Column_s#7 学年テーマの話
学年担任が4月になってすぐ決めること。それは、「学年テーマ」です。
学年の子どもたちが、この1年「目標」として意識してほしいテーマ。
学年の子どもたちの「目指す姿」として、教師たちが意識するテーマ。
保護者と学校が共通の思いをもって1年間取り組んでいけるテーマ。
そういったもろもろの願いが込められた言葉を探します。
できるだけキャッチーで、すっと頭に入ってくるものが理想です。
一般的な言葉を選択する場合もあれば、造語に近い言葉になる場合もあります。
そしてこのテーマは、保護者向けに定期的に発行する学年だよりのタイトルにもなることが多いのです。今回は、そんな「学年テーマ・学年だよりタイトル」の話です。
「Shiny」と「Shine」
私が以前勤務していた学校での話です。
K先生の担任している4年生が、学年テーマを「Shiny」と設定していました。「輝く」といった意味の形容詞です。シンプルですが、分かりやすいですし気持ちのよい言葉だなあと最初に聴いたとき思いました。
その4年生のK先生と学年テーマの話をする機会があったとき、「Shiny」にしたもう一つの理由をきくことができました。「Shiny」という言葉そのものよりも、新たに聞いた理由の方がたいへん印象深く残りました。
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K先生が以前勤務していた学校で、ある学年が「Shine」というテーマを設定したそうです。「輝く」「照らす」といった意味を込めたことは容易に想像がつきました。
「Shiny」と「Shine」。込めた願いは同義であったにも関わらず、「Shine」のテーマは早々に教師側の願いが頓挫してしまったそうです。それはなぜか。
「Shine」というテーマを子どもたちに掲げたとき、その学年の子どもたちは英語を知らないので、ローマ字で読んだそうです。
・・・Shine・・・Shine・・・
結局、子どもたちにとってこの学年テーマは、ローマ字読みをしたその言葉として頭に残ってしまいました。一度定着したマイナスのイメージを取り除くのは相当に困難です。この学年の先生方は、願いを込めて設定したテーマがこのような結果になり、さぞかし残念な気持ちになったことでしょう。そして、複数の先生が見ていたのにも関わらず誰一人気付けなかった後悔も多分にあったことだと思います。
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K先生は、この出来事をよく覚えており、同じ轍を踏まないようにと「Shiny」という綴りのテーマに設定したということでした。
教師もみな一人の人間ですから、ミスは当然します。ですが、「ここぞという時」のミスや、「これは絶対に外したくない」というミスは、可能な限り起こさないよう十分に時間をかけて準備すること。余裕をもって検討すること。私はこのエピソードから、それを強く痛感しました。
さて、この話の最後に、K先生の実践を紹介して終わります。
多くの場合、学年テーマを発表するとき、教師がどのような願いをこめてこの言葉になったのかを子どもたちに伝えます。学年だよりを初めて配るときにあっさり伝える場合もあれば、学年全体を集めよく強調して伝える場合もあります。年度がスタートして早々に学年全体に向けて話をすることを「学年開き」と表現したりもします。
K先生は後者の方法を採ったそうですが、そこにもう一味加えています。
共有のワークスペースには、その後、大きく印刷された学年テーマのまわりにたくさんの「シン」が書かれた、素敵な掲示物が貼られていました。子どもたちは、この掲示物を見て一年を過ごしていくことになりました。
学年テーマを伝える場合、教師の願いがしっかり込められているからこそ、得てして教師側からの一方的な伝達の形式になりがちです。K先生の実践が、そのような「伝達型」ではなく「対話型」「共有型」であったことが、また優れた実践だと感じるところです。
(追記)
このcolumn記事を書きながら、「学年だよりのタイトル候補が一覧で出てきたら便利だな。」とふと思い立ち、検索してみました。すると、「公益財団法人理想教育財団」というところのホームページがヒットしました。
見てみると、
【学年通信・学年だより】編
【学級通信・学級だより】編
としてそれぞれタイトル候補が並んでいました。私は現職時代自分の頭の中でばかり考えていたので、「こういうのを利用すれば便利だったな。」と今頃になって気付きました。一覧を見てみると、かつて私が利用した言葉がいくつも候補に挙がっており、懐かしい気持ちになりました。
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