小説「おれは清麿」を読んで

故・山本謙一氏による小説。
江戸時代に天才刀鍛冶として名を馳せた源清麿を主人公として描いた物語。
以下、ネタバレを含む感想です。

地元の名工について書かれたものだと知り、手に取った小説。この他に吉川英治氏の「山浦清麿」を読んでいる。

何かひとつの事をそれなりに、ではなくとことん突き詰める職人の姿は情熱的で美しいと改めて感じた。
なんと言っても鍛刀の描写が鮮明で、眩しく沸いた鉄の色や熱、それを見つめる刀鍛冶の真剣な眼差しが見えてくる。
"熟れ柿から朝日の色に変わったら"という温度の目安も、鍛刀の現場を見たことがなくても鮮やかにその色が思い浮かぶ。
まるで清麿の隣でその仕事を見ているよう。
正直なところ、私は、今まで清麿の刀を苦手だと感じていたが、物語を読むなかで何故苦手だと感じていたのかがわかった気がする。
清麿の刀は、その刀身をみたものが恐怖するほどの気迫を込めて鍛えられていたからだ。
このお話を読んで、そう思った。

また、度々出てくる兄弟のやりとりもとても好きだった。
経験を積み、技量を上回っても清麿にとって兄の真雄は永遠に刀鍛冶の師なのだと随所で感じた。
真雄の刀に対する姿勢をずっと尊敬していたのだと思うし、彼無くして清麿という名工は生まれなかったのではないかとも思う。
どの物語にも書かれてはいないが、弟の死の知らせを聞いた真雄が何を思ったのか、物語を読んだ後に様々、想像してしまう。

自分勝手とも志を貫き通したともいえる彼の生き方は、人間らしい魅力が詰まっているのだと思う。

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