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「此の手の中に有るのは 林檎に擬態させた アナタの心臓よ 深い眠りにの中に居たから 心臓が失くなった事など 気付きもしなかったでしょう?」 と、炎に照らされ 表情を露にした女が 私に云うのだ
亀裂は塞がれ 罅割れは縫合された 林檎が出れぬ程の 小さな出入り口に 鼠は姿を消した 小さな鼠の身に 見合わぬ程の強欲さ 残ったのは 鼠が齧った 転がり出された林檎だけ
壁に歪みが生じ 亀裂の隙間から 転がり出たのは 1個の赤い林檎 壁の中には 美味しそうな 熟した林檎が 隙間も無く 沢山見える 鼠は出て来ぬ 他の沢山の林檎を 見上げ様子を伺い 考えをめぐらせる 転がり出た林檎は 戻される事なく 其処に有る
少女は 赤い林檎を 憂いの表情で見ては、 「此れは、 まるで人間の心臓の様ね」と、 少女は言う 傷が無い採れたての林檎 時が経ち朽ちた林檎 人の手で変形した林檎 其れぞれに姿や形で 此処に来るまでの 経歴が見て取れ 生き様に思える 少女の前に 赤い林檎が並べてある