2020年末にちょっと考えた

 今年の中頃 「主任」になった。今まで「平社員」だった私に初めて役職がついた。私達の仕事は製造業で、現場の人達と一緒に仕事をしている。役割としては、実際にものを造るのは現場の人達で、現場の人達により安全で・ミスなく・効率よく仕事してもらう方法を考えるのが私達、事務系社員である。

「主任」とは、私達の会社では事務系の「平社員」が目標にしやすい役職である。ある程度仕事に慣れてきた段階で、私は自分なりに「主任」の立場からものを考えて業務を進めていた。

その中で私が思う「主任」の役割は大きく二つあり、一つは「客先に対する窓口」である。例えば、現場では何十tにもなる部品をクレーンで頻繁に運搬する。クレーンの運転者が誤ってその部品を地面に落してしまえば、人が怪我していようがいなかろうが、謝罪のうえ、原因と対策を織り込んだ報告書を客先に提出しなければならない。

上記は極端な例だが、その他にも細かい設備トラブルにおいても報告が必要な場面はある(余談だが、実際に起こしてしまった場合は、深夜だろうが休みの日だろうが「主任」以外の事務系社員も呼び出しがかかり、対応に追われる。)。

もう1つは「現場に対する窓口」である。上記のようにクレーンから部品を落してしまった場合、その対策を施す必要があるが、それが現場に対して負荷をかける場合(作業手順変更等)、現場の代表者へ対策実行のお願いをする(トラブルを起こしてしまった場合は、現場も理解を示してくれる場合が多いが、何のトラブルもなく、客先からの要求を伝える場合であると、すんなり受け入れてもらえない場合がある。)。

事務系社員側からの要望を伝えるだけでなく、現場からのクレームにも基本的には「主任」が対応する。どちらの役割においても理不尽な要求はあるが、「主任」の仕事を横で見ていた印象を述べると、現場への対応の方がやりづらそうであった。現場の方々というのは三十代前半の「主任」よりも基本的に年上で、一回りから二回り年配ということもザラである。

下手をすると自分の父親と同い年くらいの人に対しても負荷がかかるようなことをお願いする場合もある。「主任」は基本的に現場で作業することはない。現場作業の要所を理解していない素人がプロへお願いするのである。

現場作業に対する理解のなさから生まれるトラブルは多く、どうやったらそんな軋轢をなくせるものかと上司である「主任」の横で当時「平社員」の私は考えていた、が、私は全く性質の異なる部署で「主任」となった。

「えっ・・・」

現場がない部署なのである。どういうことかというと、どうも現場事務系社員の長時間労働が全社的に問題となっており、対策として、えらい人達の間で事務系社員のサポートをする部署が新たに必要ではないかという話になったそうだ。

そこに何でかよくわからないが、中堅社員の私が「主任」として抜擢されたらしい。現場の場合は80人近い現場のおじさん達をまとめる必要があったが、私が新しく配属された部署では部下は1人である(しかも年下)。

どう考えても楽そうである。また仕事は社内業務の改善であるので、基本的に対面となるのは社内の事務系社員のみで、客先とやりとりすることはあまりない。

役職が上の社員に対して気を使わないわけではないが、所詮身内である。ちょろいに違いない。「窓口」としての業務負荷がかなり低いと予想され、どう考えても「実務」をやる必要がある。

「ん?主任が実務?」

現場にいた時、「実務」は「平社員」がしていたので違和感があった。「組織の運営上そんなことは望ましい姿なのか?」と疑問に思い、いつぞやに読みかじったテキストを見てみると

”*一般に係長・主任職はプレーイングマネジャーの立場にあってあると言っていいでしょう・・・(中略)・・・確かに、係長・主任職の職責は多様ですが、いちばんもとのところで考えてみると、「仕事(担当業務)の遂行」と「組織におけるマネジメントの推進」という2つにたどり着きます。・・・”

なるほど、一般的には「主任」はプレイヤーとしての側面があるらしい。前の職場ではほぼ「組織におけるマネジメントの推進」が主だった業務だったわけで、前の職場が特殊なケースだったと言えるのかもしれない。

しかし部署が変わるとはいえ同じ会社でここまで変わるものかと感じた。「自分が当然だと考えていることなど、案外そうでもないもんなんだなぁ」とも思った。思えば現場にいた頃、「経理」「人事・労政」部門等からくる意味のよくわからない書類をほぼやっつけで書いていた。

それらの書類は「経理」「人事・労政」等の間接部門が会社にとっての全体最適を図るために必要なものを考えて現場へ配布しているのだ。間接部門が記入するのが当然だと考えていることは、現場にいた私にとっては当然ではなく、ただ書くのが面倒臭いだけの書類だった。

現場にいた時の私は、これらの間接部門からすれば迷惑なやつだったに違いない。頭の中で何となく必要なんだろうという程度の意識しかなく、適当に書いた時のヤバさ加減が理解できないのだが、適当にやるとさらに面倒臭い事態を招く可能性があるので、わからなければちゃんと問い合わせて書くべき書類であった。

しかしコンプライアンスに関する間接部門からの要求が多くなり現場の作業負荷は増える一方である。働き方改革の一環で現場の就労管理をシステム化するのはいいのだが、そのシステムの操作に半端なく手間がかかり、事務員さんの時間外労働時間が増えるというよくわからない事態が発生している(テストの段階で少しシミュレートすればわかりそうなものだが・・・)。現場と間接部門間での起きるイザコザの多くは、互いの部門に対する理解の欠如から発生するのではないだろうか。


 私が高校の時によんだ現代社会のテキストによると、企業の目的は「利潤の追求」らしい。

なるほど現場も間接部門も言ってしまえば「利潤の追求」という共通の目的のために存在していることになる。目指すところは一緒なのにイザコザが絶えない。少し変な気はする。こんなんで大丈夫なのかと思うが、私が所属している会社は何やかんやで100年以上商売をしているので案外大丈夫なのかもしれない(そのうち潰れるかもしれないが・・・)。


これからのことはよくわからないが、他部署の文句を言いながらも仕事を進める様子が、右往左往しながらも前に進む感じがして何か少し面白く感じた。


*経営課題を実行する係長(主任)職の立場と役割  日本監督士協会 佐藤方俊著
#PS2021

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