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『DREAMCATCHER-ドリームキャッチャー』第二話

〇ジョンの自宅(昼過ぎ)
 茅葺屋根の木造家屋。玄関に〈John Doe Clinic〉の看板と、小さな円形の針金細工。(※ジョンの自宅は、内装や庭も含め、ハリウッド映画に出て来そうなどこかズレた感じがある)。

 土間を利用した診察室。元はジョンの作業場で、作業台、ペンチや小型のガスバーナー等の工具類、様々な太さの針金の束が置いてある。部屋の隅が作品置き場になっており、動物や乗り物などの針金細工が飾られている。特殊な錠前(針金製)が付いたガラスケースにドリームキャッチャーが数個(悪夢を封印したもの。一話目のも含む)。
 向かい合って座るジョンと患者の少女。(ジョンは私服の上に白衣を着る。また、高さ調節可能なキャスター付きのイスに座り、少女と目線を合わせている)。少女は5歳位で、内気そうな感じ。黒のロングヘアー、ドミノマスク、胸にNと書かれた女の子のぬいぐるみ(アニメの主人公)を抱いている。少女の後ろに座る母親。壁際の長イスに座るニコル。(ニコルの手にはメモ帳。ジョンを取材中)。
少女「おおきなフォークをもったひとたちとね、けむくじゃらでつのがはえたかいじゅうがね、ずっとおいかけてくるの。かくれても、みつかっちゃって、けんきゅうじょみたいなところに、つれていかれて…」
 怯えた様子で話す少女。時折、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
 真剣な様子で聞くジョン。
ジョン「悪いヤツらだ。よし、先生が良いものを作ってあげよう」
 床を蹴るジョン。座ったまま、作業台の方へイスが走っていく。到着。イスの高さを調節する。2、3種類の針金を手に取る。作業開始。慣れた手付きで針金を編んでいく。時折、工具を使い、カットしたり曲げたりする。後ろから興味深げに作業を見るニコル達。完成、手のひらサイズと、それより小さいサイズの円形の針金が二個。(円形の中も編みこまれている)。仕上げに、ネックレス用のチェーンを付ける。少女の目の前に跪き、目線を合わせ、針金細工を首に掛けてあげる。
ジョン「これは〈ドリームキャッチャー〉。悪いヤツらをやっつけてくれる御守りだ。友達にもあげよう」
 ぬいぐるみの首にも掛けてあげるジョン。
 嬉しそうに微笑む少女。
少女「ありがとう、ジョン先生」

 玄関。手を振る少女、会釈する母親。二人を見送るジョンとニコル。

 和室。アニメ雑誌を読みながら、縁側に寝転ぶジョン(白衣は脱いでいる)。ジョンの傍、座布団の上で胡坐をかくニコル。二人の近く、急須と湯呑(中身はコーヒー)、菓子の小鉢が乗ったお盆。
ニコル「良かったわ、真面目にお医者さんやってて」
ジョン「広告に書いてあるからな。〈睡眠障害でお困りの皆様、世界一優しくてカッコいいジョン先生が、ちょちょいのちょいと治してあげます〉。その通りにやらなきゃ新聞社に苦情が行く。〈誇大広告はヤメロ〉ってな」
ニコル「そんな事、書いてませんけど」
 呆れ気味に、湯呑を啜るニコル。
ニコル「それで、あの子に憑いてる悪夢って?」
ジョン「アビゲイルと不吉な仲間たち」
 ニコルに雑誌を渡すジョン。三又の武器を持った戦闘員、クマをモチーフにした怪人、彼らと戦う女性(ぬいぐるみのモデル)、妖し気な笑みを浮かべるアビゲイル(ボスの魔女)の絵。
ニコル「アニメ?」
ジョン「睡眠中に見る夢ってのは、現実で体験した出来事が元になってる。現実で飛行機に乗ったとする、その体験が反映されて、羽を生やして空を飛ぶ夢を見る」
ニコル「って事は、あの子は夢の元になる体験した。でも、どんな?」
ジョン「キャラクターショーだ、偶にモールでやってる。平面の悪いヤツらが立体になって、自分のすぐ目の前を歩いてる、〈今日の生贄は誰にしよう〉と歌いながら。そして子供達をステージ上に攫って行く。そんなの見れば」
ニコル「夢に出ちゃうわね」
ジョン「ちなみに、アビゲイルの正体はアレクサ。ニッキィの元パートナーだ。シーズン3の最終話、教祖の魔術で闇落ちした」
ニコル「随分詳しいじゃない」
ジョン「そりゃ観てるからな」
ニコル「もしかして~、この娘目当てで? 居るのよね~、そう言う大人」
 変身前のニッキィを指さすニコル。
ジョン「キャラには興味無い。良いヤツが悪いヤツらをやっつける話が好きなだけだ」
 和風の壁時計。三時前。
 立ち上がるジョン。
ジョン「さて、そろそろ行くか」
ニコル「ショーを観に?」
ジョン「定期健診だ」
 意味ありげに微笑むジョン。

〇公園(十五時頃)
 芝生の広場、噴水、遊具。寛いだり、遊んだりする親子連れ。
 園内の一角。野外ステージ。ステージ上に、ピーターパン風の恰好をした男性(ブラウン)と、小道具が幾つか。
【ブラウン:三十代。2メートル近い巨漢。愛嬌のあるくりくりした目、スキンヘッド、もじゃもじゃのヒゲが特徴。厳つそうな見た目に反し、性格は控えめで、心優しい】
 客席にはジョンとニコルの二人だけ。
 満面の笑みを浮かべ、歌いながら踊るブラウン。目の下にはうっすらとクマが出来ている。尚、ブラウンの芸は完全にスベっている。
ブラウン「ワン、ツー、スリー。ワン、ツー、スリー。お空に向かって、大きくジャーンプ!」
 真剣な様子で鑑賞するジョン。
 呆然とした様子のニコル。小声でジョンに話す。
ニコル「ねぇ。定期健診って言ったわよね?」
ジョン「ああ」
ニコル「どう見ても、芸人のライヴじゃない。然も全っっっ然売れてない」
ジョン「これから売れる。今の内にサイン貰っとくんだな」
 ブーブーと音が鳴る。
ブラウン「おっとっと! スマホがブーブー鳴ってるよ! ブラウン、ブラウン、出てちょうだい、はーい!」
 大袈裟な素振りで、ポケットからスマホを取り出すブラウン。
ブラウン「メールですメールです! 誰から誰から? えーっと…、!」
 ブラウンの顔色が曇る。スマホを握り、プルプルと震え出す。その場で膝を曲げ、身体を丸める。
ニコル「…今度は何?」
 満面の笑みを浮かべ、パッと両腕を広げ、大の字になってジャンプするブラウン。
ブラウン「やった! やった! 新番組のオーディション、一次審査に合格だーっ! わーい、わーい、わわわのわーい!!」
 燥ぎ回るブラウン。小道具置き場からタンバリンを取り出し、歌いながら踊る。
ブラウン「たんたた、たんたた、たんたんたん。来週、二度目の審査があるよ! 合格すれば最終審査! 頑張れブラウン! 頑張るブラウン! 夢に向かってえいえいおー!」
 踊り回るブラウン。一瞬、目の中に影が蠢く(一話目でニコルに起きた現象)。
 眉を顰めるジョン。
 見直した様子のニコル(ジョンの様子には気付かない)。
ニコル「…サイン、貰っとこうかしら」

*****
〇住宅街(後日・午前中)
 ゴミ収集場。傍に停まる収集車。運転席で新聞を読む中年男性。小声で歌いながら、ゴミ袋を取集車へ詰め込んでいくブラウン(前述の時より、クマが濃くなっている)。
ブラウン「ゴミさんゴミさん、リサイクル。ポイ捨てダメダメ、分別しましょう」
 ブーブー、と音が鳴る。
ブラウン「スマホがブーブー鳴ってるね。はいはい、今すぐ出てあげます」
片手でゴミ袋を詰め込みながら、もう片方の手でポケットからスマホを取り出す。
ブラウン「メールだメールだ。誰から誰から…、うひぃいっ!」
 悲鳴を上げる。どさり、とゴミ袋を落とす。
 窓を開け、ブラウンの様子を伺う男性。
男性「何だぁ? 笛みてぇな声出して。生首でも入ってたかぁ?」
 咄嗟にゴミ袋を拾い上げ、スマホを隠すブラウン。何事も無かったかのように振舞う。
ブラウン「いえいえいえいえ、これはその…、練習練習、赤ちゃんの抱っこ、いつか来る日の為にと思って。よーしよしよしよしよしよー」
男性「だったら余計落とすなよ。ったく、相変わらずヘンなヤツだな」

〇ブラウンのアパート(深夜)
 一人暮らし。必要最低限の家具家電。食事はレトルトやコンビニ飯。部屋の半分は衣装や小道具、お笑いの参考書やDVDなどで埋まっている。可愛らしい柄のパジャマを着たブラウン、体育座りでスマホの画面を凝視している。
ブラウン「二次審査、合格、二次審査、合格。ウソじゃない、これ、本当」
 背を曲げ。身体を丸める。パッと両腕を広げ、上半身を激しく動かし、喜びを露わにする。
ブラウン「やった! やった! やったった! 次は次は最後の審査! 受かれば叶う、僕の夢! 子供の頃からなりたかった、みんなを笑顔にさせる人! みんなが知ってる、テレビの人気者!」
 ドンドン、と壁を叩く音。
隣室「っるせーぞ! 何時だと思ってんだ!」
ブラウン「ごめんなさいごめんなさい! シーです、シーです」
 壁に向かって謝る。スマホを見る。23時を過ぎている。
ブラウン「(小声で)あらあらまぁまぁ、こんな時間だ。良い子はとっくに寝なくちゃダメだね」
 布団に潜る。
ブラウン「ではでは、おやすみなさいませ」
 目を閉じる。暫く経って目を開ける。目を閉じる、目を開ける、その繰り返し。次第に心配そうな顔になる。
ブラウン「…オーディションに応募してからだ。夜になっても、全然寝れない。ヒツジさんを数えても、本を沢山読んだって。おばあちゃんが教えてくれた、遊びとご飯と寝るのは大事。だから寝ないといけないいけない。でもでも、全然寝れない…。どうして、どうして…」

〇ジョンの自宅(同時刻)
 作業場(診察室)。作業台に向かい、針金細工を作るジョン。
 ガラスケースがカタカタと震える。
謎の声『―――2WEツーウィー局』
 手を止め、眉を顰める。
謎の声『―――今度ノ日曜、10時カラ、Nすたじおデ』
ジョン「あるんだな。最終審査が」
 ちらり、と壁を見る。フードが付いた司祭服(一話目とは異なる)が掛っている。意味ありげに微笑む。
ジョン「飛び入り参加はOKかな?」

『ドリームキャッチャー』第二話 終

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