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猫捕まえちゃった

当時,僕の住んでいた実家は周りを田や小川に囲まれた,まるで田舎を絵に書いたような場所にあった。

実家の裏山にはキジがいたり,畑に大型の野良犬がやってきたこともある。あと猿がいればいつでも鬼ヶ島に鬼退治に行ける。

そのような環境だから,当然ネズミが出て,悪さをする。

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夜になると天井の上でカサカサとネズミが動く音が聞こえて来る。たまにネズミと猫の追いかけっこ,通称「トムとジェリー状態」が夜通し行われることもあった。

机の上に置いていたパンをかじられたこともあるし,三角コーナーの中にあったリンゴの皮を,キッチンの床に引きずり出されたこともあった。

実家の蔵にはお米を保管しているが,ここにネズミが出没してお米を食べたりもしていた。

余談になるが,この蔵の中には石臼も保管していた。畑には柿の木があったし,用水路にはカニ,軒先にはハチの巣もあった。あと猿がいれば,いつ「さるかに合戦」が起こっても不思議ではない。

さて話を戻してネズミがたくさんいるということだが,人間もこの状態を指をくわえて見ているだけではない。

ちまたには「ネズミホイホイ」なるものがあるらしい。なんでも「ゴキブリホイホイ」のネズミ版で,一度その粘着質に足を踏み入れたネズミは,そのまま囚われの身となってしまうらしい。

ネズミの害に悩まされていた我が家もとうとうその新兵器を導入した。その効果は絶大で,ネズミが取れる取れる。まだ子供だと思われるような小さいものから,ちょっと目を疑うくらい大きなものまで…。

実際に粘着質にくっついて身動きの取れないネズミを見ると,可哀想な気もしてくる。人間のエゴで勝手に害獣とされ捕らえられる。しかしさまざまな病気の媒介者でもあるネズミを野放しにもできない。

そんなこんなでネズミを駆除していたが,ある日おかしな光景に出くわした。ふと庭を眺めていると,黒い猫が現れた。クロちゃんという名の,我が家の猫であった。クロちゃんです!(あなたが出せる一番高い声で。)

そのクロちゃんの左脇辺りになにか四角いものがひっついていた。

当のクロちゃんは全く気にするそぶりもなく悠然と歩いていたが,違和感がすごい。

近づいて見てみると,クロちゃんについていたのはネズミホイホイだった。ネズミはくっついていなかったが,猫のクロちゃんがくっついてしまった。

正直この光景を見てちょっと笑ってしまった。ただクロちゃんのためにもネズミホイホイを外さなければならない。

最初は正攻法でふつうに取ろうとしたが,ネズミを捕らえるだけの粘着力はハンパなく,どうも取れそうにない。

クロちゃん動じない。僕焦る。

次に水で濡らしたら粘着力が落ちるのではないかと思い,手を水で濡らしながら,取ろうとした。少しは効果があり,進展はあるが,なんせクロちゃんの体にホイホイはべったりとくっついている。この方法も解決策とはならなかった。

クロちゃん動じない。僕また焦る。

最後の手段として,クロちゃんには申し訳ないが,くっついているところの毛を少し切らしてもらうことにした。さすがのクロちゃんも少しムッとしていたが,許してくれた。

少しずつ少しずつ毛を切っていく。少しずつ剥がれていくホイホイにはクロちゃんの毛が取り残されていく。ようやく最後の毛を切ってホイホイが外れた途端クロちゃんは走ってどこかに行ってしまった。

クロちゃん走り去る 僕ほっとする。

その日再び見かけたクロちゃんの左脇には枯れ葉がたくさんくっついていた。








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