[短編物語] バウムクーヘンをめぐるおとぎ話
むかしむかし、すべてがバウムクーヘンである高い塀に囲まれた国がありました。その国に住む人々は、バウムクーヘンを毎日食べて生きていました。みんな、バウムクーヘンが大好きで、チョコレート味やバニラ味、いちご味などの色々な、バウムクーヘンをおいしい、おいしいと言って食べていました。
数百年がたった、ある日、バウムクーヘンにあきた子供が、「何か、他にないわけ」に泣いて言いました。そして、それを聞いた大人たちも、口々に、「そうだそうだ、バウムクーヘンしかないなんて」と大声で怒鳴り始めました。そこで、王様は、100年前に発見して自分と家族だけで食べてきた、ティラミスという新しい食べ物を、一つの店で売ることを許可することにしました。住民は喜んで、ティラミスを買うため、毎日その店に行列を作って並んで、ティラミスを頬張りました。
それから、300年が経過したある日、ある子供が、「バウムクーヘンをティラミスに突っ込んで食べてみたら、とてもおいしかった。」と隣の家の子供に言いました。それを聞いた隣の子供がためして、さらに、それが大人たちにも広まり、ティラミスとバウムクーヘンを一緒に食べるのが、その国で大流行となりました。「バウムクーヘンをティラミスと一緒に食べることを発明するなんて、私たちは、なんてクリエイティブなんだ。」とみんな口々に言い、お祭りが続きました。それをみた、時の王様は、「よしよし」と言いながら、シュークリームを食べてほほ笑顔を浮かべていました。実は、王様と王様の家族は、バウムクーヘンと、ティラミス、さらにシュークリームを作れるパティシエを、200年前から雇っていたのです。
この国は、本当に平和な国で、争いごともほとんどなく、兵隊はいましたが、ほとんど出撃する必要もありませんでした。食べるものといえば、二つしかありませんでしたが、住民たちは特に不満もなく、バウムクーヘンと、ティラミスを、それぞれ別々に食べたり、一緒に食べたりして、それなりにしあわせそうに塀の中で暮らしました。
50年ほどたったある時、数人の住民が、壁の外に出る方法を偶然発見しました。外に出てみると、そこには、大福やら、サンドイッチやら、ポテトチップ、駄菓子と言われるお菓子がたくさんあることがわかりました。そこには、彼らが慣れ親しんだバウムクーヘンとティラミス、そして、なんとシュークリームという食べ物も、ありました。
喜んだ彼らは、壁のすぐ外に住むことにしました。特に彼らのお気に入りは、「うまか棒」という、10円で買えるすこし辛い棒でした。そこで、この住人たちは、「うまか棒」をかじりながら、塀の中にいる人たちが、ティラミスにバウムクーヘンを突っ込んで食べているのを、ぼんやりと見物して、過ごしていました。
しばらくたったある日、王様は、壁の外に、「うまか棒」というものがあって、それを食べている人たちがいるという噂を耳にしました。そこで、おかかえの兵隊の隊長に、「うまか棒」を食べている人たちを、捕まえて来るように命令しました。その「うまか棒」という物も忘れずに持って来るように、と。
隊長は「はい、わかりました。」と、王様に敬礼して言いました。
そして、しばらく黙ってから、「一つ質問なのですが、どうやったら、壁の外に出れるのでしょうか。」と王様に質問しました。それを聞いて、王様はしばらく、考えこみました。どういうわけか、どうやったら壁の外に出れるのか、いっこうにわかりませんでした。
終わり
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