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特撮ドラマ評「ウルトラマンエックス」

(アイキャッチ画像出典:https://m-78.jp/character/x/


提示された理念

「怪獣との共存」を理想とし、エンディングテーマ「Unite~君とつながるために~」でも「なぜ襲ってくるの? 理解しないまま倒していいの?」と歌う「ウルトラマンエックス」。
戦闘チーム「Xio」の神木隊長の言葉が、作品の基調をなす価値観だといえるでしょう。

「怪獣や異星人たちにも、彼らなりの事情がある。それなのに、こちらが正義で、向こうが悪だと、言い切れるでしょうか」

「ウルトラマンエックス」第2話「可能性のかたまり」

描写される実態

具体的な怪獣に対しては装備デバイスの「ガオディクション」と呼ばれる機能で感情を読み取り、対応を決めます。
下の場面は、「ガオディクション」にもとづいて怪獣(スペースビースト)の「駆除判断」が出た珍しい例です。

「”攻撃”と”捕食”しか探知できない。仕方ない」

「ウルトラマンエックス」第20話「絆-Unite-」

一方、「ガオディクション」がなくても意思疎通が可能な「異星人」の場合はどうか。作品を見る限り、対話による解決を基本原則としているようには見えません。

「Xio」の一員であるグルマン博士は、ファントン星人。
第2話「可能性のかたまり」にて、「人間に友好な宇宙人」として紹介されています。
そのグルマンが、自らの知識を披露する形で、他の異星人について評価を下すわけです。

「ゴールド星人なら、他の星を侵略しようなんて野蛮で下等なことは考えないはずだ」

「ウルトラマンエックス」第6話「星の記憶を持つ男」

「(ペダン星人によって)すでに7つの惑星の文明が滅ぼされている。交渉の通じる相手じゃない」

「ウルトラマンエックス」第11話「未知なる友人」

これらの台詞には、侵略行為は「野蛮で下等な」特定の種族が行うものだという前提があります。
しかし、この世界観では「ウルトラマンマックス」のバルタン星人(侵略を企てる星人とそれを阻止する星人がともに登場した)などはどちらに該当するのか、はっきりしません。そもそも、地球人やファントン星人が一方的に「野蛮で下等」などと異星人をジャッジすること自体が傲慢です。

きわめつけは、第16話「激撮!Xio密着24時」。

なんとなく怪しいと思った人に職務質問をかけ、強引に荷物を確認のために奪おうとし、あげく逃走した標的を(捜査中の事件については証拠がないので)「公務執行妨害」に追い込み現行犯で「逮捕」する……。
このエピソードは明らかに警察の捜査を取材した番組のパロディですが、まさにその警察のやり口が人権も遵法もお構いなしの権力犯罪なのです。
上記ツイートで指摘したとおり、Xioのコンセプトとは相性が悪すぎます。

まとめ

社会問題をよく取り上げていると評されるウルトラシリーズ。「帰ってきたウルトラマン」のメイツ星人回などでは、地球人こそが持っている攻撃性、差別意識が描き出されていました。それに比して、「ウルトラマンエックス」が「共存・共生」を真摯に描いているとは正直言えません。
人類は体制の維持のために侵略戦争を企てる支配者と、それを阻止し支配を覆す民衆との闘いを繰り広げてきました。「調和の保たれている自分たちの文明が外部からの脅威に直面している」という危機感は、実は最も侵略を志向する立場の人間が好んであおるものなのです。

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