地方でSaaS導入支援会社を起業して3年、階段から降りられなくなった(中編)
twitterでいろんな人に見てもらえて驚いた。そして賛否両論あり、良いフィードバックが得られた。できるだけ呟かれていたことにも返事になるよう、つづきを書いていく。
思いがありすぎて、どうしても長くなってしまったので、今回のnoteを「中編」として公開した。後編は頑張って2、3日以内には投稿したいと思うので、ゆっくり待ってもらえると、嬉しい。
故郷に帰りたい私を、帰らせない私がいて
私はそもそも田舎出身だ。広島県の神石町(現・神石高原町)のという小さな町の生まれである。合併前の旧町村単位での現在人口は、1800人ほどだ。
町の人口の50%以上が65歳Overの、消滅可能都市"。小学校の同級生は、私を含めて4人だけ。複式学級といって、2学年が1クラスで同時に授業を受けた。ゲーセンも、カラオケも、吉野家も、電車ですら、大学生で初体験した。
学校の校庭の中には、綺麗な川が流れていた。
休憩時間になると生徒は駆け出し、靴下をぬいで、魚取りや昆虫採集にはげんだ。綺麗な河川で、カジカガエルが鳴く中で授業を受けていた。
今は、全てが、無くなった。
保育園、小学校、中学校すべて廃校になった。地元に帰るたびに、「閉店」の文字が溢れ、加速度的に人口は減り、町からは明かりが消えていく。光が消えていくことは、言葉にならない苦しさがある。
私が地方ビジネスにこだわる理由は、このおぞましいまでの「なんとかして、光を灯したい」という原体験にこそ、ある。
SaaSビジネスのお客はどこにいるのか?
地方でSaaSの普及に課題を感じ始めて以降、ビジネスモデルに悩むようになった。
SaaSコンサル会社として、自社のマネタイズを出発点に考えれば、
・お金を払ってくれる、従業員がある程度いる法人(従業員20名〜)
・ITリテラシーがある程度高い会社(PCワークが中心の事業)
・事業拡大中で業績が伸びている会社
を顧客にすべきだろう。
つまり、SaaSが売れそうなエリアや、業種に最初から絞って営業すればよい。課題を聞いてSaaSで気づきを与えながら提案なぞしなくても、最初からハマりやすいマーケットを選べば楽だ。
元から求めている人に売る。
そうだ。顧客を、選べばよいのだ。きっと、そうだ。
・・・
そして戦略を練った。どういったところに「顧客」は居るのか。しかし、
何度考えても、
何度ロジックを詰めても、
何度思考を繰り返しても。
都市圏へ、戻ろうか。
という言葉が脳裏をよぎった。
「お金・マネタイズ」の奴隷
本気で私は悩んだ。
苦しんでまで、地方でSaaSの普及をやる必要はあるのだろうか。
東京に戻れば、今のようなパソコンの電源の入れ方から、iPadの音量調整の仕方から教えないといけないマーケットから"逃げられる"のではないか。
今思えば、当時は冷静な判断ができていなかったのかもしれない。多い時は、1日で8アポ、訪問支援と新規営業をこなした。土日を返上して、クライアントの対応、メンバー向けのマニュアルの整備等に奔走した。
だんだんと社員や家族に対する当たりが強くなってしまった。
経営者である以上、社員を食わせていかないと、というプレッシャーはすさまじかった。寝ても覚めてもお金の事を考え、必死だった。いつしか、会社の目的は食わせるために、お金を稼がないといけない、というなんともお恥ずかしい、悲惨なものになっていた。
・・・
そして、その日は来た。
お客様からのかなり酷いクレームが3件、立て続いた翌週、
私は朝、階段を降りることができなくなった。
生まれて初めて、
私は無断欠勤をした。
私は、私の会社に行けなかった。
ただ、SaaSが大好きだった
最初の数日は何も出来なかった。なんとか階段を降りて、ご飯を食べて、また長い眠りにつく、を繰り返した。
しかしこの時、よいことが2つあった。
1つ目は、チームメンバーが爆速で成長した。
私がいたときは、いつも小言のように口出しをしてしまっていたのだが、私が不在になると、私の想像を遥かに超える速度で成長した。
これは大きな気づきだった。任せることと、人の成長は大きく相関する。
そしてもう1つ良いことが、自分自身の原点に立ち返る余裕が生まれたことだ。
なぜ起業したのか、をよくよく考えてみた。そもそも、私は儲けたくて起業したわけではない。「これってお金になるか?」という所から出発するから、おかしなことになる。そもそも、儲け、というのはビジネスの最終成果物である。
「このままでは、SaaSが地方で普及しない」
という強い原体験と信念があったからこそ、起業したはずだ。
私は、「日本社会にSaaSが普及してほしい」
という純粋で混じり気のない願いに、立ち返ることにした。
新規営業を、辞めた
SaaSマーケットは、まだ未成熟である。受け入れるだけの企業の土壌も、理解も、体制も整っていない。導入支援だけをつづけていく今のビジネスはまだ時期尚早だと結論づけた。
まだ、私たちにはマーケットを育てるという、畑作りが必要だ。
コンサルティングをする前に、まだやることがある。
まず私は、焦って売り上げを伸ばすためだけの新規営業をやめた。今現場は、既存のお客様のサポートに専念している。大きな決断だった。キャッシュはあるといえど、売り上げは一瞬にしてガクンと減った。
正社員2名と私含めた役員2名、計4名で、再出発した。
既存の案件は従業員に任せている。しっかりと成長してくれたため、安心して背中を預けている。
そして、私は再出発に向けて準備をはじめた。今度は焦らずに進めたいと思う。何よりもまず最初に私は、「お金、マネタイズからの出発」を、辞めた。
なんだそんなことか、と思うかもしれないが経営者としてこれはものすごく大きな決断だ。そして出発点は「SaaSが普及してほしい」という、ピュアな感情から、全て組み直した。
ゆえに、一切儲からないことから出発するし、儲かるかどうかも、一切わからないところに進んでいく。
しかし、心はこんなにも晴れやかだ。
私がやることはただ一つである。
SaaSマーケットの異常性と真正面から向き合い、
「"なめらかな" SaaSマーケットを作る」
思いはシンプルになった。
後編では、SaaSマーケットをどうやってなめらかにしていくのか、公開したい。
<後編へつづく↓>
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