見出し画像

「IRON×MAIDEN-アイアン×メイデン」第二話

〇アイミの家(夏頃)
 リビング。対面して座るアイミと母親。窓際、電話をする父親。室内に漂う重苦しい空気。
父親「―――時間と場所はそっちで決めろ。だか、責任者を必ず呼べ。分かったな」
 電話を切る父親、アイミにきつい視線を向ける。
 俯いたままのアイミ、後ろめたい事があるのか、視線を合わせられない。
父親「詳しい話はそいつらに聞く。だが、一つだけはっきりさせたい。…これは、お前か?」
アイミ「……」
父親「言うんだ。そうか、そうでないか」
アイミ「……、そう、です…」
 俯いたまま答えるアイミ。溜息を吐く父親。手で顔を覆う母親。テーブルにタブレット、電子版の週刊誌。〈独占スクープ・防衛局、新たな災害対策組織・女子高生が任命か?〉(アイミの顔写真は無く、女子高生のシルエットと人型ロボットのイメージ絵)。

*****
〇高校・文化祭
 賑わう校舎内外。
 美術室。部員の作品を展示中。常駐する部員は居らず、見に来る人も皆無。部屋の奥、石膏像やイーゼルで見えないように隠した場所。屋台の料理を食べながら、一人で過ごすアイミ。(私服で、髪型や眼鏡を変え、バレないようにしている)。アイミ専用の特殊なスマホ、ホログラムになって映し出される01(上半身のみ。サイズは成人男性くらい)。
01『隠れる必要無いよ。学校のみんなは、愛実がMAIDENだって知らないし。そもそもMAIDENの個人情報は、組織の中でも限られた人間しか知らない。防衛局のお偉いさんなんて、名前すら教えてもらってない』
アイミ「でも、書かれちゃったよ、週刊誌に」
01『どんなに気を付けたって、秘密ってのはバレるもんさ。九重みたいに口が堅けりゃ別だけど』
アイミ「……」
 不安そうなアイミ。
 右手を伸ばす01、愛実の頭を撫でる。
01『安心して。何が起きても、愛実は僕が守るから』
アイミ「…ブルース…」
 01の言葉にほっとするアイミ。
01『それにしても、鋭いお義父さんだね。帰宅時間が遅い、休日はいつも外出、たったそれだけで記事と結び付けた。相当頭が切れるよ、説得するには厄介な相手だ』

*****
〇基地(夜)
会議室。プロジェクターやスクリーン等、面談の準備をする鼎。紙の資料を読む九重。
九重「悪いな、手伝ってもらって」
鼎「これも仕事ですから。でも想定外ですね、第一報が週刊誌なんて」
九重「いや、想定はしていた。内部の人間がリークするんじゃないかと。なんせ、極秘裏に開発していたロボットだ。酒でも入れば、べらべら喋りたくなる」
鼎「あのタクシー運転手でしょうか? 誓約書、書かせたはずですが」
九重「かもな。いずれにしろ、会見は改めて行う。今は、目の前の問題を解決しなくては」
鼎「小耳に挟んだんですが、才藤さんの御両親、相当お怒りだとか…」
九重「当然だろう。国の機関が、正体不明の機械と共に、一人娘を宇宙に送る。未成年、然も親の同意無し。キレない親はまず居ない。正式な手続きを踏むべきだったが、こればかりはIRONの案でね」
鼎「IRONが? こんなやり方じゃ、トラブルになると分かるはずですが」
九重「考えがあるんだろ、ヤツなりの」
 苦々しい表情を浮かべる九重(一話の件もあり、01の事を良く思っていない様子)。
九重「さて、そろそろ上がろう。当日も頼むよ」
鼎「分かりました」
九重「ところで、鼎君に子供は居るか?」
鼎「いいえ、結婚すらしてませんよ。何故です?」
九重「資料が読みやすい。立場上、様々な職種の人間に会うんだが、伝え方が上手い人間には必ず子供が居る。君なら、良き父親になれるよ」
鼎「そうですか、予定があれば」
 苦笑する鼎(結婚願望はあるが、相手が居ないので複雑そうな感じ)。鼎のズボンのポケットに入ったスマホ。災害アプリが勝手に起動し、マイクアイコンが付いている。

 格納庫(同時刻)。盗聴する01。右指でこめかみ辺りをコツコツと叩く。
盗聴鼎「それより、主任も休暇取ったらどうです? 単身赴任中で、奥さんやお子さん達に全然会って無いそうですから」
盗聴九「ああ、考えておくよ」

*****
〇基地(後日)
 ロータリー。停車する防衛局のマークが付いた車。施設入口。出迎える九重と鼎(鼎のみインカムを着用)。
九重「お待ちしておりました。防衛局災害対策課、IMチーム及び外来災害…」
父親「ここで立ち話するのか?」
 睨む父親。動じない九重。緊張する鼎。俯いたままのアイミ。
九重「資料を用意しております。こちらへ」

  廊下を歩く一同。俯き気味に喋るアイミ。
アイミ「あの…、ちょっと、トイレ…」

 階段の隅。スマホを手に、しゃがむアイミ。ホログラムの01。
アイミ「どうしよう…。私のせいで、ブルースが居なくなっちゃう…」
01『大丈夫、僕に任せて』

〇会議室
 対面して座る九重と父親。父親の隣に母親とアイミ。スクリーンの傍に立つ鼎。
鼎「―――以上が、IMプロジェクトの概要です。続いて、自然災害及び人工災害時の派遣についてですが…」
父親「分かりにくい資料だな、肝心な事が何一つ書いていない」
 資料をバサッと机上に放り投げる父親、鼎を睨みつける。
鼎「当プロジェクトは、IRONの製造工程を始め、機密事項が多数含まれております。他機関及び諸外国への漏洩の恐れがありますので、御容赦下さい」
父親「そう言って逃げるつもりだろう! 一般人だと思って舐めてるのか! 隠さずはっきり言え!」
鼎「……」
 言葉に詰まる鼎。
父親「そもそも、何故乗せる? 自分の頭で考えられるAIだろ? そんな物に操縦者が必要か? 郵便会社の配達ドローンは遠隔操作で動いてる。御宅もそうすれば良い。優秀な人材が集まってるんだろう? 何故出来無い?」
九重「それは…」
01『パートナーだからですよ』
一同「!」
父親「何だ!? 今の声は!」
 カタカタ、と窓ガラスが揺れ、薄暗くなる室内。外に立つ01。驚く一同。
01『話し合い、僕も参加させて下さい』
アイミ「ブルース…」
父親「貴様がAIか! いくら賢くても、当たり障りのない事しか言わんだろ! 大体、パートナーとはどう言う意味…、!?」
 目を丸める父親。
 深々と頭を下げる01。謝罪。
01『まずは、謝らせて下さい。御両親に無断で愛実さんに接触した事。御両親には内緒にして欲しいと愛実さんにお願いしていた事。本当に申し訳ございませんでした』
両親「……」
 予想外の01の対応に驚く両親。厳しい視線を01に向け、様子を伺う九重。01『本来であれば、御両親の同意を得た上で手続きするべきでした。然し、このやり方が最適解だと、僕のプログラムが判断しました。全ては僕の一存で、防衛局、災害対策課、九重主任、IMプロジェクトメンバー、そして愛実さんに責任はありません。僕一人を更迭、いや、廃棄すれば解決します。でもその前に、任務を果たさせて下さい』
 鼎のインカムに通信。
鼎「主任、外来種です。襲来は約八時間後、予測地点は品野川区周辺」
母親「それって、私達の住んでる所じゃない。お家が無くなるの? お父さんの職場は? 愛実の高校はどうなるの? みんな無くなったら、私達どうすれば…」
 パニクる母親。
アイミ「大丈夫、私達が守るから」
母親「愛実…?」
 両親を安心させようと微笑むアイミ、覚悟を決め、自信に満ちた目。
アイミ「私達の任務は、お父さん、お母さん、この国のみんなを外来種から守る事。心配しないで、ブルースと一緒だから。絶対、無事に帰って来るよ」
両親「……」
 初めて見るアイミの態度(はっきりとした物言い、真剣な目など)に戸惑う両親。
01『約束します。愛実さんは必ず、僕が守ります。だから僕に託して下さい。―――見ていて下さい、僕達の戦いを』

〇戦闘
 滑走路。スタンバイする01(飛行ユニットの形状が一話目と異なる)。発進準備完了。信号が青になる。走り出す01。走り幅跳びのように助走をつける。滑走路の一部の色が異なる場所、そこでジャンプ。飛行ユニットから噴射。加速をつけ、一直線に飛ぶ。
 会議室。タブレットを操作する鼎。スクリーンに衛星からの中継。見守る両親と九重。
 宇宙。対峙する01と外来種(鋭利な爪と甲羅状のものを備える。一話目とは異なる形状)。先端が爪になった触手を伸ばし攻撃。剣で防ぐ01。素早く、勢いのある攻撃で、防ぎきれず剣が手から離れる。次の瞬間、大きな爪を伸ばし、01の胸部を突き刺す外来種。父親の顔が曇る。手で口を押える母親。胸部に当たるすれすれの所、両手で爪を掴む01。力を込め、砕く。手を伸ばす01、自動で帰って来る剣。剣を握り、突進。核に突き刺し、撃破。

〇基地
 滑走路。佇む01、その足元にアイミ。アイミに駆け寄り、抱きしめる母親。
母親「愛実! 無事で良かった。大丈夫? ケガはない?」
 厳しい視線をアイミに向ける父親。頭を下げるアイミ。
アイミ「ごめんなさい。勝手な事して。悪いのはブルースだけじゃない、だから…」
 アイミの肩に手を置く父親。顔を上げるアイミ。優しそうな表情を浮かべる父親。
父親「その話は改めてしよう。ありがとう、愛実。お父さんとお母さん、みんなを守ってくれて」
アイミ「お父さん」
 微笑むアイミ。

  ロータリー。停車する車。アイミ達を見送る九重。厳しい顔で九重と顔を合わせる父親。
父親「責任を取るなら更迭や廃棄で逃げずに、司法の場で裁かれ、償え」
九重「伝えておきます」
 発車する車。苦々しい顔の九重。
九重「リークはお前か。両親に見せつける為だけに」

 会議室。一人残る鼎。資料を手に、窓際に立つ。
鼎「ロボットと人間、パートナー、愛…」
 資料をぎゅっと掴む。羨ましさや嫉妬、倒錯的な感情が芽生える。
鼎「ロボットになれば、愛を、手に入れられる…」
 鼎のポケット。スマホの災害アプリが勝手に起動。盗聴。

『IRON×MAIDEN 第二話』  終


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?