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「IRON×MAIDEN-アイアン×メイデン」第三話

〇基地
 〈IMプロジェクト・設計班〉の部屋。入口に〈責任者・九重英聡〉、〈副責任者・鼎蒼生あおい〉の名前。
 一般的な事務室。設計した災害用機械の模型が多数飾られている。現在、巴衛ともえが離席中。咲楽さくら三城 みきが自席で作業中。九重と鼎が会話中。
 九重の席。整理整頓。席の後ろに書類棚、内一つは〈AI〉に関する資料で、特殊なロックが掛かる。机上に家族写真と、穂村(ボサボサの髪で無精ヒゲを生やした男性)との写真。
 席につく九重。机にタブレットと紙の資料。タブレット上に浮かぶロボット(02に似た重装備のデザイン)のホログラム。机の前に立つ鼎、真面目な顔で話す。
鼎「こちらがIRON専用の装甲です。今のIRONは、動きやすさを重視し、最低限の装甲しか身に付けていません。初出動から現在までの七件の戦闘を分析した結果、内二件で、内部骨格まで達する重傷を負っており、防御面の強化は避けられません」
 タブレットの画面をタッチする鼎。特殊な銃器のホログラム。
鼎「また、武器に関しても同様です。剣の場合、どうしても接近戦になってしまう。外来種との距離が近ければ、胸部に搭乗するMAIDENへの危険度が一層高まります。銃器の場合、遠距離からの攻撃が可能。MAIDENの安全を確保しつつ、外来種を撃破出来ます」
九重「装備については私も考えていた。だが決定権は我々には無い。戦う本人次第だ」
鼎「……」
 残念そうな鼎。
九重「然し、あって損は無い。モデルデータを作っておいてくれ。いつか必要になる時が来るかもしれない」
鼎「分かりました。…あと、個人的にお聞きしたい事があるのですが…」
咲楽「でっきたぁああああああっ!!!」
 ヘッドホンを付けた咲楽、両腕を上げ、嬉しそうに叫ぶ。
【咲楽】二十代半ばの男性。中肉中背、やんちゃな性格(三城と巴衛とは同い年で、高校からの付き合い。文句を言ったり、あだ名で呼び合うほど仲が良い)。咲楽の席は子供っぽい。書類がまとめられず山積みで、ドライバー等の工具類も出しっぱなし。自作の動物ロボ(イーグル・ライオン・サメ。一話目に登場したもの)の模型が飾られている。
九重「何がだ? 咲楽君」
咲楽「決まってンしょ、主題歌っス! ロボットっつったら、熱ぅ~い歌が必要っスから!」
 席を立つ咲楽。小型スピーカーを手に、広い場所に行く。
咲楽「それでは、ミュージック、スタアァット!」
 ロボットアニメのOP風のカット。前述した動物ロボが歌に合わせてそれぞれ変形(イーグルは頭部と背中、ライオンは腕と胸部、サメは脚)。合体し、人型ロボットになる。
歌『自然災害、人工災害、僕らに危険が迫ってる。そんな時には、防衛局から、救援ロボットやって来る。ウィンドイーグル!〈イイイーッ〉 グラウンドライオン!〈ガオガオガオーッ〉 オーシャンシャーク!〈シャッシャッシャッ〉 三つの力が一つになって、完成、僕らのサクライダー! 飛べ! 走れ! 泳げ! 助けを求めるみんなのために、行け行け僕らのサクライダー! 災害対策課公認ヒーロー、サークラーイダー!〈ダダーンッ!〉』
 ポーズを決める咲楽。いつの間にか、ロボットの模型(机上の三体が合体したもの)を握っている。
 無表情の九重。ぽかんとする鼎。
咲楽「マジで良くないっスか?? 配信したら絶対ウケますって! あっ、印税はちゃんと貰いますよ。作詞作曲歌演奏全部オレなんで」
三城「作るならIRONの歌でしょ。自分のロボじゃなくて」
 冷たい視線を咲楽に送る三城。
【三城】クールな印象。長身で痩せ気味、ハーフぽい顔立ち。三城の席はオシャレ。モノトーンを基調とした文房具や収納グッズ。自作の乗り物ロボ(大型トラック)の模型が置かれている。
咲楽「ちゃんと作るわ、サクライダーが売れたらな」
三城「残念。僕のが先」
 タブレットを操作する三城。管理画面。〈ERIKU MIKI(名前)〉〈TRANSFORMATION〉〈TRUCK〉の文字。机上の大型トラックが動き出す。収納グッズをくぐり抜け、机を飛び越える。画面を操作、〈PLANE〉の文字。落下中、トラックが飛行機に変形、室内を飛び回る。水槽に近付く。画面を操作、〈SHIP〉の文字。一話目に登場した軍艦に変形し、着水。暫く航行。水槽のガラス面に近付く。画面を操作、〈ROBOT> の文字。戦艦がゆっくりと浮かび、人型ロボットに変形、水槽の縁に立つ。
 満足気な笑みを浮かべる三城。
三城「いつ見ても美しい。やはり、ロボは〈変形〉だね」
咲楽「ハイィィ?? 何言ってんの、えりっくん。ロボは〈合体〉が常識ですけどぉ??」
三城「姿形を自由に変える、変形こそが至高」
咲楽「合体だっての!」
三城「変形」
咲楽「合体!」
巴衛「装着だよぉ」
 現れる巴衛。ヘルメットを被り、腕や脚、胴体にアーマーを着用(一話目の05に似たデザイン。胸元に〈HEROBOT〉〈ともえかおる〉の表記)。
【巴衛】マイペースな性格。長身でメタボ体型。巴衛の席はクセがある。デスクやイスを勝手に改造。机の傍に山積みの駄菓子箱。あだ名は〈ぷくちゃん〉。
巴衛「ヒーロボットアーマー。災害救助プログラムを搭載してるから、誰が着ても、瓦礫を退けたり、煙の中でも目が見えたり、ロボットみたいに動けるよぉ」
咲楽「ぷくちゃぁ~ん。ロボットは着ンじゃねぇ、乗ンの」
三城「XXXLサイズは流石にデカ過ぎ。誰が着るのさ」
巴衛「二人のロボットはボクより大きいけどぉ?」
 騒ぐ三人。冷静な九重と鼎。
九重「いつものか」
鼎「高校時代から揉めてるそうですね。みんな違ってみんな良い、と思いますが」
 壁時計。十一時前。
鼎「すみません。IRONの仮想訓練がありますので。失礼します」
 タブレットと作業用のショルダーバッグを手に、部屋を出る鼎。
 不思議そうな九重。
九重「鼎君は訓練の担当では無いが」
三城「例の面会からあんな感じです」
巴衛「もしかして、恋、かなぁ~」
咲楽「いやいやいや、いくらなんでも拗らせすぎだろ。恋人欲しいからって、そりゃ…」
 鼎の席のカット。九重と同じく整理整頓。書類棚やモニターの影に、恋愛にまつわる小さな置物(お守りや男女の道祖神等)が。

〇訓練施設
 ドーム型の建物。壁に付いた無数のレンズでバーチャル映像を投影。市街地での戦闘を想定した訓練。敵は巨大な怪獣で、戦闘はさながら特撮番組のよう。尚、アイミは不在。監視室で分析する担当者達。監視室の外で見学する鼎、真剣な様子でIRONを見る(インカムを着用)。離れた場所から見学する四人。鼎を見る咲楽とアーマーを付けたままの巴衛。ぶかぶかのヘルメットを被る咲楽、視覚機能を活用し、ズームにして鼎の表情を見る。
咲楽「確かに。あの目はガチっすわ。鼎パイセン、そういう趣味があったとは」
巴衛「好きそうだよねぇ、愛実ちゃんタイプ。IRONとは恋のライバルだねぇ」
咲楽「えっ? そっち??」
 IRONを見ながら会話する三城と九重。
三城「外国は興味無いんですかね、正体不明の怪物が宇宙に居るのは」
九重「今の時代は、宇宙より海だ。新たなエネルギー資源が発見されてから、どの国も海洋開発で忙しい。宇宙に拘っているのは我が国だけだ」
三城「確か、IRONは宇宙探査用のロボットで戦闘用では無いんですよね。探索中に偶々、外来種を発見、それで武装して退治している、と。そうは言っても、支援ぐらいは良いんじゃないです? 地球の危機は国際的な問題ですよ」
九重「暗黙のルールがあるんだ。宝だろうがゴミだろうが、最初に見つけたヤツの物、ってね」
 怪獣を倒すIRON。訓練終了。スピーカーから放送。
放送「お疲れ様でした。十五分の冷却休憩後、訓練を再開いたします」
 映像が消え、体育館のような空間に。仁王立ちのIRON。スプレー缶を付けた特殊なドローンが数機、IRONの周囲を飛行。スプレーから冷気が噴出し、身体を冷ます。
 羨ましそうに叫ぶ咲楽。
咲楽「かああーっ! オレもロボット動かしてぇ! 災害現場で活躍して、藍之介あいのすけクン、カッコイイー! って褒められてぇ!」
三城「男のロマンだよね」
巴衛「でも、ボクらは操縦者じゃないからねぇ。ボクらの仕事は、対災害用の機械を考えて、設計して、出力する事だしぃ」
 残念そうな三人。
咲楽「ま、出来ねぇモンはしょうがねぇ。なぁ、ぷくちゃん、サクライダーの歌、聞かせてやンよ」
三城「その前に。胸の名前、ツッコんでも?」
巴衛「名前書いとけば、落とし物で届けてくれるなぁって」
咲楽「ンなもん、落とすなっての」
 賑やかに帰る三人。鼎に声を掛ける九重。
九重「鼎君。IMプロジェクトのメンバーである以上、IRONとは何かしら接点を持つ。だからと言って、担当外の仕事にまで首を突っ込むのは…」
鼎「人は、ロボットになれますか?」
九重「……、どういう意味だ?」
 何かを察し、九重の表情が強張る。真剣な様子で尋ねる鼎。
鼎「〈機械の身体〉と〈人間の意識〉を持つ存在は作れるのかと。主任ならどう考えます?」
九重「……」
 口をつぐむ九重。暫しの沈黙。苦々しい表情で答える九重(何かを含んでいる様子)。
九重「人は人であり、機械は機械だ。互いの境界線は簡単には踏み越えられない、例え、いかなる理由があろうともな」
 立ち去る九重。苦笑いする鼎。
鼎「つまりは不可能、って事か。そりゃそうだよ。人がロボットになるなんて、バカげた事…」
 鼎のインカムに通信。ハッとする鼎、IRONに目を向ける。じっと鼎を見つめるIRON。
鼎「……、今、何と?」
 再び通信。鼎の顔色が変わる。手で口を押さえ、背を丸め、何かを堪える。暫しの沈黙。鼎の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
鼎「その話、詳しく聞かせて頂けますか?」

『IRON×MAIDEN 第三話』  終

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