【D4DJ First Mix】Why so serious?

シリアスは、物語を引き締め、視聴者の興味をとどめおく。
登場人物達が全神経を集中させ、何かに本気でぶつかり合うたびに、その場面は増え続ける。
これは現実と同じだ。

以前、記事にした『リズと青い鳥』は、そういった要素を多く含んだ作品だった。

いうまでもなく、その題材は音楽だ。
一般に、吹奏楽は楽譜の上に示された音を、自分なりに解釈してかなでていく。
これとは少し異なって、ほとんどまったく何も指示のないところから、新しく音を創り出すということもある。
その一種がDJである。
『D4DJ First Mix』は、これをテーマにしたアニメとなる。

真秀と出会ったりんくは、ダンサーとしての活動を始める。
その後、幼馴染のむにと、ピアノの腕前のすぐれた麗との四人で、「Happy Around!」を結成した。

彼女達が組んだとき、陽菜学園内で「Peaky P-key」は絶大な人気を誇っていた。
そのクリスマスライブのステージ上にて、りんくは飛び入りでパフォーマンスをおこなう。
観客の盛り上がりは最高潮に達する。
そこで、真秀はハピアラ内では気づかなかったりんくの輝きを目にした。

ピキピキのファン達は、あのりんくの突然の参加を歓迎している。
評判のあまり、ピキピキにりんくが加わるとの噂まで流れる。

翌日、校内の食堂で真秀は、ピキピキの由香と絵空が誰かを選ぼうとしている会話を偶然にも聞いてしまう。
しかもさらにその次の日、りんくがピキピキの響子に何かを頼んでいるのを、真秀は目の当たりにする。
りんくに問い詰めてみても、明らかに何かを隠しているような不審な態度を取られる。

真秀はりんくにハピアラを抜けてほしくないと考えている。
だが、クリスマスライブでりんくの見せた可能性を最大限に引き出すことができるのは、やはりピキピキなのだった。
真秀は思い悩む。

ピキピキのしのぶの言葉を聞いて、ひとまず真秀は目の前のライブに全力で取り組もうとする。
無事にライブが成功した後、楽屋に響子がやってきた。
思わず真秀は身構える。
響子はりんくに貝殻のアクセサリーを渡す。
りんくの頼み事とは、響子にその制作の仲立ちをしてもらうことだった。
これは、クリスマスライブでの熱狂と興奮の、メンバー達に対するおすそ分けの気持ちであった。
おまけに、食堂でピキピキの二人が話していたのも、ゲームのことにすぎなかった。

りんくには、真秀も感心するほどの抜群のリズム感がある。
ハピアラが学園の生徒達に知られていくにつれ、彼女の存在もまた有名になるのは当たり前だ。

陽葉祭でのサンセットステージに出場するため、ハピアラは「Photon Maiden」と対決ライブをすることになる。
それに向けた麗の新曲は、これまでのものとは雰囲気が違っていた。
特に、ボーカルのりんくのイメージとは完全に別物だった。
いったんメンバー達は他の候補に決める。

けれども、麗の中では、はじめのものこそが一番の自信作であった。
独り彼女が音楽室で歌うのを、たまたまりんくは耳にする。
そして、麗をボーカルにしてこの曲を披露するように持ちかける。
いざ勝負の段階で新規に挑戦するのは、相当にリスクが高い。
が、けっきょくそれで挑み、フォトンメイデンをくだす。

対決ライブで敗れたフォトンメイデンの咲姫は、ユニットの方向性をくつがえしかねないリミックスを作る。
今の彼女の持てるすべてを注ぎこんだ。
メンバー達の印象も悪くはない。
ところが、オーディションで選出されたこのユニットには、専属のプロデューサーが付いている。
彼女に否定されれば、それで終わってしまう。
咲姫達はなかなかこのことを打ち明けられない。

悩み抜いた末、ついにプロデューサーに聴いてもらうことにする。
予想に反し、彼女は咲姫をはじめとするメンバー達の努力と曲の出来栄えを褒める。
こうして、フォトンメイデンは確固とした自信を持ってステージに立つことができた。

曲作りは創作にほかならない。
ひたむきに打ちこめば打ちこむほど、何の苦労もなく、すんなりと仕上げることは難しくなる。
あらゆる点で妥協ができなくなっていくからだ。
物語に都合のよい天才だけが、いっさいの困難を経ることなく、やすやすと実行してしまう。
しかし、麗と咲姫は苦しみながらあがき、なんとか壁をよじのぼって越えた。

むにの家で、りんくは友人からかかってきた電話に夢中になる。
とうとうむにの我慢も限界に達した。
そこには、自分をそっちのけで楽しむりんく達への嫉妬が混ざっていた。
二人の心はすれ違い、練習にも身が入らない。

どちらも仲直りを望んでいる。
ところが、りんくには怒られた理由が分からない。
むにも、原因が理解できていない状態では話しても意味がないと思っている。
真秀は彼女達のためにラップバトルの場をもうける。
ビートに乗せて、お互いの心情をぶつけ合う。
やがて気持ちの通じた二人の間からは、幼い頃のわだかまりまでとけ去った。

どれだけ仲良しだとはいえ、いついかなるときも、みながことごとく同じ考えであるはずはない。
遠慮や気後れのない関係ならば、なおさらのことだ。
ちなみに、彼女達の喧嘩は、第一二話「Childhood Friends」の後半、時間にすると約一〇分にすぎない。

物語において、キャラクター達が何かを考えて行動し続ける限り、いつか必ずシリアスな局面を迎える。
舞台が、学校での平和な日常でも異世界での戦場でも変わらない。
そのとき、正面を切ってこれと向かい合うことにこだわった作品もある。
だが、極端すぎると全体が重苦しくなってしまう。
キャラクターや世界観がぼやけ、暗さだけが悪目立ちする。
そういったものを待ち受けるのは、あちこちからの数えきれない批判である。

もし、作者がそこから逃げまわれば、いずれ破綻が訪れる。
身勝手な妄想を積み重ねた果ては、秩序も際限もない混沌である。

このどちらでもない道も存在する。
その結果を些細なものとして扱えば、深刻さを軽減することにつながる。
姑息でも、卑怯な手段でも何でもない。
どのようなものも一様に、由々しくあらねばならないことは決してない。
中身がないと叩かれても、それを補う魅力が他にあれば、価値は生まれる。

キャラデザは個人の好みなので差し引くが、にもかかわらず、本作の女の子達はかなり可愛いと思う。
『BanG Dream!』とは、同じ原作、製作総指揮、ストーリー原案であり、ゲームやライブイベントなどのメディミックスも共通している。
けれども、二作は明白に異なる。
バンドリの第一期で、香澄はプレッシャーから声が出なくなってしまった。
第二期では、おたえの「RAISE A SUILEN」加入をめぐり、数話を通じてメンバー達の想いが交錯した。
第三期では、チュチュの軽率な振る舞いでRASが解散の危機に瀕した。
こちらにおいては、とても真剣に問題と対面している。

どちらがよいか悪いかという話ではない。
シリアスのさじ加減で、印象は大きく変化する。

このアニメは地味な部類だ。
ゲームのほうの売り上げもいまいちである。
制作にたずさわった人物も失敗だと認める始末らしい。

もっと人目を浴びる表舞台に踊り出ることはできないのだろうか。
そのポテンシャルは充分だと、私は信じる。

せっかく、にぎやかな中で、女の子達が盛り上げようと明るく頑張っているのだ。
それなのに、作品を取り巻く状況が、胸焼けするほどハードなのは、ちょっと、いや、ずいぶんともったいない。

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