見出し画像

居る日記:2日目(北林)

朝、なかなか起きられない。
窓の外からは、しとしと雨の降る音が聞こえた。
あー、やっぱり雨か。昨日の夜の天気予報は当たっていた。


おいしいコーヒー

悠加さんがコーヒーを淹れてくださった。
ドリッパーもミルも持参しているなんて!朝から贅沢な時間だった。

雨が降っていたので遠くへ行く気にもなれず、「その土地のことを知りたいならまず博物館へ行け」と誰かが言っていたことを思い出し、城崎文芸館へ。

麦わら細工は城崎の伝統工芸

企画展で並んでいた麦わら細工の展示に心を動かされる。
城崎で生まれ育った人が、城崎での暮らしの中から生み出し残していった数々の美しいものを、城崎で見ることができるのは本当に贅沢なことだと思う。

民芸品の美しさには、作る人自身がその土地に根ざしているからこそ滲み出てくる何かがあるように思う。まず最初に土地があり、暮らしがあり、その上で”作る行為”が存在している感じがする。

さまざまな麦についての記録


文芸館から出ると、雨は止んでいた。
悠加さんとは一旦別れ、ひとりで城崎の散策へ向かった。


謎の細長い石


目の前にあった小さな山の上に、細長い石が立っていた。
なんだろうと思って近づいてみると、鳥居が見えた。
上の方に神社でもあるのだろうか。


水玉に見えるけど全部ハートだった、お花の色との組み合わせが素敵


鳥居の横に並んでいるお地蔵さんたちの祠の前で、黒い服を着たおばあさんと黒いネコが座っていた。
こんにちは〜と言うと、こんにちはと返してくれた。
何をしているのか少し気になったけど、そのまま鳥居をくぐり階段を上った。上っている途中で、下の方からおばあさんとネコの話し声が微かに聞こえてきた。

山の上には神社があった。
細長い石の塔は、忠魂碑だった。

神社からの景色、カニの存在感


お参りし、円山川の方へ向かった。
なんとなく川の向こう側へ行ってみたかったのである。
地図で見る限り、建物もほとんどなく、温泉街エリアのように栄えている様子はない。

川の向こう側には、コウノトリの観測地があるらしい。
大きな橋を渡らなければならないのだが、歩道がない。

歩いていいのか少し迷ったけど、歩行者通行止の標識もないし、車のあまりいないタイミングを見計らって進んだ。白線の外側の、錆びついた手すりの側を歩く。落ちそう。

橋の上から見えた鳥と、折れ曲がったポール


無事に橋を渡り終え、しばらく歩くと湿地にたどり着いた。
ハチゴロウの戸島湿地という名前で、コウノトリの観測地になっている。
湿地をぼんやり眺めていると、雨がぽつぽつ降ってきた。

雨宿りもかねて、そばにあった観測小屋へ入る。

木製の椅子に座ると目線の高さに隙間があいており、湿地を飛び交う鳥たちを観察することができた。

雨宿り

目の前では、カモが何匹も泳いでいた。
雨止まないかな〜と思いながらぼーっと湿地を眺めていると、小屋の目の前を巨大な白い鳥がスーッと横切っていくのが見えた。
鳥は、少し離れた草むらに降り立ち、体をくねらせて毛づくろいをはじめた。
私は「あれがコウノトリか!見れてラッキー!」と思い、その鳥のことをずっと眺めていた。雨は強くなり、ますます私は小屋から動く気がなくなっていた。
毛づくろいをしたり、羽をむしったり、眠ったり、餌を探したり、首をのばしたり縮めたりしていて、私はそれを見て大いに楽しんだ。

はしっこに居ます


そいつを眺めはじめて30分ほど経った頃、突如草影からさらに巨大な丸々とした体の鳥が現れた。それは白い体で黒い羽をしていた。
そして私は思い出した。以前動物園で見たコウノトリの姿のことを。


?!

お前、コウノトリじゃなかったんか。
鳥に疎すぎる私が勝手にコウノトリと勘違いしていた鳥は、アオサギだった。
コウノトリはすぐに見えなくなり、その後も、目の前にきれいなカワセミが急に現れては秒で去っていったり、名前を知らない様々な鳥たちが行き交った。(鳥のこと、ほんとなんも知らなくて恥ずかしい)

雨は1時間以上降っていたが、雨宿り中、アオサギだけはどこへも行かず、ずっと私の目線の先に姿を現してくれていた。
雨の中、ひとりぼっちの小屋の中でも心細い思いをしなかったのは、お前のおかげだ。
思い返せば、動物から唐突に与えられる優しさみたいなものに、救われたり圧倒されてしまうことが多々ある。
彼らにとっては、人間に優しくしてやろうなんて思いは微塵もないはずなのだが、彼らがそこで自由に生きてるだけでこっちが勝手に救われるのである。

小屋とわたし

雨が止んできて、アオサギに別れを告げ、すぐそばの観測センターへ。
スタッフのお姉さんが、コウノトリや地域での繁殖活動のことをたくさん教えてくださった。
お話ししていると、目の前の人口巣塔にコウノトリが飛んできた。大きい。
お姉さんは足についている輪を見て、どの個体なのかすぐに判別していた。このコウノトリは、この巣に住んでいる番いのどちらでもないらしい。
自分の巣ではないが、堂々とそこに立っていた。

望遠鏡で観測させてもらった


肉眼でも見える

コウノトリは、コウノトリ市民科学というウェブサイト上で、全国の市民によって観測記録がされ続けているらしい。すごい。
学者でなくても誰でも調査員として参加登録できるらしいので、鳥好きの方やご興味ある方はぜひ。


ハチゴロウの戸島湿地を後にし、もう少し先まで進んだ。

楽々浦湾

楽々浦湾(ささうらわん)と呼ばれる大きな湖のような景色の場所が見えてきた。
鏡のような水面の前に立つと、あらゆる場所からパシャパシャ魚が跳ね上がっているのが見えた。その音だけが静かな水辺に響き渡っていた。

ここでもアオサギが目の前に現れた。同じアオサギなのかはわからない。
目の前に現れては飛び、そしてまた目の前に現れ、近づくとガーガー鳴きながら飛んでいった。

飛んでいくアオサギ、もう間違えないよ


しばらく歩くと”鼻かけ地蔵”と呼ばれるお地蔵さんのいる祠が見えてきた。
不思議な言い伝えが残っている。
お参りをし、川の向こう側へ引き返すことにした。
帰り道に通った古い祠の前に、真っ赤なカニが2匹並んで居て不思議だった。

引き返す際にも湿地を通ったが、やはりアオサギは私の前に現れた。すぐそばの草むらから突如顔をニュッと出して現れ、バサバサと飛び去った。
頭上をコウノトリが飛んでゆき、巣の方へ帰っていくのが見えた。きっとこいつが本物の家主(巣主)なのだろうなと思った。
アオサギに関しては、後半は目の前に現れる度に、映画『君たちはどう生きるか』のシーンが頭をよぎり、宮﨑駿がこの鳥をあのような形で表現した理由が、ほんの少しわかった気がした。


おでん

夜、悠加さんと合流しおでんを食べた。
何もかも美味しかった。熱々の大根、最高。

その後、まんだら湯へ。
温泉の湯が熱くて、このような長い日記を書いて現在深夜2時ですが、まだ体はポカポカです。

明日は早起きしたいと思ってたけど、遅くなっちゃったしむずかしいかな。

つづく




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?