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【漫画原作】『IT DREAMS-人外になった男の話』【人外×少女】

読切用のマンガ原作です。
魔法や怪物が登場しない、すこしふしぎな【人外×少女】です。

複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。

あらすじ
漫画家の小切日大嗣は印税で田舎の山を買い、一人暮らしをしている。編集者が山に住む理由を尋ねると「やりたいことがある」とだけ答える。大嗣のやりたいことは「人外になる」ことで、自作の異形マスクやゴシック系の衣装を身につけては、なりきり(コスプレ)を楽しんでいた。ある日、山に迷い込んだ少女・華絃と出会う。コスプレ趣味がバレたくない大嗣は、華絃とある〈契約〉をする。そして、ワケありな男性と少女の奇妙な二人暮らしが始まる。

登場人物
小切日 大嗣(おぎるび・だいすけ)
40代の男性。職業はマンガ家。細身で背が高く、知的で優しそうな雰囲気。「人外」が好きで、コスプレする為に印税で山を買い一人暮らしをしている。人外時の名前は「デイヴ」。
華絃(けいと)
高校生の少女。小柄で華奢な体型で、顔や雰囲気、全てが地味(控えめ過ぎて目立たない印象)。大人しい性格。とある事情で山に入り、大嗣(デイヴ)に出会う。デイヴには「ケイティ」と呼ばれる。

本編
〇田舎(春頃)
水の張った田圃、畦道に道祖神、点在する民家。典型的な村(集落)。

山小屋風のジビエ系レストラン。
店内にはシカの剥製やクマの毛皮等が飾られている。
平日の昼頃で客はまばら。窓際のテーブル席に座る二人の男性。
大嗣と年下の編集者。(編集者は大嗣と対照的にルーズな印象)。
編集者の手にマンガの原稿。

編集「確かに。来月号の原稿、お預かり致します。…で、小切日先生。打ち合わせ、これからはメールでしません? シンドイんすよ、此処まで来るの」
大嗣「悪いね。繋がらないんだ、ネットは」
編集「そーだった…」
窓から外を見る編集者。青空と雄大な山々。
編集「山の中っすよね、先生の家」
呆れ気味の編集者。
編集「驚きましたよ、印税で山買ったって。何でそんな」
大嗣「やりたい事があってさ」
編集「キャンプとかキノコ狩り?」
料理を運ぶ山賊風の店主。
ランチセット(シカのステーキ、パン、サラダ、スープ)。
店主「お待たせェ! 先生が仕留めたシカですぜ」
編集「あー、マタギかー。憧れますよね、銃撃つの。でも気を付けて下さい、ニュースになる事だけは」

〇大嗣の家(夜)
※家の詳細な描写は後で。ここでは屋根や壁等一部分だけ。

自室。
ランタンの明かりに照らされた狩猟の道具。
マタギ(狩猟用)の服、規則通りに保管された猟銃。

大嗣「狩猟じゃないんだ、やりたい事は。山の管理に必要でね。庭を荒らされても困るし」

姿見の前に立ち、身嗜みを整える大嗣。
フリルの付いたシャツ、黒いベストとスラックス。

大嗣「ヒーローに魔法使い、誰だって夢を見る、〈特別な何かなりたい〉と。僕もそう。昔から語り継がれるお話。其処に登場する、魅力的で恐ろしく、不思議な存在」

フルフェイスのマスクを被る。
〈シカの頭骨〉に〈ウサギ風の長いケモノ耳〉と〈禍々しいツノ〉が付いたデザイン。

大嗣「―――〈人外〉にね」

*****
〇山(後日・午前)
人外の格好をした大嗣。
前シーンの服装に加え、黒いトレンチコートと白い手袋を着用。
チェキで自撮り。写真を確認する。マスクで表情は分からないが、嬉しそう(満足そう)な様子。

大嗣「いつ見ても良いなぁ、人外は。異形頭、貴族の装い。思わず真似(コスプレ)したくなる。都会じゃ人目に付き易い、でも此処なら気にせず自由に出来る。新聞配達、テレビの勧誘。誰一人訪れない。バレる心配は一つも無…」
写真から顔を上げる大嗣。少し離れた場所、正面に佇む一人の少女・華絃。
(華絃は、黒縁メガネ、パーカーとジーパン、ショルダーバッグを提げた地味な恰好)

大嗣「えっ…」
華絃「あっ…」
互いに目を丸め、驚く。全身が固まる。
大嗣「(なっ、何で人がっ!?)」
華絃「……」
マスクの下、ばつが悪そうな顔の大嗣。
ぽっかりと口を開け、放心状態の華絃。

大嗣「(…不味い、ネットに曝される。小切日大嗣、四十三歳、独身マンガ家。趣味は人外のコスプレ…。クソッ…、如何すれば…)」
ふと足元に目が行く。地面に落ちた写真。何かを閃く。

大嗣「(待てよ。身形(みなり)が人外なら、成り済まして誤魔化せる? …良し、一か八か!)」
姿勢を正す大嗣。

大嗣「初めまして。ボクはデイヴ、この森に棲む人外だよ」
華絃「じっ、人外…。…居るんだ…、本当に…」
大嗣「(やっぱり! 本物と思い込んだ! もっと人外らしい事をして、其の気にさせよう)」

膝を曲げ、華絃と目線を合わせる大嗣。
大嗣「君の名前は?」
華絃「華絃…」
大嗣「カワイイ名前だね、ケイティって呼んでも?」
嬉しそうに頷く華絃。

大嗣「ケイティ。悪いけど、君を罰しなきゃいけない」
華絃「えっ? どうして…」
指さす大嗣。〈THE PRIVATE AREA:私有地につき 立ち入り禁止〉の看板が掛かる木。
大嗣「ここはボクの住処。勝手に入っちゃダメなんだ」

手帳を取り出す大嗣、インクペンで何かを書く。
大嗣「でも特別に許してあげよう。ボクと契約したらね」
華絃「契約…」
大嗣「ボクのコト、誰にも言わない。出会ったコト、山に棲んでるコト、ボクの顔も勿論。守れるかな?」
華絃「うん…」
大嗣「ありがとう。でも不公平だね、ボクだけお願いを聞いてもらっちゃ。ケイティもイイよ。何でも言って」
華絃「えっと、それじゃあ…」
 

〇大嗣の家・外観
伐り開かれた場所、ぽつんと建つ洋館風の建物。
傍には薪棚(薪を置く場所)、農具小屋、椎茸の原木と小規模な菜園。
シャッターが閉まったガレージ。家の近くを流れる小川。
※大嗣の生活は〈自給自足〉のイメージ。大嗣の家に電気は通っていない。その為家電製品は一つも無い(但し、懐中電灯やランプ等、電池で動くものはある)。食料は地下貯蔵庫に保管。飲み水は小川の水を汲み、簡易浄化槽(若しくは雨水タンク)で濾過している。風呂は源泉かけ流しの温泉、トイレはバイオトイレを使用。風呂とトイレは渡り廊下を通じて建物と繋がっている。主な部屋の間取りは、一階がリビングとキッチン、二階が大嗣の自室と来客用の部屋。
 

〇大嗣の家・室内
リビング。洋風の内装と調度品。
佇む華絃、目を輝かせ、うっとりしている。
室内奥に薪ストーブ。肩を落としてしゃがむ大嗣、薪をくべたり火を点ける。
大嗣「(〈一緒に暮らしたい〉か。そう言うよなぁ、人外に出会ったら。こうなるなら、素直に話すべきだった…)」
 
夕食。二人掛けのテーブル。
二人の前にワンプレート料理(パンケーキ、サラダ、ウィンナー)、スープと飲み物。トッピング用に蜂蜜、ジャム、ナッツの小瓶が並ぶ。
大嗣「初めてなんだ、誰かにもてなすの。口に合うと良いけど」
蜂蜜を付けたパンケーキをナイフで一口サイズに切り、口にする華絃。
華絃「美味しい…。甘くて、フワフワして…。有名なパティシエが作ったみたい」
大嗣「嬉しいね、そう言ってくれると。おかわりあるよ、好きなだけ食べて」
 
温泉。脱衣所から声を掛ける大嗣。
大嗣「どう? 湯加減は」
華絃「丁度良い…」
大嗣「源泉かけ流しの温泉だよ。ゆっくり浸かって、疲れを取ってね」
 
二階。来客用の部屋、〈GUEST ROOM(ゲストルーム)〉の掛け看板。
カーテンを閉める大嗣。ベッドに潜る華絃。
大嗣「ボクの部屋は廊下の突き当り。何かあったら声を掛けて。それと、この家には電気が通ってなくてね。明かりはこれを使って」
枕元のテーブルにランプと懐中電灯、予備の電池。
膝をつき、しゃがむ大嗣。華絃に目線を合わせる。恥ずかしそうな華絃。
大嗣「おやすみ、ケイティ」
華絃「…おやすみ」

〇自室(冒頭の部屋)
広い室内。書斎も兼ねており、本棚や作業机等がある。
マスクを脱いだ大嗣、ぐったりとイスに座る。ワイシャツやベストのボタンが外れ、だらしない恰好。
大嗣「疲れた…。ラクじゃないな、人外のフリも。…寝よう。これ以上、何もしたくな…」
ノック音。ビクッとする大嗣。
 
扉を開ける大嗣、斜めに向いたマスク、シャツやベストのボタンが掛け間違っている。
ランプを手に立つ華絃。
大嗣「な…、何かな?」
華絃「トイレが…」
 
トイレ。洋式便器の中に詰まった木材チップ。
特殊な棒でくるくると掻き混ぜる大嗣。
大嗣「これはバイオトイレ。水を使わず、微生物の力で処理するんだ。出した後は、こんな風に掻き混ぜておいてね。匂いが消えるし、少し経てば肥料にもなるから」
不思議そうな顔で大嗣を見る華絃。
大嗣「どうかした?」
華絃「人外もするんだなって…」
 
懐中電灯を手に、渡り廊下を一人歩く大嗣。
疲れのせいで、ややイライラ気味。
大嗣「そりゃするよ、人間だから。と言うか普通は気付くよ。〈人外〉は作り話、現実には居ないって」
リビングに到着。ソファに置かれた華絃のショルダーバッグが目に入る。
 
自室。
素顔の大嗣、バッグから荷物を取り出し、机に並べる。
(荷物は長財布、小袋のお菓子、小さなペットボトル飲料、A5サイズのリングノート、筆記用具。スマホは無い)。
大嗣「未成年だよな、明らかに。早く帰さないと、面倒な事になる。えっと、身元が分かるものは…」

財布を確認。小銭入れ部分に数錠の薬。眉を顰める大嗣。
大嗣「…睡眠薬? まさか…」
ハッとして、ノートを捲る。家族や友達との不仲、居場所の無さ、将来への悲観等が綴られている。
目に留まる一文、〈見つけてくれた人へ。このままココに居させて。誰にも話さないで〉。
真剣な表情の大嗣。
大嗣「…其れで山に来たのか。僕に会わなきゃ、今頃は…」

ページを捲る手が止まる。人外と少女のイラスト。森の中で戯れる、館で過ごす、魔法を使う等、〈人外×少女〉作品に良く見られるシーン。
大嗣「嬉しいよね、大好きな人外に出会えたら。一緒に暮らす事が出来たら、尚更」
机に置いたマスクと契約書に目を向ける。
大嗣「契約は守らないとね、人外らしく」

*****
〇都内(後日)
大きな公園。蚤の市。古道具や輸入雑貨を扱う店等が並ぶ。
ブラつく大嗣と編集者、お互い両手に紙袋を提げている。
編集「今日も買いますねぇ。何に使うんすか?」
大嗣「資料、かな」
足を止める大嗣。アンティークの服を扱う店。
女性向けの服を二、三着選び、購入。
大嗣「(店員に)お願いします。出来れば、可愛らしい包装で」
大嗣の様子を訝しがる編集。

+++++
林道を走るジープ。後部座席に買った物。助手席に人外のマスクと衣装。


〇自宅
来客用の部屋が〈KATIE`S ROOM(ケイティの部屋)〉に変わっている。
女の子向けに模様替えされた室内。
ガラス瓶や鉱石、ドライフラワー等、ファンタジー系のアンティーク品が並ぶ。ベッドに並ぶ服。
目を輝かせる華絃。
華絃「カワイイ…」
大嗣「友人がくれたんだ。ケイティに着て欲しいって」
華絃「…でも、似合わないよ。私が着ても…」
大嗣「それじゃあ、なってみようよ。似合う女の子に」
華絃「どうやって…?」
大嗣「まずは気持ちを持つ、こんな風になりたいって。次は考える、どうしたらなれるかって。そしてやってみる。ゆっくりでイイ、少しずつ近付いていくんだ、なりたい自分にね」
華絃「……」
テーブルに目を向ける華絃。
可愛らしい髪留めや小道具、アンティーク調の化粧箱が並ぶ。

※以降、華絃の外見が変わっていく。髪型が変わる(髪留めを付ける。結ぶ等。結び方も徐々に複雑になっていく)、眉毛を整える、メイクをする等。黒縁メガネもアンティークデザインの物に変わる。服装については、アクセサリーを付ける、似合うコーディネートをしていく等、オシャレをしていく。外見に合わせて、顔(表情)も明るくなる。声がはきはきする、自信を持つ等、行動や内面も変化していく。
 
*****
〇自宅・外
丸太の簡易的なテーブルとイス。
テーブルに蔓や木の実等。蔓細工を作る二人。
大嗣「ここをこうして、完成だ」
リースが二つ。きちっとした形と歪な形。
落ち込む華絃。
華絃「…イイなぁ、デイヴは。料理に掃除、何でも出来て。私ムリ、不器用だから…」
大嗣「才能は関係無いよ。誰だって最初は出来ない。だから練習して上手になるんだ。やり続ける事が一番の近道さ」
 
*****
〇山中
ツナギ風の格好をした大嗣。鉈やナイフ等の装備、登山リュックにクマ避けの鈴。
山歩き(ハイキング)向きの服装をした華絃。
大嗣「もうすぐだよ、この先にある見せたいモノは」
視界が開ける。山頂付近。
夏の青空、雄大な山々、村(集落)が見える。
圧倒される華絃。
華絃「…凄い。初めて見た、こんな景色…」
大嗣「今は夏の姿。秋には紅葉、冬は雪化粧、春なら花見が楽しめる」
華絃「ここにはたくさんあるね、面白いこと。何も無かった、私が居た所は…」
大嗣「今居る場所が退屈なら探してみるんだ、心躍る場所を。どこかに必ずあるよ、世界は思ってる以上に広いから」
 
*****
〇自宅・大嗣の自室(後日・昼頃)
資料を読みながら、ネームを描く大嗣。
大嗣「どうもしっくり来ない。何が駄目だ? セリフかコマか、…ん?」
頬を撫でる。マスクを付けている事に気付く。
大嗣「肌荒れが酷いと思ったら…。脱ぐのも忘れるなんて、相当馴染んでるな、人外の生活」

席を立ち、窓辺へ向かう。薄手のカーテンを少し開け、外を見る。
作業着の華絃、薪割りをする。慣れた手付きで斧を使う。
大嗣「斧すら持てなかったのに、今じゃ職人顔負けだ」
壁に目を向ける。
コルクボードに刺さる、笑顔の華絃やツーショットのチェキが数枚。
大嗣「二人暮らしは問題無い。華絃にとっては憧れの生活だし、僕も話し相手が居て嬉しい」

マスクから覗く真剣な目。華絃に特別な感情を抱いている様子。
大嗣「…このまま、続いてくれたら」
 
*****
〇ジビエ系レストラン(秋頃・平日)
壁にアニメの宣伝ポスター。棚にはアニメ元の大嗣原作マンガが並ぶ。
窓際の席。打ち合わせ中の大嗣と編集。

編集「確かに。三号分の原稿、お預かり致します。…で、マジっすか? 山に籠るって。東京(こっち)戻りましょうよ、冬くらいは」
大嗣「留守の間、クマに住みつかれちゃ困るからね」
編集「でも寂しいでしょ、男一人。やる事無いし」
大嗣「狩りでもするよ、猟期だから」
編集「出たー、マタギー」
大嗣「ゆっくりしたいんだ。暫く忙しくてさ、中々相手も出来なかったし」
含んだ様子で山を見る大嗣。
 
*****
〇自宅(夜)
ベッドに座る大嗣と華絃。
大嗣「ギィギィと響く不気味な音。息を顰め、扉を開ける彼女。そこで見たモノは?」
華絃「ネズミ!」
大嗣「残念。おばあさんの足踏みミシンでした」
華絃「何ソレ!」
笑う華絃。

大嗣「さて、今夜はこの辺で」
立ち上がる大嗣。
華絃「…ありがとう」
華絃を見る大嗣。
大人びた様子の華絃。最初に比べて顔つきや雰囲気が変わっている。

華絃「デイヴのお陰。毎日が嬉しくて、何をしても楽しくて。生きてる事が幸せだって感じる。今まで無かった、そんな風に思えたの」
嬉しそうに微笑む華絃。
華絃「一緒に居て。これからも、ずっと」

マスクで表情は分からないが、嬉しそうな様子の大嗣。膝を曲げ、華絃と視線を合わせる。華絃の頬にマスクの鼻先(若しくは口元)を触れ、キス。
頬を染める華絃。
大嗣「勿論さ」

*****
〇自宅(冬頃)
玄関に飾られた蔓のリース。
リビング。赤々と燃える薪ストーブ。部屋の隅に置かれた手製のクリスマスツリー。飾り付けをする大嗣。
キッチン。エプロン姿の華絃、料理をする。

華絃「何が欲しい? クリスマスプレゼント」
大嗣「肩叩き券。ケイティは?」
華絃「お出掛け」

華絃を見る大嗣。料理中の華絃、大嗣の視線には気付かない。
華絃「デイヴってば、よく一人で出掛けちゃう。嬉しいよ、お土産買ってくるの。でも私だって行きたい、鉱石とか雑貨売ってるお店。この目で見たいもん」
大嗣「……」
華絃「あっ、ソース終わっちゃった。地下室行ってくる」

部屋を出る華絃。複雑そうな様子の大嗣。
大嗣「連れて行きたいさ。人外でも出歩ける方法が有れば…」

ドンドン、と鳴るドアノッカー。
玄関に向かう大嗣、覗き穴から外を見て、ハッとする。

+++++ 
外。玄関前。
私服(打ち合わせで着る服)に着替えた大嗣。
来客は編集者。車庫の傍にレンタカー。

大嗣「誘いかな? 忘新年会の」
編集「急ぎの打ち合わせで。例の特集、前倒しで載せたいって。電話持ってればスグなんすけど」
大嗣「考えておくね。話なら店で。奢るよ、わざわざ来てくれたから」
編集「イイっすよ、此処で」
大嗣「…!」
大嗣の顔色が変わる。嬉しそうな編集。

編集「生で見たかったんす、先生の家。うわぁ~、マジで外国の屋敷だ。写真よりスゲェ~」
大嗣「…悪いね。客を持て成すには、散らかり過ぎて…」
編集「気にしませんよ。(小指を立てて)コレ、が居てもね」
大嗣「!」
驚く大嗣。ニヤニヤする編集。

編集「やっぱりー。女性向けの店やたらと行きたがるから、こりゃ何かあるなって。大丈夫、誰にも言いませんて、先生のタイプとか相手の容姿」

勝手に玄関を開け、入る編集。華絃と鉢合わせしたらしい声が聞こえる。
編集「お邪魔しま~す。どうも、初めまして。モレキュール編集部の森です。小切日先生にはいつもお世話になっております。おっ、クリスマスツリー! プレゼント沢山買って貰って下さい。何たって先生は、ウチで一番稼いでるマンガ家ですから!」

その場に立ち尽くす大嗣、唇を噛みしめ、青ざめた顔。

数時間後。外。出発するレンタカー。見送る大嗣。
玄関を開け、中に入る。階段を上る。
ケイティの部屋、固く閉じた扉。その前に佇む。

力なくノックする大嗣。

華絃「……。誰?」
大嗣「…ぼくは…」

口をつぐむ大嗣。言葉が出てこない。

沈黙。重たい空気。時間だけが経過する。
何を話せば良いか分からず、口を開いては閉じるの繰り返し。
意味無く拳を握ったり解いたりする。
大嗣の額や頬を流れる汗、名案が浮かばず焦っている。
腕を組み、片手で頬を撫でる。その瞬間、何かを閃く。

ケイティの部屋。ベッドに潜る華絃。
冒頭の地味な恰好(髪型や眼鏡含む)に戻っている。泣いた為、目が腫れている。

ノック音。答えない華絃。

大嗣「…ゴメンね、驚かして。出会った時に言うべきだった。僕はマンガ家の小切日大嗣」

華絃の顔色が変わる。怒りや悲しみが浮かぶ。

大嗣「―――に成り済ましている、人外のデイヴだ」

ハッとする華絃。

大嗣「人外はね、〈人に成り済ます〉術を知っている。ボクもそう。二十年前から青年誌でマンガを描いている、誰にもバレずにね。言えなかったのは作品のせいだ。ケイティみたいな女の子には、ウケない物語だからさ」

暫しの沈黙。恐る恐る扉が開く。隙間から様子を伺う華絃。

扉の外に立つ、人外姿の大嗣。華絃と初めて会った時の格好。
膝を曲げ、華絃と視線を合わせる。

大嗣「暖かくなったら出掛けよう、ケイティが行きたい場所へ。この顔じゃ目立つから、人間の格好だけど。それでも、良いかな?」 

『IT DREAMS 人外になった男の話』 終

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