見出し画像

【Column】「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!! キセキかもしれないレゾナンス」サンリオVfesにて公開 観覧無料の贅沢コンテンツ

 2024年2月19日から3月17日まで、VRSNSであるVRChat上にて株式会社サンリオ主催の「SANRIO Virtual Festival 2024」が開催された。
今回は3月24日と3月25日にタイムシフトで視聴(来場)が可能なコンテンツの一つである「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!! キセキかもしれないレゾナンス」について、3月24日時点で視聴した内容を記載していく。
断りを入れさせて頂くと、筆者は「SHOWBYROCK!!」「SHOWBYROCK!!ましゅまいれっしゅ!!」のどちらも未視聴である。
ゲームアプリもあるとの事であるが、こちらも未プレイの為、株式会社サンリオの展開するこの手のコンテンツに対して完全初見でのレビューとなる事をお許しいただきたい。
子供の頃にバッドばつ丸が好きで名前を覚えていたくらいのレベルであるといえば、おわかりいただけるだろうか。


あらすじと随所に煌めく音楽性

 イベントが始まる前に、サンリオの各キャラクターと株式会社ベルクのマスコットであるベルクックちゃんを交えた「はぴだんぶいとベルクックのサンリオVfes限定コラボバンド」が行われる。
ショートプログラムである演奏の終了後、アナウンスとともに参加者はライブ会場へと転送されることになる。

 転送先の巨大なライブホールでは、4人組のバンドである「Mashumairesh!!」がライブを開始させる直前の状況だ。
温まった会場に響くアナウンスが終わると共に、メンバーである4人が登場。アニメーション作品である「SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!」の主題歌「ヒロメネス」を演奏。
会場のボルテージが高まる中で、突如巨大な影が舞い降りる。
何やら不穏な空気が漂う中、乱入者は漆黒の光線を放ちMashumairesh!!をステージごと消し飛ばそうとする。
そこでメンバーの一人「デルミン」もビームを発射し拮抗、ステージがまばゆい光に包まれる。

 転送先の場所で意識を取り戻す4人、そしてそこに横たわる謎の人物。
自分の名前を含め一切の記憶を失っている彼女に、たまたまライブ前に立った茶柱から「茶柱さん」という愛称を付けて5名は交流を図る。
しかし「ギター」というキーワードで状況は一変。突如苦しみだす茶柱さんと、またしても現れる巨大な黒い影。
見れば転送先の会場内には、灰色の地面に無数に突き立てられたギターのネックが所狭しと生えている。
半ば墓標の様にも見えるそれを暗示するかの様に、巨大な影はこの空間について「キミが望んだもの」であると語りかける。

 ここでこのイベントのタイトルにもある「SHOW BY ROCK!!」の世界観についての説明を補足すると、MIDI CITY(ミディシティ)という音楽都市で、ミューモンと呼ばれる音楽生命体たちがバンドを組み音楽活動をしているという背景がある。
音楽生命体という名の通り、彼ら彼女らは「音楽が大好き」という特徴を持つ。
だが様々なきっかけで「音楽が大嫌い」になってしまった時、その心の闇とも呼べる側面からモンスターが生まれてしまう事もあるという。

 巨大な影はこの空間を、茶柱さんが望んだ「一人になりたい、音楽が嫌いになってしまった自分」が望んだ「心の世界」だと語りかける。
更に謎の力で中心となるメンバー「ほわん」だけを謎の空間に隔離。その心を暗い言葉でじわじわと追い詰め、自信を喪失させようと策を弄する。
しかしそこでくじける事もなく、立ち上がろうとするほわんに繰り出される一撃。


 なんとそこには残り3名のメンバーが颯爽と登場。
心の世界である以上、自分たちのポジティブさや明るさといった前向きなエネルギーもまた力となるものであり、それを通して各々が一丸となって巨大な影の攻撃―――すなわち音楽に対するネガティブなエネルギーを受け止めたのである。
歌い始めるMashumairesh!!の熱意に合わせて徐々に荒廃していた世界は収まり、そして色を取り戻していく。
そんな彼女たちは「No problem!!」を歌い上げて巨大な影を浄化するまでに至り、茶柱さんはその刹那に巨大な影に優しく語りかける。
「ずっと、守っていてくれたんだね」という言葉の後に見える女神とも言える神秘的な姿こそが、茶柱さんの抱える様々な音楽に対するネガティブな思考やマイナスなイメージを振り払った本来の守護者の姿なのだろう。


 そして全てが終わり、「エールアンドレスポンス」を歌った後の別れの前。
茶柱さんの本当の名前を聞こうとした瞬間に再度光に包まれ暗転。
その先には非常に近い距離で茶柱さんが舞台袖から登場し、続いてMashumairesh!!のメンバーと共に「プラットホーム」を歌い上げる。
この会場は最初のライブ会場とも、次の幻想的な世界とも異なる、現実の小さな小さなライブハウスをイメージさせる空間だ。
音楽を奏でる5人との距離も間近になり、本当に最前列で彼女たちを見る事が出来てしまうのである。


 最後の舞台は夜のネオン煌めく、最初のライブ会場へ。
ここでMashumairesh!!4名が楽曲を披露し、今回のコンテンツは閉幕となる。

圧倒的な「自然さ」とコンテンツ量

 さてこのサンリオVfes、VRChat上で展開されているものでありこれまで2021年、2023年と開催を経るにつれそのコンテンツ量は増え続けている。
その上でショープログラムである新規コンテンツとして登場したのが、今回の「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!! キセキかもしれないレゾナンス」(以降、公式通称のキセレゾと表記)である。
元々アニメーション作品である「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!! 」を下地にはしているものの、今回は完全オリジナルのストーリーとなっている。
そしてこのプログラムの何が凄いかといえば、演出まで含めた破綻のなさである。

 通常身体動作をこういった3Dモデルでモーションとして再現しようとすると、出来るだけ障害物を置かずに身体の動きを取り込む事が推奨される。
ところが楽器演奏のような、一部箇所に物を配置してその動作を取り込もうとする場合はその見えなくなってしまった部分も合わせてデータを設定しておかないと、あらぬ方向に関節が曲がってしまったりする様な挙動になってしまうケースがある。
ましてモーションを取り込もうとしている最中に楽器を持って自然に移動しそこにいるかの様にアクションをさせようとし、それを破綻なく実現させるとなるには相当の労力が必要となる。
このキセレゾ、特に最終盤のライブシーンで「ほわん」と「マシマヒメコ」が自然なコンタクトを取るシーンで、音楽ライブ中によくある「移動しながら演奏しつつ動作をする」という事をやってのけているのである。
それだけでもう技術力が凄まじく変態である。

 更に今回の3Dモデル、どのモデルも非常に出来がよく、その上でライティングがしっかりしているおかげでアニメーション作品の様な雰囲気づくりに成功している。
モデルの影の付き方次第で途端にリアル路線になってしまう3D表現において、アニメ絵の様なはっきりとした陰影を設定するのはモデル自体の表現も含めてこれまた非常に難しい。
特に衣服等の細かい造形では作り方次第で「にじみ」が出てしまう事もある中で、モデル本体の軽量化や動作の軽快さ、それでいてライティングも含めた演出に堪えうる設定に落とし込んでいるのは相当開発段階で試行錯誤したのではないだろうか。
なお演目中はおそらく全編通してリップシンク、つまり「喋る口の動き」が設定されている物と思われる。
アングルによっては見えなくなるであろうこの部分にも妥協をしない辺り、コンテンツとしての本気度が伺える。

 ステージ上の演出も徹底した見栄えの良さと軽量化が図られているのか、複数の会場が遷移し多くの演出が仕込まれている状況であっても非常にその動作が軽快なものであった。
これだけの豪奢なコンテンツを負荷なく楽しめるという調整ぶりに、視聴者としてはただ頭が下がる思いである。

好きなことを好きでいられるだけの情熱

 今回の「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!!」や、その前作品である「SHOWBYROCK!!」は過去のサンリオVfes内では単独のライブコンテンツは無い状況であった。
「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」内でのキャラクターライブ内にモデルとして出演した情報はあっても、キセレゾの様な単独公演に近い要素のものはこれが初めてである。
つまり「2024年のサンリオVfesのプログラムとしてSHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!!とSHOWBYROCK!!をフィーチャーさせたコラボレーションライブコンテンツを実現させよう」という方針が決定したという事である。
更に今回はタイトルコールやライブ中の様々な台詞は勿論であるが、おそらく一部の歌唱曲においても茶柱さんの歌唱パートなどで新録が行われている。
もちろん今回の公演に合わせてモデルも1から再調整し、1からモーションも設定して舞台を作り上げている。
それだけの巨大な熱量が惜しみなく注がれたコンテンツであるのだ。

 「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!! 」を含めたSHOWBYROCK!!シリーズは、アニメーション作品としては「SHOW BY ROCK!! STARS!!」が2021年にTOKYO MXで放送され、最近でも「SHOW BY ROCK!! 11th Anniversary~ずっともっとParty!!~」が2023年に開催されるなど息の長いコンテンツである。
息の長いコンテンツであるがゆえに、そのIPを保持しファンを魅了させ続けるには並大抵ではない企業努力が必要となる。
ファンが固定化してしまい新規層が増えない状況となってしまえば、コンテンツは緩やかに衰退に向かってしまう。
その為の大きなブレイクスルーとして、アニメーション作品さながらの演出と歌唱で魅せる今回のキセレゾが与えた影響は大きいのではないだろうか。

 そして劇中のモノローグの所々で挟まれる、音楽性の否定や自分の活動に対する諦観、そして何より自分自身が音楽に捧げる熱意を喪失してしまう事に至る刺々しい思いの数々は、創作活動を行う人間であれば経験した事がある方も多いものだろう。
そうした中で、自分たちの心をいつしか都合の良い誰か、何かに押し付けてしまう事の危うさと、本来の楽しさに立ち返る事の大切さを説く「エール」はまさにこういった長期化するコンテンツを「いかに愛し、いかに育て、いかに羽ばたかせていくか」というモデルケースとして見えてくるのである。
「自分は否定されるのが怖い」「その成功はたまたま上手くいっただけ」と慟哭する巨大な影の声と、「否定されようがその怖さも含めて乗り越えてきた」と結束で応えるMashumairesh!!のメンバーのあり方は、生まれようとする道行きの厳しさ故に今まさに嘆いている多くの人々に、個人として戦う以上に友情と絆を信じる事の大切さを改めて見せてくれるだろう。

 「SHOWBYROCK!! ましゅまいれっしゅ!! キセキかもしれないレゾナンス」は2024年3月25日、15時のタイムシフト公演をもって2024年のサンリオVfes内の公演を終える事になる。
この原稿を執筆している時点でもう残り僅かな時間となっているが、手元にいい感じの性能のパソコンがある方は是非一度VRChatの会場へ足を運んでみてはいかがだろうか。
きっと彼女たちの熱い生き様が好きになるかもしれないだろうから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?