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#スペース短歌 7月号から、好きな6首

自分はどんな短歌をつくりたいのか?
それを知るために、「好きな短歌」をちゃんと言語化して残していこうと思います。

まずは7/25(木)に開催された #スペース短歌 (千葉聡さん・初谷むいさん・寺井達哉さんのオンライン歌会イベント)・テーマ『恋の歌、もしくは恋を思わせる歌』から好きな6首を挙げます。


ものすごい色の空さえ従えてあなたが何か話そうとする
/十条坂

https://x.com/jijibook/status/1816438396048576945

空を「従える」という言葉の選択が気持ちいい歌。話す内容ではなく「何か話そうとする」という、話しはじめる前の不確実さをもつ瞬間を切り取り、その背景に「ものすごい色の空」を置く、立体的な描写がとてもいいと思いました。めちゃくちゃため込んだ告白の瞬間ですかね。どんなことばを告げようとしているんだろう、どきどき。

31文字の定型で、ひとつのシーンをさらりとうたう形式が好きです。


それは井戸の底を一瞬照らす陽のようなまばゆい落とし穴でした
/やまだだね

https://x.com/jijibook/status/1816451662145634690

「井戸の底を一瞬照らす陽」という鮮明な見立て。そして陽のポジティブなイメージと「落とし穴」というネガティブなイメージの対比。井戸の底と落とし穴とで、どうしたって穴からは抜け出せずにもがいているような焦燥感もあります。

直喩が好きです。「陽のような→落とし穴」という飛距離はいい感じです。これ韻律は6-7-5-7-8ですかね(9-7-5-7-5?)。全部一息で吹き消すような勢いを感じます。


君がずんずん近づいていくコンビニがいもようかんみたいに明るいな
/ぶん

https://x.com/jijibook/status/1816433085359223210

これは「いもようかん」の選択が見事で、夜のコンビニの黄色い灯りに新鮮な比喩をもってきたな〜と脱帽です。スペースでも随分ここは盛り上がって、ちばさとさんが「俺たちも今度合宿とかやってさー、3人で夜のコンビニに繰り出したいよね」と言ってました。「ずんずん」も気持ちいい。明るい「な」という結句もかわいらしいです。

これも「いもようかんみたいに明るい→コンビニ」は飛距離のある綺麗な直喩だと思います。


揺れながら瞼を閉じて雨音を肺の奥まで吸い込んでいる
/雨

https://x.com/jijibook/status/1816431019525914911

雨の空気ではなくて「音」を「肺の奥まで吸い込」むという、五感の交差する表現が魅力です。深夜に雨音にずっと耳を澄ませている時間はとても気持ちのいい、好きなひとときなんですが、その音がさらに空気・風とともに全身に行き渡っていくようすがとても良いと思います。


アイシャドウ逢ふたび変へてまなざしの賞味期限を延ばしたかつた
/朧(ろう)

https://x.com/jijibook/status/1816435714768466096

「まなざしの賞味期限」という取り合わせがとにかく新鮮!眼力を磨きまくっているエネルギーを感じます。賞味期限は「食」のメタファーなので、肉感・色気にもつながるのでしょうか。

朧さんのお名前は本当に色々なところで見かける(別名義でも)のですが、「うたの日」とかでも一貫してやわらかな旧仮名遣いを貫かれていてすごいなと思います。私は石川美南さんや大口玲子さんに憧れる部分がありつつ、旧仮名や文語の歌作りは試せていません。精進。

あと、アイシャドウつながりで、ちばさと先生が引用していた佐藤モニカさんの《夏蝶を捕らへしごとく指先に今朝のアイシャドー少し残りて》もかっこよかった。


らんぼうにボトルに口付ける君になり損なった水をみていた
/鳥さんの瞼

https://x.com/jijibook/status/1816446051701694770

この歌は投稿時から気になっていたんですが、初見では「なんかいいな〜」ぐらいで「君になり損なった水」の意味を組み立てられていませんでした。

「らんぼうに」ペットボトルの水を飲むから口から逸れていく水がある、その水を見ている。飛沫をスローモーションで追っていくような、微細な時間感覚に、しびれました。


「スペース短歌」は初参加した前回6月に1首選んでいただきました。今回は外しましたが、「もしかして読まれるかも??」とわくわくしながら聞き入るのは、リクエストを送ったラジオ番組のようで楽しいです。8月のお題は何だろう。

cover: UnsplashNASAが撮影した写真

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