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「しりひとみ」と「ケアルガ」のアクセント問題を考えるための基礎知識メモ

日本語のアクセント/イントネーションって本当に難しいですよね。本稿では日本語アクセント問題を語る上で必要な基礎知識を、ネットを見渡して分かる範囲でまとめました。

※図書館にちょうどいい教科書が見当たらなかったため……。言語学・日本語教育学専攻の方には基本的な内容かと思います。本職の方の補足、大歓迎です。

奇しくも巷では「ケアルガ」の発音は「背脂かカニ玉か」でだいぶ盛り上がっていたようです。


①アクセントの表記方法

英語には「発音記号」があり、発音記号でアクセント位置も分かるのですが、日本語には広く知られたアクセント記号がありません。言語学系の論文では独自の表記法があるのですが、noteなどの通常テキストではうまく表記できません。

そこで本稿では、下記ページにある
・低い拍:白丸 ○
・高い拍:黒丸 ●
という表記を使っていきます。

例)こんにちは ○●●●●

②2つの原則

【原則1】1拍目と2拍目の高さは必ず異なる
【原則2】一度下がったら上がらない

《専門用語メモ》
アクセント核 →直後で急に下がる
モーラ →拍数。拗音(ゃゅょ)は前の文字とセットで1拍になる。っ、ん、ーは1拍。俳句・短歌の拍数を数える時に無意識に使っている
アクセント →単語レベルの高低
イントネーション →文レベルの高低 ※参考

③5類型

日本語の単語のアクセントには「5つの類型」があるそうです。1~4を「起伏型」と呼ぶ。

1【頭高型】 ふじさん ●○○○
2【中高型A】いろがみ ○●○○
3【中高型B】すずしい ○●●○
4【尾高型】 いもうと(が)○●●●(○)
5【平板型】 しんぶん(が)○●●●(●)

例示は上記1つめのリンク先からの引用です。中高型のAとBの区分は手元で追加しました

※尾高型と平板型の違いは、うしろに「が(助詞)」を足した時に助詞が下がるのが尾高型、下がらないのが平板型。


③複合名詞

複数の名詞がくっついて1つになると、元々の名詞とアクセント位置が変わる。

例) 春 ●○ + 休み ○●● = 春休み ○●●○○  ※引用元

ちなみに、複合名詞には「複合している複合名詞」と「複合していない複合名詞」がある(ややこしい)。

【複合化複合名詞】 行方不明 ○●●●○○
【非複合化複合名詞】消息不明 ○●●●/○●● ※引用元


複合名詞のアクセントは、アクセント核の位置に応じて4つのパターンがあるそうです。 ※引用元

【後部一型】後ろ側の2拍目で下がる。「個人経営」
【前部末型】後ろ側が全部低い。「郷土愛」
【後部保存型】後ろ側がくっつく前と変わらない。「教育委員会」「細工裁判所」
【平板型】下がらない。「ねずみ色」

これは「後部要素の拍数」に応じて一定のルールがあるそうです。 ※参考

後部要素が1〜2拍:②前部末型 または ④平板型
後部要素が3〜4拍:後部要素が頭高・中高なら①後部一型。後部要素が尾高・平板なら③後部保存型
後部要素が5拍以上:③後部保存型


ここまでが前知識です。


《例題1》しりひとみ=カバチタレ論

まず、「しりひとみ」はどこで切れるのかという議論があります。

苗字がしり(尻?)+名前がひとみ と捉える場合、「非複合型複合名詞」で「さあおいで」と同じになるという解釈は自然です。

さあおいで ●○/○●●
しりひとみ ●○/○●●

なので「しりちゃん」「しりさん」って呼ぶとき頭高で「し」が高くなるのは、このパターンです。


一方、しりひとみは人見知りのアナグラムということで、複合型複合名詞またはワンワードと捉えれば、「平板型」のアクセントがはまります。少年Bさんはラジオ番組『少年Bのハッピーライラデイ』内で、正しく平板型で呼んでいます。

カバチタレ ○●●●●
しりひとみ ○●●●●

※カバチタレってカバチ(文句)+タレ(言う人)で3+2の複合名詞なんですかね。。。どのみち平板型になるけど。。。

また、2001年の記事で、東京や若者言葉を中心に「平板化」:元々起伏型の発音でも、平板型に変化するという流れがあることが指摘されていました。

記憶の負担や発音の労力を軽減して,「コスト削減」あるいは「省エネ」で行こうということです。(下記記事より)


結論としては「本人公認」の平板型で確定なのですが、引き続き親しみをこめて「しりちゃん」(頭高型)と呼んでいけばいいと思います。


《例題2》ケアルガ=背脂 or カニ玉論争

選択肢は2つ:

【中高型】せあぶら ○●○○
【平板型】かにたま ○●●●


それで、ケアル回復魔法の最上級であるケアルガは
ケアル ●○○ + ガ の複合名詞と捉えると、後部要素が1拍なので、
②前部末型(ケアルガ○●○○)または、
④平板型 (ケアルガ○●●●)になります。

つまりどっちもあり得る……!

後部要素が1〜2拍のとき、前部末型になるのか平板型になるのかのルールを知りたい。

同じ4文字呪文でも「ベホイミ」は「ベ」+「ホイミ ●○○」の複合なので、後部要素が頭高→後部一型で、背脂と同じ ベホイミ ○●○○ になるのが自然です。切れる位置が違う。


一方、英語は平板型アクセントがあり得ないので、英語風に keáruga みたいに言うと背脂になりますね。(なお英語名は Curaga。これはCureの変化系なのでCúraga(頭高型)かも?)

私は日本語造語として「ケアルガ=カニ玉」説を支持します。


まとめ

今回の大きな学びは「複合名詞」の変化パターンでした!難しいなーと思ったけどこれだけ書いたら分かってきました。

1つの単語には5類型、複合名詞の変化パターンは4種類。これを意識すると、見通しがよくなりそうです。

ここに「方言」の要素、若者言葉によるアクセント位置の移動、みたいな話が加わって、さらに深遠な世界が待っています。引き続きアクセント問題、注視していきます。

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