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『ワンダーエッグ・プライオリティ』における「傷」のカタチ



卵を割って、セカイを変えろ。


そんなキャッチコピーから始まったアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』。自殺を選んだ少女。そんな少女を生き返らせるため、次々とエッグを割っていく。

ざっくり申し上げますと、「死」というテーマが付きまとう作品でございます。

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本作において登場するメインキャラクターは「大戸アイ」「青沼ねいる」「川井リカ」「沢木桃恵」の4人です。

親友にファン、そして妹。
死んでしまった大切な人を生き返らせるため、謎の声に導かれるまま、地下の庭園で「エッグを買い」「エッグを割り」、「エッグの世界」で「エッグから現れる少女たち」を救済する ── そんな物語です。

この「エッグから現れる少女たち」は自殺者であり、メインキャラクター達が生き返らせようとしている人もまた自殺者です。
そして、自殺してしまった大切な人たちの「死」を体に刻むかの如く、メインキャラクターには「傷」が刻まれているように思えるのです。それが心の傷として残っているのは勿論のこと、キャラクターの外見にも「傷」として表れているのです。


たとえば、川井リカは腕に自傷痕を残しています。
地下アイドルだった彼女には1人の女性ファンがいたのですが、このファンを自殺に追い込んでしまったという罪悪感から自傷行為を行ったのでしょう。リストカットではなく、あえて腕に...アイドルとしての矜持が感じ取れる設定ですね。

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そんなリカのファンは自殺という選択をしたものの、リカが述べるように結局それは「自分の責任ではない」。

原因は自分かもしれないので罪悪感は感じるが、死んだのは自分の責任じゃないのだから、わざわざ危険を冒してまで生き返らせる必要もない。そもそも、自殺した人間が生き返りたいと思っているのか。

だから「もう辞めねー?エッグ買うの。」とリカは諭します。

ファンを生き返らせたいというのは小芝居だったのかと揶揄され、リカは「違う!女だから。その時その時で感情が爆発するだろ?」と答えます。ファンと同様にアイやねいる、桃恵といった新たな友達を失いたくないという気持ちがここに伺えます。今こうして友達と楽しく過ごせているのに、わざわざ危険なことをしないといけないのか…というわけですね。これもまた、友達を慮ろうとするリカなりの本心なのでしょう。そして、これ以上「傷つきたくない」という恐れも感じます。


一方、青沼ねいるは背中に殺傷痕を残しています。これは妹に背中を刺されたときにできた傷です。妹はねいるを刺したあと、逃げて橋から飛び降り自殺してしまいました。

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どうして危険を冒してまで生き返らせようとするのか、自殺するような身勝手な奴のために...そんなリカの問いかけに対し、ねいるは自分のためだと答えます。
エッグの世界へ行くことで背中の傷が和らぐ...それがエッグを割り続ける動機というわけです。

第5話でエッグから現れた少女は「なぜ死なないの?」とねいるに問いかけます。そして少女は、次のように語り始めます。

美しさはメタモルフォーゼする一瞬の季節。生から死もそれよ。美しい肉体を自ら殺すこともメタモルフォーゼ。醜く老いていくのも、老いに抵抗するのもまるでコメディ。


老いを忌み、最も美しい年齢で自殺を選んだこの少女に対し、ねいるは次のように答えます。

別に。ただあなたにムカついたの。本当は後悔しているんでしょう。だって、もう誰も「綺麗だ」って言ってくれないから。

ねいるが導き出した「死」に対する答えは実にシニカルであり、死へと誘惑した自分の妹とこの少女を重ね合わせているのです。

自分の妹は死の魅力に憑りつかれ、それに自分も誘われた。
ねいるはこのように考えており、エッグの世界で戦っているときだけは背中の痛みを感じない。背中に「死」の爪痕を残されたねいるにとって、この瞬間だけは「死」を忘れることができるのでしょう。

また、妹を生き返らせることで、自分を「死」へ誘おうとした妹の「度肝を抜いてやる!」とねいるは考えているのではないでしょうか。

エッグを割る──。ある意味でそれは、ねいるにとって妹への「復讐劇」であり、少なくともリカとは動機が異なっているように思います。
だからこそ、彼女たちがすれ違うようなワンカットを第5話終局に持ってきているのでしょう。今後の展開を匂わせる上手い演出でした。


同じ「傷」を負う仲間同士であっても、その「傷」のカタチはそれぞれ異なるのかもしれないですね。


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