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SS【もう誰も死ぬなよ】1003字
ゲームの世界ではプレイヤー自身が何らかの制限(縛り)を作り、難易度を意図的に上げる縛りプレイというものがある。
何度もクリアしたゲームでも縛りを設けることで新鮮味とやりごたえが生まれるのだ。
ぼくはそれを現実世界でやっている。
仕事が冬の長期休暇に入ったぼくは、友人からの誘いも断り朝から徒歩で山へ向かった。
駅のトイレでペットボトルに汲んだ水をリサイクルショップで買った年季の入った草色のショルダーポーチに入れた。
お尻に穴の空いた紺色のジーパンのポケットには家の鍵。
ポーチと同じ色をした学生の頃から愛用している羽毛入りジャンパーのポケットには僅かな小銭。
背中にはこれまた草色のバックパック。ちょっとした雪道でも歩ける防寒ブーツまで草色だ。ぼくにはこの色が一番しっくりくる。
一時間ほど歩くと小高い山が見えてきた。山は膝近くまである雪に覆われている。その中腹にある一軒家を訪ねた。
「こんにちはーー!!」
中から物音が聞こえるが中々出てこない。二分ほどかけて二階からぼくのお婆ちゃんが降りてきた」
「おお!! こんな寒いのによう来たな」
お婆ちゃんが笑顔で迎えてくれた。軽く近況を報告すると、ぼくは玄関に置いてあったスコップを手に取り、お婆ちゃんの家から山中を走る舗装された道路に出るまでの除雪を始めた。一人が通れる広さを確保すればいいとはいえ距離は五十メートルもある。
何度も一休みしながらニ時間ほどかけて“雪の大谷”は開通した。報告しに戻るとお婆ちゃんは具沢山のシチューとフランスパンを用意し待っていてくれた。
二日ぶりのまともな食事にありついたぼくの身体は、あっという間にそれらを吸収する。
帰りに海苔を巻いた焼きタラコ入りのおにぎりをお土産にもらい、バイト代だといってお小遣いまでくれた。
飲み物は買わずに水道水のみ。
食事は一日一回。
一日の食費は五百円まで。
お風呂はシャワーのみで一日三分まで。
照明は使わない。夜はソーラーランタンかロウソク。
そんな縛りを守りながらやってきたぼくに突然襲いかかった予期せぬ出費。職場関係の香典代。
あと一円でも使ったら今月の家賃が払えないかもしれないという窮地に立たされ一週間の断食さえ覚悟したぼくだったが、苦しくて涙が出そうになった時、お婆ちゃんの力を借りる裏技を思いついたのだ。
これで飯も食べれるし今月の家賃も払える。
「もう誰も死ぬなよ」
ぼくはそう呟いてからタラコ入りおにぎりを頬張った。
終
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