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『DREAMCATCHER-ドリームキャッチャー』第三話

〇街中(午前)
 私服(Tシャツとサロペット)で、大きなリュックを背負うブラウン。カッと見開いた目、その中に蠢く影。目の周りにはバンダのような黒いクマ。寝不足でテンションが低め。
ブラウン「いよいよ、この日が、やって来た。受かればなれる、人気者。僕の夢が、叶うんだ…」

〇テレビ局
 関係者用の入口近く。トンビコートを着たジョン。
ジョン「おはよう」
ブラウン「おはようおはよう、ございます。えっと、貴方は…、ああ、そうだ。いつも、見に来る、お客様」
ジョン「よく覚えてるな」
ブラウン「勿論勿論。だって、初めて舞台に立った、あの日からずっと、見てくれてるから。今日は、一体、どんな用?」
ジョン「応援させてくれ。オレ流のな」
 懐から円形の針金細工を取り出し、自分の額を指さすジョン。
 腰を屈めるブラウン。
 ブラウンの顔の前に針金細工を掲げるジョン。
ジョン「BADREAM悪い夢  BECOMES  GOODREAM良い夢に
 円の中からブワッと風が吹く。ブラウンの目の中の影がフッと消える。同時にクマも無くなる。風が止む。目をぱちぱちさせるブラウン。
ジョン「どうだ?」
ブラウン「……、何だか、元気が、出て来た気がする!応援とってもありがとうです!なりますなります、人気者!絶対、夢を叶えます!」
 いつものテンションに戻るブラウン。やる気に満ちた様子で、腕を伸ばしたり、ジャンプしたりする。そのまま関係者入口へ向かっていく。
ジョン「頑張れよ、自分の力を信じて」
 ジョンの背後で影が蠢く。
影『私モ入れさセテよ。ねたを披露しテる最中ニ、睡眠不足でブッ倒れて、やらかシタッて後悔さセテあゲるんダかラ』
ジョン「警備員が言ってたぞ。ここから先は〈人気者になりたい夢を持ってる人〉しか入れないと。持って無いだろ? オレとお前は」
 振り返るジョン。影を見上げ、意味ありげに微笑む。
ジョン「やるか?時間無制限ハウスショーでも」
 悪夢の口元。ニヤリ、と不気味な笑みを浮かべる。

〇局内
 吹き抜け。子供番組の特別収録。特設ステージ上に男女二人(マイケルとマリー)と不思議な実験道具。客席に親子連れ(その中にぬいぐるみを抱いた二話目の少女も)。
【マイケル:20代後半。金髪、長身でがっしりした体格。アメフト選手っぽい恰好で、白衣を着ている】
【マリー:20代後半。金髪、豊満なボディ。チアガール風の恰好でボンボンを持っている】(※二人は夫婦で、お互いの左手薬指に指輪をはめている)。
マイケル「ウェルカム、トゥ、ザ、マジTVー!今日は大実験スペシャルだぁ!」
マリー「マジマジマジ~!?」
子供達「まじまじまじー!」
マイケル「まずはぁ、ビッグな実験だ!」
マリー「ビッグ?何かしらぁ?」
 ポケットから小さなリンゴを取り出すマイケル。
マイケル「ジャジャーン!小っさなリンゴちゃん!これをこの箱に入れて」
 布が敷かれたテーブルにリンゴを置き、側面にチューブが付いたガラスの箱を被せる。チューブの先は床に置かれた謎の機械と繋がっている。
マイケル「このビッグマシーンをオンにするとぉ!」
 しゃがむマイケル、機械を操作する。ケースの中にカラフルな煙が充満していく。
マリー「ワォ!箱の中がモクモクしちゃったわ!」
 目を丸め、興味深げに見守る子供達。
 バレないようにテーブルの下に隠れるマイケル。テーブルについた戸を開け、大きなリンゴとすり替える。何事も無く立ち上がる。
マイケル「よぉし、そろそろ良いかなぁ。ハイ、マ~ジ、マ~ジ、マ~ジ!」
 箱を取る。煙の中から大きくなったリンゴが現れる。
マリー「見てっ!リンゴがおっきくなっちゃった!」
子供達「わぁ!」「すっげぇ!」
マイケル「さてお次はぁ、ジャジャーン!クモさんだぁ!」
 ポケットから小さいクモのぬいぐるみを取り出すマイケル。
マイケル「このクモさんをこの箱に入れて」
 テーブルにぬいぐるみを置き、箱を被せる。しゃがみ、機械を操作する。
マイケル「ビッグマシーン、オンッ!」
 箱の中に煙が充満していく。
 再びテーブルの下に隠れるマイケル。戸を開け、ぬいぐるみを交換する。何事も無く立ち上がる。
マイケル「じゃあ、いくぞ!ハイ、マ~ジ、マ~ジ、マ~ジ!」
 箱を取る。箱の中から大きなクモのぬいぐるみが出てくる。
マイケル「おおおっ!クモさんがおっきくなっちゃったぞぉ…、あれ?」
 客席を見るマイケル。子供達や撮影スタッフ全員が窓の外を見ている。
マイケル「おーい、クモさんがねー、おっきくなっちゃったよー、ほらー」
マリー「…マイケル…」
 窓を見つめ、青ざめるマリー。
マイケル「どうした?マリー、…!?」
 窓を見つめ、驚愕するマイケル。
 窓に張り付く巨大なクモのような生物(上半身は女性、下半身はクモ。それ以外は一話と一緒)。
マイケル「まっ…、マジ、かよ…」

 外。戦闘。建物の周囲を走るジョン(司祭服姿。フードを被り、口にはマスクをつけ、素顔は分からない)。窓に張り付き、クモ部分の尻から糸の塊(爆弾)を複数個、ジョンに向かって投げつける悪夢。懐から小さな針金の塊を取り出し、投げるジョン。空中で糸と針金の塊が当たり、爆発する。
ジョン「名無しの権兵衛の秘密道具、〈どこでも爆弾〉。破片は残らず、地球に優しい」

  別フロア。審査会場(審査はまだ始まっていない)。呆れ気味に審査員席に座る役員達。唯一人窓辺に立ち、外の様子を見る男性(シェイン、50代位、オッドアイ。詳細は四話以降)。スマホを掲げ、ジョン達を撮影している。
役員1「また〈特撮組〉か。リアリティが欲しいと、ゲリラ撮影ばかりして。局内ぐらい、事前に教えて欲しいもんだ」
役員2「シェインさんからも言って下さいよ。アイツら、このままじゃ議事堂で無許可のドンパチ始めますよ」
シェイン「良いね、やらせてみようよ」
役員2「本気ですか?」
シェイン「勿論。だって面白いからね」

 局内。ピーターパン風の恰好で廊下を走るブラウン。
ブラウン「どうしよどうしよ。迷子だ迷子。誰かに道を聞かないと」
 吹き抜けにやって来る。棒立ちのマイケルとマリーを見つける。
ブラウン「すみませんすみません。Nスタジオはどちらです?」
マイケル「…今度出そっかな、怪獣退治の企画書…」
ブラウン「怪獣?」
 窓を見るブラウン。地面に降りた悪夢が、ジョンを脚で蹴ったり、踏みつけようとする。逃げたり、爆弾を投げて反撃するジョン。
 窓に張り付いて見物する子供達や社員達。
子供達「すげぇー」「かっこいい」
社員達「着ぐるみか?」「まさか。工事車両でも改造したんだろ」
ブラウン「わぁわぁ、すごい!怪獣さんだ!僕も見たいな、でも審査が…」
 ふと、子供達の方に目を向ける。外に通じる扉をこっそりと開け、出て行く数人の子供達(例の少女も居る)。

 外。左腕を悪夢に向けて伸ばすジョン。手元から複数の針金が伸び、悪夢を捕えようとする。ジャンプし、器用にかわす悪夢。空中で尻から糸の塊を出す。塊はジョンから外れた所に飛んで行く。
ジョン「もうへばったのか?コントロールが落ちてるぞ。…!」
 塊が向かう先に見物する子供達。
ジョン「へばってんのはオレの方か!観客に気付かないんだからな!」
 懐から爆弾を取り出し、投げるジョン。糸の塊に当たり爆発する。爆風に巻き込まれる子供達(子供達の周りで強い風が吹く感じ)。
子供達「キャーッ!」
 少女の手からぬいぐるみが飛ぶ。
少女「まって!」
 ぬいぐるみを追いかける少女。ぽとりと地面に落ちるぬいぐるみ。
少女「よかった…」
 拾い上げる少女。ドスン、と目の前に降りる悪夢。不気味な笑みを浮かべ、少女を見下ろす。
悪夢『今度ハ、貴方に、取り憑コウかナ』
少女「!」
 前脚を振り下ろす悪夢。ぬいぐるみを抱きしめ、目を瞑る少女。ガッ、と鈍い音。おそるおそる目を開ける少女。少女を抱え、走るブラウン。
少女「!」
ブラウン「正義の味方と怪獣さんの戦いは、なるべく離れて見ましょうね」
悪夢『逃がサナいヨ』
 もう片方の前脚を振り下ろす悪夢。シュルル、前脚と他の脚に針金が絡みつく。(複数の細い針金がねじ込まれ、太くなった針金)。
ジョン「それはオレのセリフだ」
 ぱちんと指を鳴らすジョン。脚に絡まる針金が解け、複数の細い針金になる。蔦のように悪夢の全身に絡みつく。身動きが取れない悪夢。
 右手に円形の針金細工を持ち、悪夢に掲げるジョン。
ジョン「まだ明るいが、おやすみの時間だ」
 円形の針金に吸い込まれていく悪夢。ゴオオ、と嵐のような音が響き、激しい風が舞う。
 他の子供達と共に戦いを見守るブラウンと少女(子供達の前にしゃがみ、盾になるブラウン)。
 審査会場。子供っぽい笑みを浮かべるシェイン。
シェイン「やっぱり面白いよね、良いヤツが悪いヤツをやっつけるのはさ」
 悪夢を縛り付けていた針金が円に絡みつき、円の中に、クモを模した針金の模様が出来上がる。つむじ風が消えるように、ふわっと風が舞う。捕獲終了の合図。針金細工を構えるジョン。 
ジョン「睡眠不足、キャッチだぜ」

*****
〇ジョンの自宅(後日)
 居間。テレビを見るジョンとニコル。
 カーサービスのCMで、溝にハマった車、助けに来るブラウン扮する会社のキャラ、車を持ち上げ元通りにする、と言う映像。
CM「いけないいけない!愛車が溝にハマったよ!そんな時はWFカーサービスにお任せお任せ!いつでもどこでもお助けします!」
ニコル「CMにアニメ、子供向け番組。すっかり人気者になっちゃったわね」
ジョン「そりゃ頑張ってたからな。自分の夢を叶えるために」
 時計。3時前。立ち上がるジョン。
ジョン「さて、そろそろ行くか」
ニコル「定期健診?」
ジョン「いや、ショーだ」
 意味ありげに微笑むジョン。

『ドリームキャッチャー』第三話  終

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