知らぬが仏の環境問題-環境問題は嘘ではない-

今日、とんでもないツイートを見つけた。これである↓

https://twitter.com/_HATORI_/status/1364490200739536909

いや正確には、リプライや引用rtの方が問題である。酸性雨で木が枯れる枯れないの真偽は今はどうでもいい。このツイートについているリプライや引用rtの内容を要約すると「環境問題なんて嘘ばかり。酸性雨もダイオキシンも、今じゃ誰も話題にしない」
はっきりと言っておく。環境問題は嘘でも陰謀でもない。まぎれもない現実である。ただ、「対策が進んだから、誰も話題にしなくなっただけ」である。

1.酸性雨もダイオキシンもオゾンホールも

 確かに、今やだれも酸性雨やダイオキシンやオゾンホールを問題にしない。テレビに出てくる環境問題と言えば、温暖化(=気候変動)かマイクロプラスチックぐらいである。では、酸性雨もダイオキシンもオゾンホールも嘘っぱちだったのであろうか? そんなことはない。いずれも対策が進んだから、誰も問題にしなくなっただけである。
時は戦後、高度経済成長期にさかのぼる。日本中が経済成長に浮かれている裏で、環境問題が進行していた。水俣病だの四日市ぜんそくだのイタイイタイ病だのというワード、おそらく聞いたことがあるのではないだろうか? これらはいずれも工場から排出された公害物質(水銀とか硫黄酸化物とかカドミウムとか)が原因である。当時はこれらの排出を取り締まる法律なんてなかった。だから工場がこれら公害物質を排出していても、誰も問題にしなかったのである。
だが、それら公害物質を吸い込んだり摂取したりした人たちに健康被害が続出し、1970年の俗に言う「公害国会」で、これらを規制する法律である公害対策基本法だの大気汚染防止法だの水質汚濁防止法だのが成立し、公害を引き起こす物質の排出が規制されるようになったのである。

2.公害対策は金がかかる

 環境問題というと、即利権がどうのこうのという人々がいるが、こと公害に関してはそれこそ嘘っぱちである。公害対策は金がかかる、面倒な仕事なのである。
 例えば酸性雨や四日市ぜんそくの原因物質となる硫黄酸化物。燃料だのゴミだのの燃焼で発生した硫黄酸化物はどうやって取り除いているのだろうか? 吸収塔という装置でアルカリ性の水溶液にくぐらせて取り除くのである。排水中のカドミウムや鉛といった重金属はどうするのだろうか? 処理槽でアルカリを添加して沈殿させて取り除くのである。当たり前であるが、公害対策のために企業はこれらの装置を新たに導入しなければならない。さらに、処理に使うアルカリを始めとした処理薬品を購入しなければならないし、設備の管理点検にも費用が掛かる。分離した二酸化硫黄やら重金属はどうするのだろうか? そこらへんに捨てるのはもちろんアウトである。きちんとした業者にお金を払って引き取ってもらわねばならない。さらにである、工場の規模にもよるが「公害防止管理者」と呼ばれる有資格者を置かねばならない。公害防止管理者になるには、年一回ある試験(科目合格を含めても合格率10~20%という難関試験)を突破せねばならず、そう簡単になれるものではない。当たり前ではあるが、有資格者にはそれなりに割り増しした給料を払わなければならないし、病欠や旅行などで有資格者が欠席するときのことを考えて、複数人の有資格者を雇っておかねばならない。公害対策はとにかく金がかかるのである。
 無論、そんな法律破ってしまうのは簡単であるが、破ったら罰則が待っている。排出基準に違反したら直罰(行政指導等抜きで即罰せられる)である。しかも健康被害が出れば、水俣病の原因物質を垂れ流した「チッソ」のように、マスコミに大々的に報道され、企業イメージにも傷がつく。そんなのは嫌だからみんな法律を守って、金のかかる無害化処理を行っているのである。
 みんなが車に入れているガソリンだって、脱硫処理を行うことで二酸化硫黄をほとんど排出しないクリーンなガソリンである。ガソリンや軽油中の硫黄分の量についても、法律でしっかりと規制されているのである。正直石油会社としては、脱硫なんてしない方がより安くガソリンを売れるわけであるが、法律で決められているから頑張って脱硫して売っているわけである。
こんな感じで、公害対策はとにかく金がかかるのである。正直これらの対策をしなければ、ガソリンもその他製品ももっと安くできるだろう。それでも、法律で決まっているからみんな従っているわけである。

3.都会のど真ん中で深呼吸できる現在

 筆者は、臨海部に工場が林立する神奈川県に住んでいるわけであるが、工場から排出される煙で空が常に曇っていたりしたことはないし、息苦しいと感じたも無ければ、工場排水で川が青くなったとか赤くなったという経験もない。それどころか、例えば相模川など工場地帯の下流では水道原水が取水されているし、夏休みの時期ともなれば川の両岸でバーベキューが行われ、子供たちは川で水遊びをしている。なぜこんなにきれいになったのだろうか?
 それもこれも、前述のように「政府が法律でしっかりと公害物質の排出を規制」し、「民間企業が排水排ガス処理設備を導入」し、「エンジニア達が低公害技術を開発」し続けてきたからに他ならない。
二酸化硫黄や窒素酸化物によるぜんそくや酸性雨が話題にならなくなったのは、排ガスの脱硫脱硝技術や燃料の脱硫技術が進んだおかげ
ダイオキシンが問題にならなくなったのは、高温焼却炉技術や排ガスのばいじん除去技術が進んだおかげ
 オゾンホールが問題にならなくなったのは、オゾンを破壊しない代替フロンの導入が進んだおかげ
 河川がきれいになったのは、排水処理技術が進んだおかげ
に他ならない。いずれも政府が主導し、法律を作って、民間がそれに従ったからできたものだ。いずれも「誰か被害を受けた人がいて」「それに対し立ち上がった人がいて」「法律を整備した人がいて」「環境基準に適合するよう設備を導入したり技術開発をした」人がいたからこそできたものなのである。我々が今こうしている瞬間も、下水処理場では微生物たちが頑張ってみんなの「う〇こ」を酸化分解してくれており、そのお陰で河川はきれいになっているのである。
 環境問題は嘘でもなんでもない。まぎれもない現実なのである。もし仮に、今すべての企業が排水や排ガスの無害化処理をやめたらどうなるか? 河は重金属で汚染され、空にはスモッグがたちこめ、重金属酸性雨が降るようになるだろう。そうなっていないのは、頑張ってきた人たちがいるからだ。官民、文系理系問わず、公害対策のために尽力してきた人たちがいるからだ。
 今我々がマスクなしで(今はコロナ禍の最中なので難しいかもしれないが)都会のど真ん中で深呼吸できるのも、全て先人たちの努力のおかげであり、そして今現在も排水排ガス処理施設を管理したり低公害技術を開発し続けている人たちのおかげなのである。

 環境問題は、決して嘘ではない。酸性雨やダイオキシンやオゾンホールが今話題にされていないのは、全て対策が進んで、問題とならなくなったからなのである。それら環境問題の裏では、環境を守るために努力してきた人たちがいたのである。彼らのお陰で、今我々が快適に過ごせるようになっているのである。それを忘れないようにしていきたい。


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