「ひとと動物の絆の心理学(中島 由佳/ナカニシヤ出版)」を読みました。
「ひとと動物の絆の心理学(中島 由佳/ナカニシヤ出版)」を読んだ。面白かった。むかし飼ってた犬のことを思い出した。動物を唯一の理解者にする暮らし方は怖いな、とも思った。
著者の中島さんは心理学者だ。犬が大好きだそうだ。いまでも悲しいことが起こると、むかし飼ってた犬の名前を叫んで心境を打ち明けるようだ。死んでからも頼られるなんて、中島さんにとって犬の存在はなんて大きいんだろうと思った。
中島さんはこの本の中でたくさんの心理学の研究を引用して、次の問について語った。「どうして人は動物と暮らすのだろうか。動物は私達になにを与えてくれているのだろうか」。つまるところ、私たちがいわゆる動物―ここでは伴侶動物のこと―との絆をどのようにしてつないでいるのか、そもそも絆とは何なのかについて考えることが、この本のテーマだと言える。
中島さんの主張はこうだ。
人は日常的に、大なり小なり心を病む。心を病んだ人は心境を誰かに打ち明けることで痛みを和らげることができる。動物は人語を喋らず、人の態度や行いにいちいち指摘することもないから、心境を聞いてもらうには最適の相手なのだという。また、動物は人から水やエサを与えられないと生きていけない。逆に人は、水やエサを与えることで自分が動物に必要とされていることを自覚し、自己肯定感を高めるのだという。これが心の健康に良いそうで、僕も身に覚えがあったので納得できた。
こうした「動物のご利益」は科学的にも裏付けがいくらか取れているらしい。なんでも、動物を飼っている人のほうがそうでない人に比べて、通院の回数が少ないらしい。また、友達がそばにいるときよりも愛犬がそばにいるときのほうが、人間の作業効率は上がるのだという。ぼくは犬のそばで勉強などをしたことがないのでピンとこなかったが、台風のときに犬と一緒に過ごすとホッとしたので、そういうこともあるだろうと想像した。他にも、飽きが来ない変化に富んだ生活が心の健康に良いという理屈から、予測不能な行動をとる動物と一緒に暮らすことが心を癒やすという考え方もあるそうだ。
ここまで読むうちに、アニマルセラピーという言葉を思い出した。中島さんが説くような理論があるから、アニマルセラピーが必要とされ、セラピストが職業として成り立つのかもしれないと思った。なんとなくそうなんだろうと思っていた筋道がぼくのなかで裏付けられたので、すこし嬉しくなった。
本を閉じて、自分について考えてみた。
僕も小さい頃から動物が好きで、なぜかと他人に聞かれたら「癒やされるから」と答えてきた。動物と一緒にいるとホッとするし、両親が喧嘩している家から犬と一緒に逃げ出したこともあったので嘘をついたつもりはないが「癒やされるから」という答え方は心からの言葉ではなかった。答えを言葉にすることができなくて、テレビのマネをして言っただけのつもりのものだった。
この本を読み終え、今の自分についてあらためて考える。まず大切なことは、一般の人と、今の自分とで「動物の分け方」が全く異なることを自覚することだ。一般の人は、動物といえば「伴侶動物」と「動物園動物」を思い浮かべる人が多いと思う。
これに対して僕は、大学院で野生動物の研究室に属していたり、自然ガイドをやったりしているので、一般の方との感覚が大きくズレている。今の自分は動物を「伴侶動物」と「動物園動物」と「野生動物」と「家畜」と「その他」に明確に分けて認識している。この本を読み始めるときも「動物って、”どの動物”よ?」と思った。この感覚は、良し悪しはさておき、一般の人とはズレている。
ズレている感覚を強引に合わせてみようと思う。
この本に登場する伴侶動物を「人間と一緒に暮らしていて、人間の世話を受けていて、飼い主である人間の日常に最も頻繁に登場する動物」と言い換えてみる。この伴侶動物発見機で自分の暮らしを覗いても、すべてに該当する動物は見つからなかった。だけど、世話こそしていないけどぼくの生活圏に居て、日常に頻繁に登場する動物といえば「野生動物」だ。
ではあらためて、「なぜ(野生)動物が好きか」と自分に聞いてみる。近頃は、仕事で嫌なことがあると積極的に森へでかけて一人でキツネを眺めたり鳥の鳴き声を聞いてきた。間違いなく「癒やされている」ので、これは僕が動物を好きでいる理由のひとつなんだと思う。一方で、かたくなに「それだけじゃねーぞ!」と主張する自分の声が聞こえてくる。だいたいの動物は臭いし、感染症を持っているし、中には人間社会に迷惑を掛けるヤツだっている。それでも動物が好きなのは、癒やし以外の理由があるからだ。うまく言葉に出来ないし、言葉にするのが無粋とも思える不思議な理由。「ワケわからなくて、いろんな味がする存在だから」。いまはこの答えで茶を濁したい。
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