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and recipe 小池花恵さんの場合

ぼく(大塚)がその人の存在を知ったのは京都高倉六角にあるワインバーのカウンターで写真家の幡野広志さんとイタリア産赤ワインを飲んでいる最中だった。

「最近、ぼくにマネージャーがついたんです」

幡野さんとはじめてお会いしたその夜、ぼくらは夜中2時までワインを飲んで語り合った。

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(撮影:幡野広志)

それ以来、幡野さんとお会いするときは大概、仕事終わりにワインを飲み行く流れになっていた。

幡野さんの話では、新しいマネージャーさんは以前ほぼ日で勤務しており糸井重里さんのマネージャーをしていたとのこと。そして、糸井さんの前は吉本興業で人気お笑い芸人を担当していたかなりの敏腕女性マネージャーらしい。

「小池さんがいてくれるおかげでだいぶメールのやり取りが楽になりました」

幡野さんは続ける。

「本当にメールとか苦手なんですよ。糸井さんからのメールにも返事を忘れることがあります」

ぼくは声を出して笑った。

実際、幡野さんからのメールの返事はすっごい遅い。(笑)

マネージャーさんがついて幡野さんとの連絡が取りやすくなることはとてもいいことだと思った。

とはいえ、敏腕マネージャーということでぼくは若干構えた形で小池さんを知ることになった。

嬉しいことに幡野さんとはその後、トークイベントで何度も顔を合わせることになった。また、一緒に飲む機会も増え、頻繁に連絡をとった。

幡野さんに送るメールには必ず cc で小池さんをつけた。

まだ会ったことのない小池さんは毎回きめ細やかで、全方面に配慮のあるお返事をぼくにくれた。

短いメールの時もあれば長文の時もある。

小池さんは文章のボリュームに関係なく心のこもった連絡をくれる。

ぼくはメールの文面にいつも感動していた。

すでに医者として社会人として15年以上働いているけれども、こういう仕事のやりとりが出来る大人になりたいと思った。




その後、幡野さんとはイベントでご一緒する機会があるものの、マネージャーの小池さんには会うチャンスがなかった。

一度だけ、会い損ねたことがある。

医療マンガ大賞のアフタートークイベントに小池さんも来ていただける連絡をもらっていた。

しかし残念ながら、仕事の都合でそこでも会うことができなかった。

仕事ができてこんな素敵なメールを書ける小池さんとは一体どんな人なんだろう。

ぼくはすっかり小池さんのファンになっていた。幡野さんから小池さんの話を聞いて1年以上が経過していた。



2020年1月、ぼくは3冊目に出版する本の打ち合わせで東京に来ていた。

ちょうど同じ出版社から浅生鴨さんが本を出すということで、鴨さんと幡野さんのトークイベントに参加するために青山ブックセンターを訪れた。

本屋の入り口に差し掛かったところで、小走りで目の前を通り過ぎる幡野さんと一人の女性を発見した。

「あ、幡野さん!」

ぼくは少し大きめな声で呼び止めた。

「ああ、大塚先生」

幡野さんの声はいつも優しい。たとえそれがトークイベント開始直前、慌てて控え室に向かっている最中でも。

「大塚先生、糸井さんもいらっしゃってますが控え室にどうですか」

一緒にいる女性が声をかけてくれた。どうやらぼくの顔と名前を知っているようだ。

きっとこの人がマネージャーの小池さんなのだろう。

幡野さんと女性との距離感から、ぼくは直感的に読み取った。




控え室に着くとすでにそこには糸井さんと鴨さんがいた。

お二人とも会うのは初めてだ。

そこに古賀史健さんと燃え殻さんもやってきた。

ぼくは正直テンパった。

ここでどれくらいぼくがテンパっていたか説明しておく。

ぼくはB'zの熱狂的なファンだ。職場のデスクにはB'zのグッズが並べられているし、当たり前のようにファンクラブに入っている。コンサートは同じものを1ツアー2、3回は見に行く。

そんなぼくにとっての糸井さんは B'z の稲葉さんとニアリーイコールの存在だ。

もうかれこれ20年近くほぼ日刊イトイ新聞を読み続けている。

ほぼ日の糸井さんの言葉に大きな影響を受けてきたし、ほぼ日に掲載される糸井さんの対談はいまだに何度も読み返すことがある。

ほぼ日のサイトにアクセスするということはぼくにとっての日課であり、ほぼ日を読むということは B'z の音楽を聴くのと同じぐらいぼくの日常になっていた。

小池さんらしき人が声をかけてきてくれた。

「糸井さん、大塚先生です」

憧れの糸井さんを目の前にして、ぼくの緊張は限界を超えた。

「初めまして大塚といいます」

小池さんらしき人が助け舟を出してくれた。

「大塚先生はずっと糸井さんのファンだったらしいですよ」

ちがう、緊張しているぼくにとってそれは助け舟にはなっていない。

「ああ、大塚先生」

糸井さんの口からぼくの名前が出てきた。どうやら糸井さんは Twitter でぼくのことを少しは知っていてくれたようだ。

嬉しいのと緊張の限界を超えたのとでぼくの頭は混乱した。

「糸井さん、ずっと見てました。徳川埋蔵金」

違うだろ。思わず自分に突っ込んだ。

まずはじめに糸井さんに伝えるべきは、ぼくが20年近いほぼ日の読者であるということだ。

それからジブリのキャッチコピー。トトロでのお父さん。

くうねるあそぶ、ミッケの翻訳、Motherだってある。

冷静に振り返れば伝えたいことはいくらでもあったはずだ。

少なくとも徳川埋蔵金ではない。

お前は B'z の稲葉さんに初めて会った時に短パンの話を持ち出すのか?


幸い、糸井さんは優しく笑ってくれ、ド緊張のぼくは救われることになった。

ぼくは少しだけ冷静さを取り戻し、有名人が集まったその場で唯一の友達の幡野さんに確認した。

「さっきのが小池さんですよね?」

「ああ、そうか。大塚先生、小池さん初めてでしたよね」

よかった。

なにが良かったかわからないが、オールスターが揃う緊張の控室でぼくは一歩前に進めた気がした。



幡野さんと鴨さんのトークイベントでは、糸井さんとほぼ日の永田さんの隣りに座って聞かせてもらった。

緊張しすぎてお二人の話の内容はほとんど覚えていない。

かろうじて、鴨さんが

「カルロス・ゴーンが隠れた楽器ケースの気持ちになってみた」

というパワーワードだけは覚えている。

トークイベントの後の打ち上げにも参加させてもらった。

蕎麦屋のテーブルでは、隣に糸井さん、目の前には鴨さん。

古賀さんも燃え殻さんも永田さんながしまひろみさんもいる。

幡野さんだって、ふだん仲良くさせてもらっているが実際にお会いするときは緊張する。

そんな幡野さんは、ぼくとトークイベントする前はいつも「緊張する」と言ってくれる。

ぼくの緊張を知ってか知らずか、自分も緊張してますと伝えてくれる幡野さんは優しい。

とにかく、みんなキラキラしていてオーラが出ている。豪華すぎるメンバーだ。

しつこいようだが、あの時の心境をみなさんにわかりやすく説明しておこう。

あこがれの B'z に会えたと思ったらその会場には TM NETWORK までいた。

そんなミュージックステーションの舞台に間違って上がってしまった感じだ。

Get wild and toughだ。



別れ際、糸井さんが「大塚先生また!」と声をかけてくれたのがこれまた嬉しかった。

ふわふわしながら東京のホテルへと帰った。

夢のような一日だった。

会いたかった人たち全員に一度に会えてしまった。

糸井さん幡野さん鴨さん


京都に帰ってからもしばらくは蕎麦屋の夜を思い出してニヤニヤしていた。

数日後、うれしいことに、小池さんから幡野さん写真展と糸井さんとのトークショーへのお誘いをいただく。

そこでまた、みなさんとお会いできる。

やった!

しかし、小池さんと写真展の会場でお会いする約束をしたとき

ぼくは大きな問題に気がついた。

いろんな人に会いすぎて大事なことを忘れていた。

というか、大事な人の顔を覚えていない。

やばい、小池さんの顔を思い出せない。

(後半に続く)



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