観る将のやんわり将棋観戦:藤井聡太二冠、デビュー以来負け続けた豊島竜王をギリギリの戦いでついに破る。大きな壁を乗り越えた激闘はどのようなものだったのか。

今や日本中の注目を集める天才少年の藤井聡太二冠(18)。数々の最年少記録を塗り替え続け、まだ高校生とは思えないほどの目覚ましい活躍をしている彼がただ1人どうしても勝つことができない棋士がいた。
豊島将之竜王叡王(30)だ。

二人は今までに6回公式戦で戦ったが、結果は豊島さんの6-0。藤井くんが3回以上の対戦がある棋士のうち一度も勝ててないのは豊島竜王ただ一人だけだ。

今までに羽生九段や渡辺名人、永瀬王座など数々の強豪を打ち負かしてきた藤井くんがなぜここまで勝てないのか。
将棋を観て楽しむ「観る将」たちの間では、豊島竜王は藤井聡太の最後の壁として立ちはだかる大きな存在。いつその壁を打ち破る日がくるのか、それともやはり超えられないのか。二人の対戦は局数が増えるごとに注目度も増して行った。

そして1月17日の朝日杯準々決勝、藤井くんは豊島さんに7度目の挑戦を挑んだ。

事前に控え室で行われる振り駒。豊島さんの先手、藤井くんの後手となった。
不思議なことに朝日杯では昨年も一昨年も、後手ばかりだ。

張り詰めた公開対局会場に豊島さんが入場。続いて藤井くんも入場して客席に深く一礼し、席に着く。
朝日杯は数少ない公開対局で、しかも将棋では珍しい机と椅子を使用するスタイルだ。

14時に対局が開始して戦型は角換わりとなる。そして藤井くんは意表をつく早繰り銀の形にした。
これが対豊島さん用の作戦なのだろうか。


形勢はずっとほぼ互角で局面が進んでいく。
時間も大きくは離れない。藤井くんはいつも序盤から惜しみなく持ち時間をつぎ込んで長考し、終盤には一方的に時間が足りない状況になることが多いが、過去には豊島さんに終盤で逆転されたことが何度かあるため、いつもより時間を離されないよう意識しているように見える。

しかし最終盤、いよいよ藤井くんが時間を使いきり先に秒読みになった。豊島さんはまだ残り時間が9分ある。

時間が無い中でも正確に指し進められることが藤井くんのすごいところだと解説の棋士たちは口をそろえる。しかしわずかな緩みすら見逃さず、より難しい場面へと誘うのが豊島さんの強さ。

Abema AIの示す形勢は徐々に藤井くんの有利に傾き始める。秒読みに入った時点で藤井くん58%、豊島さんは42%。
そして少しずつその差が拡大していく。

いよいよ藤井くんの勝率が70%台から80%台に移ろうかという時、藤井くんは最善手では無い手を指した。3七角だ。
相手の玉を寄せに行く手だが、豊島さんがたったひとつの抜け道を見つければまた互角に戻ってしまう、そんな手だった。
評価値は一転して豊島さん有利に傾いた。
しかしそれから数手先、藤井くんは今度は逆サイドから歩を連打して詰めろをかける。「ここでこの8六歩が詰めろで入るのか、すごいな!」と解説の高見七段。
豊島さんもすでに1分将棋。2回目に打たれた歩を豊島さんが金で取る。しかしそれがどうやら毒饅頭だったようだ。形勢は再び藤井くんサイドへ。今度は一気に勝勢だ。

そこからの決着はあっという間だった。

今まで何度挑んでも超えられなかった大きな壁。
現竜王の実力。
インタビューでは過去の対戦成績は意識しないと言っていたが、いくら藤井くんと言えど気負ってしまっていただろう。
それをやっと乗り越えたことで、今後はよりのびのびと対戦することができるのではないか。

藤井くんが新たな1ページを開く瞬間が見られるのかどうか、私は今日の対局を注視していた。
タイトルを獲ったわけでは無い。朝日杯で優勝したわけでもない。
準々決勝の一戦に勝っただけ。
されどそれはとても大きい一勝だったと思う。

しかしもちろん豊島さんも黙ってはいないだろう。
「藤井くんが登場したことで一番危機感を募らせたのはおそらく豊島さんだろう。その証拠に対藤井戦では豊島さんはいつも本気で挑んでいる。棋譜や戦い方からそれが見える」と谷川九段は言っていた。
今後も大きな壁であることに変わりはない。
次に二人が対戦する時はどんな戦いになるのか、今から楽しみで仕方ない。

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