼少年にどこまで付き合う?

発酵物は概して免疫を上げる。それは生物は病原菌(病気をおこすばい菌)と日和見菌(病気をおこさない)を厳格に区別することができないからだ。

そこで、パターン認識(「PAMP」と呼ぶパターンがある)で、悪者かどうかを判断する。悪そうな顔をしていると、実際に悪くなくとも、免疫を発動させる。

発酵物に含まれる菌そのものが、パターン認識にひっかかる。生菌でも死菌でも免疫が反応するので、生菌にこだわる必要はない。それに菌がつくった代謝物もパターン認識にひっかかるようだ。

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発酵物が体に入ると、免疫は「オオカミが来たぞ、免疫をあげろぉ!」と反応してくれる。

免疫も馬鹿ではないので、何度も呼ばれると反応しなくなる(免疫的寛容)。データがあるかどうか分からないが、ある免疫学者は「ヨーグルトはいろんな種類食べた方がいいよ」と話してくれた。

自然下の発酵では菌の種類が多い。それに、時期によっても菌の種類が変わる。いつも味が微妙に変わるため、飽きがこない「母の味」のようなもので、免疫はずっと反応してくれる(僕の仮説です)。

皮膚のケアも

免疫を良くしてアトピーを改善したのは事実かもしれないが、すべての人に効くわけでもない。

犬にもアトピーが多く、プロバイオティクスで改善しようとする研究グループがあったが、志半ばで諦めてしまった。医薬品のように統計的有意差がでなかったのだ。

彼らは「免疫的アプローチでアトピーを改善するのは無理だと思う。かわりに皮膚のバリア機能を高めるほうが良い」と断言していた。

アトピーは菌感染が怖いので、清潔にするため良く洗っていた。しかし、最近では過剰な洗浄は控えるようにアドバイスされる。

汗や皮脂にはバリア機能をつくる成分が含まれている。それに、ボディーソーブのように強い界面活性剤で洗うと、成長途中の皮膚が剥がれてしまう。同じように熱いお風呂も皮膚を剥がす。

研究グループは保湿剤や皮膚の再生機能を高める素材をつかい、アトピー性皮膚炎を改善しようとしている。

秋桜子さんに尋ねてみると、ボディーソープをやめ、昔ながらの石鹸(油を溶かす力は弱い)に変えていたということだった。

アトピーは君の一部

アトピーの原因はひとつではない。改善方法もひとつではないだろう。アトピーが体質として、ずっといっしょに生きていく人もいるのだと思う。「毛が濃い」とか「ブツブツがある」とか、「あざがある」とか。そのような体質と同じように、アトピーを考えることもできなくはない。

すると、「アトピーを治す」という言葉に違和感が生まれる。

子どもがひどいアトピーで、親が必死で治そうとする。食事制限をして、子どもがやせ細っていったり、お菓子を食べられず、友だちに疎外感をもったり。

必死な親をみて、子どもが申し訳ない気持ちを持つこともある。「わたしが病気だから、ママがあんなに苦労している」と自分を責めることもあるだろう。逆もまた然りで、自分を責める親もいることだろう。

そういう人にとって、「アトピーも君の一部なんだよ」と言われることは、心が楽になる福音のような気がする。

秋桜子さんが「健康でないと、人生が制限される。健康じゃなかったから、健康の価値が分かる」と話してくれたとき、僕はアトピーが彼女の人生を形作ったんだなぁと感じた。彼女の魅力も、深い洞察力も、アトピー経験が影響している。「アトピーは彼女の一部」だったんだと。

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「アトピーといっしょに生きていく」という開きなおりも「アトピーの自然療法」のひとつなんじゃないかなぁ?と思う。

病気を克服すること

「アトピーの自然療法」について書いてきた。「病気の克服」には、ふた通りの意味がある。ひとつは西洋医学的な解釈で、「発症しないこと」「再発しないこと」だ。

もうひとつの「克服」は「自分の将来を左右されない」ということ。医学的には治っていないかもしれないが、病気が自分の考えや幸せに影響を与えなけらば、「克服した」と言える。これは「自然療法」的な解釈だと思う。

バリバリの研究者がその解釈を聞くと、「なにをそんな非科学的な」と感想をもつと思う。しかし、結局のところ、ぼくたちの人生の目的は、幸せになることであって、病気を治すことではないわけだから、アトピーのことを気にならなくなれば、「治った」と言っていいんじゃないかなぁ~


*”Fermented Morinda citrifolia (Noni) Alleviates DNCB-Induced Atopic Dermatitis in NC/Nga Mice through Modulating Immune Balance and Skin Barrier Function” 

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