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【漫画原作】「私、ただ火を貰っただけなのに」【すこしふしぎ】

読切用の漫画原作です。短編なのでさくっと読めます。
昔話『大歳の火』をオマージュしています。
複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。


ジャンル

すこしふしぎ。ちょいホラー。

あらすじ

高校生のあいむは、初めてのソロキャンプに火点け道具を忘れてしまう。途方に暮れるあいむだったが、キャンパーの男性・シゲから「荷物を預かる」という条件で火を貰う。後日、荷物である《蓋つきの桶》の写真を友達に見せると、「死体が入っているのでは?」と冗談じみた話をされる。否定するあいむだが、金具を付けて厳重に閉めていたり、理由も言わずあいむに押し付けるなど、シゲの行動は不可解な点ばかり。桶の中身は本当に死体なのではと疑い始めるあいむだが…。

登場人物

・あいむ
 高校二年生の少女。小柄な体型、明るく元気な性格。キャンプを題材にしたマンガやアニメを見てキャンプにハマる。キャンプ初心者。
・シゲ
 四十代の男性。背が高く、がっしりとした体形。ボサボサの髪、無精ヒゲ、薄汚れた作業着姿など、さながら《山賊》。キャンプ(アウトドア)の知識が豊富。
・あいむの友達
 しいゆ(ギャル系)、まもぴ(冷静キャラ)、ちえろ(優等生タイプ)
 ※なお3人の名前は本編に登場しないので適当。

本編

〇キャンプ場(春頃・夜)
 静かなキャンプ場。
 整備された歩道を、懐中電灯を手に、泣きながら歩くあいむ。
 場内には、あいむ以外のキャンパーやテントは見当たらない。
あいむ「ふえぇぇ~、火起こし道具忘れちゃったぁ~。キャンプファイヤー出来ない~、焼きマシュマロ食べられない~。初めてのキャンプなのにぃ、ただ寝泊まりするだけなんてぇ~。誰かぁ~、キャンプの火、くださぁ~い」
 暫く歩く。開けた場所に出る。
 パチパチと燃える音。橙色に輝く明かり。荷台がテントになった軽トラック、その近くで焚火をするシゲ。シゲの傍には様々な形のナイフやヤスリなどの作業道具が並び、作業台には木材やシカの骨らしき物が置かれている。    
 真剣な様子で木材を削るシゲ。
 恐る恐る近付くあいむ。気配に気付き、顔を上げるシゲ。
あいむ「すみません。その火、分けて貰えませんか? マッチやライター、持って無くて…」
 作業台から一メートル程の太い枝を取るシゲ。片方の皮を二十センチ程削る。もう片方に布を当て、麻糸で縛る。布に油を染み込ませ、焚火の火を点ける。慣れた手付きで松明を作るシゲ。見惚れるあいむ。手持ち用に削った部分より上側を片手で持ち、あいむに渡すシゲ。
 火に照らされたあいむの顔が、ぱっと明るくなる。
あいむ「ありがとうございます!」
 嬉しそうに松明を両手で持つあいむ。その瞬間、松明から手を離し、あいむの手首を掴むシゲ。ビクっとするあいむ。
シゲ 「タダ、っちゅうワケにゃ、いかねぇでなぁ」
 不気味に微笑むシゲの顔が、松明の火に照らされる。

*****
〇高校(後日・昼食)
 教室。机をくっつけ、弁当や購買のパンを食べるあいむ達四人。リングノートを捲るちえろ。キャンプの記録が書かれたノートで、先日のキャンプの写真が貼ってある。足元に木桶を置き、松明を手に微笑むあいむの自撮り。木桶は漬物樽に似た形で、蓋が開かないように四か所(十字を描くように)金具で固定してある。サイズは子供がしゃがんで入れるくらいで、魚籠びくのように背負える縄が付いている。
しいゆ「…で、火貰う代わりに、ヘンな桶を《山賊おじ》から預かったと。なぁ、マジでそんだけ? あ~んな事やこ~んな事、ヤったんじゃねぇのぉ?」
まもぴ「山の中、少女とおじさんの二人だけ。あるよね、絶対」
あいむ「全然! 何も無いってば!」
 疑いの目を向けるしいゆとまもぴ。
 真顔で答えるあいむ、ウソは吐いていない様子。
しいゆ「つか、何で桶?」
あいむ「さぁ…。《その日が来るまで預かってくれ》って言うだけで…」
まもぴ「宝物だったりして」
しいゆ「有り得る! 見た目はボロっちぃけど、実はウン億円の価値がある! 山賊だったら金目のモノくらい分かるもんな!」
あいむ「そんな高価なモノ、何で私に…」
まもぴ「手放す理由があったとか」
あいむ「理由って?」
ちえろ「《死体》だから、でしょ」
三人 「えっ!?」
 ちえろに目を向ける三人。ノートを広げ、桶の写真を見せるちえろ。
ちえろ「中身が出ないように金具で留めてるし、背負えるように縄だって付いてる。唯の桶ならこんな細工しないって」
しいゆ「成程~。死体を桶に入れて、持ち運んでたのか。山に棄てるつもりが、あいむに見られたから押し付けた!」
まもぴ「不倫したのバレて、慰謝料請求されて、カッとなってザクッと」
ちえろ「山賊ならやりそう~」
 真剣な様子で話し合う三人。
 動揺や驚きは見せず、明るく振舞うあいむ。
あいむ「みんな~、ヘンな事言わないでよ~。そんなのあるワケ―――」

〇あいむの部屋(夜)
 一人部屋。本棚にキャンプにまつわるマンガや雑誌。部屋の隅に折り畳みテントや防寒着など、キャンプ用品が置かれている。
 部屋の中央。木桶の前に座り、不安そうに眺めるあいむ。
あいむ「(前シーンのセリフに続き)―――無い、よね…」
 木桶に鼻を近づけニオイを嗅ぐ。側面に耳を付ける。周囲を目視する。
あいむ「ヘンな臭い無し。ヘンな音無し。ヘンな染み無し。死体が入ってるようには見えないけど…。分からないよね、この目で見なきゃ…」
 ゴクリ、と唾を飲む。恐る恐る金具に手を掛ける。カチン、カチン、と一つずつ金具の錠を開けていく。最後の一つを開ける。蓋の両側を持ち、ゆっくりと持ち上げる。その瞬間、蓋と桶の隙間から腐りかけた手が伸び、あいむの手首を握りしめる。
あいむ「っ!?」
 蓋を落とすあいむ。乱れた黒髪、蛆が湧いた頬、両目から血の涙を流した女性が桶から這い出て来る。あいむの顔が引き攣る。
女性 『ユルサナイ…、コロシテヤル…、ユルサナイ…、コロシテヤル…』
 あいむに迫る女性。恐怖で身体が動かないあいむ。
あいむ「あっ…、あっぁ…」

*****
あいむ「…ああぁぁあぁああっ!!」
 ベッドから飛び起きるあいむ。全身が汗びっしょりで、顔が青ざめている。
 時刻は朝。カーテンの隙間から日差し。鳥の鳴き声が聞こえる。
あいむ「…ゆっ、夢か…」
 ふと、桶に目を向ける。キャンプ用品の傍に置かれた桶。金具が外れ、蓋が若干開いている。更に青ざめるあいむ。

〇あいむの家(休日・午前)
 一戸建て庭付き。庭に物置。
 ビニール紐やガムテープで密閉した桶を物置へと運ぶあいむ。
あいむ「私の部屋だとバレやすいもんね。物置なら見つかりにくいから、山賊さんが言う日まで隠して…」
母親 「あいむ!」
あいむ「!」
 ビクっとするあいむ。縁側に母親の姿。
母親 「何? その桶」
あいむ「えっと…、キャンプの…、道具…」
 しどろもどろに答えるあいむ。
母親 「《キャンプ道具は自分の部屋》。キャンプやる前に約束したでしょ?」
あいむ「……」
 鋭い視線を向け、叱る母親。
母親 「キャンプするな、とは言わない。あいむが興味持った事なら、思う存分やって欲しい。でも、迷惑掛ける事だけはしないで。唯でさえ、女の子の一人キャンプは危険なんだから。キャンプに詳しい大人がついていれば良いんだけど、知り合いには居ないし。だから、《何かあったら、必ずお父さんとお母さんに言う事》。良い?」
あいむ「……、うん…」
 落ち込むあいむ。

〇キャンプ場(同日・午後)
 小高い場所のキャンプ場。シーズンでは無い為、キャンパーの姿は無い。展望台として整備された場所からは町の様子が見える。落ち込んだ様子でベンチに座るあいむ。あいむの手にはキャンプの漫画(表紙は女の子とテント。タイトルは《YOUR CAMP》)。傍に桶を乗せた三輪自転車。
あいむ「このマンガ読んで、私もこんなキャンプしてみたいなって思ったのが始まりなんだよね。バイトして、お金貯めて、道具揃えて。初めてのキャンプ、上手にテント張れなくて、管理棟の水道故障してて、火点け道具忘れちゃって、トラブルばかりだったけど、楽しかった。…もっと、キャンプしたいな。お肉焼いたり、温泉入ったり、自然の遊びしたり。みんなと一緒にキャンプしてみたい…」
 ちらり、と桶を見る。
あいむ「正直に話した方がイイよね。でも死体って言ったら、警察が来て、事情聴取されて…」
 何かを閃く。
あいむ「そうだ!」

〇町中
 荷台に桶を乗せ、自転車を走らせるあいむ。
あいむ「不審物は警察に届けなきゃいけないもんね! キャンプ場で怪しい桶見つけましたって言えば大丈夫…」
 運動場を通り掛かる。アウトドア系のイベントが開催中で、親子連れやキッチンカーなどで賑わう。特設ステージに人だかり。鬼のようなマスクを着け、チェーンソーアートを披露する男性。龍の頭が完成。観客から拍手。マスクを外す男性、見覚えのある顔。
あいむ「山賊さん…」
 シゲに声を掛ける仕事仲間。
仲間 「流石だねぇ、シゲさん! あっと言う間に完成させちまって!」
シゲ 「そりゃ、毎日伐っとるからなぁ! 然し、こないだのヤツぁ、えらく掛かってなぁ。オンナみてぇに細ぇに、刃が上手じょうずへぇらねぇで。足でこう、踏んづけて、漸く大人しくなってなぁ」
 シゲ達の会話を盗み聞きするあいむ。顔色が悪くなる。

 交番。泣きながら駆け込むあいむ。
あいむ「おっ、おっ、お巡りさぁん! ひ、ひ、人殺し~~~!!」

 イベント会場。荷台が物販スペースになった軽トラック。木材で作った置物やお守り、シカの頭骨、炭などを販売している。トラックの傍、キャンプ用の折り畳み椅子に座るあいむとシゲ。二人の目の前に桶。大笑いするシゲ。恐縮するあいむ。
シゲ 「ハーッハッハ! そぉんなこんになってただかぁ!」
あいむ「すみません…。勝手に想像しちゃって…」
シゲ 「いやぁ、オラが言わねぇんが悪ぃで」
 桶の金具に手を掛け、蓋を外し、中身を取り出すシゲ。白無垢のような衣装。
 目を輝かせるあいむ。
あいむ「わぁ! カワイイ!」
シゲ 「祭りに使うで、頼まれて作っただわ。オラん家ゃ炭焼いとるで、ばっちくなっちまう。だで、祭りまで預けといたんだわ」
 真剣な様子で、あいむに衣装を差し出すシゲ。
シゲ 「あいむちゃん、着てくれんかね? 丁度のらんで、余所から呼ぶつもりでな。ほいでも、若ぇモンの知り合いは居ねぇで、困ってただわ。これも何かの縁だで、な?」
あいむ「そんな、急に言われましても…」
 困惑するあいむ。
シゲ 「タダとは言わん。オラに出来るこんだら何でもやるで。へぇ、キャンプ初めてだな? ほいだら、オラが面倒見るわ。薪割り、火起こし、テント張り。色々教えてやるで」
あいむ「キャンプ…」
 何かを思い付くあいむ。
あいむ「それなら!」

*****
〇あいむの家(夏頃)
 玄関先に留まるワンボックス。運転席にシゲ、助手席にあいむ、後部座席にしいゆ、まもぴ、ちえろの三人。全員がキャンプ向きの服装。
 玄関先で見送る母親。
シゲ 「お母さん、今日も任せて下せぃ! あいむちゃんに手ぇ出すモン居りゃ、この大森重弘、鉄砲でやっつけちまいますわ!」
母親 「いつもありがとうございます。あいむ、迷惑掛けちゃダメよ」
あいむ「うん! 行って来まぁす!」

 高原へと向かうワンボックス。
あいむ「《だいだらぼっち高原》、行ってみたかったんです。でも、自転車じゃ遠すぎて」
シゲ 「コイツなら、何処いでも行けるわ。行きてぇ所ありゃ言いな、連れてくわ」
あいむ「ありがとうございます!」
シゲ 「まずは肉だな。知り合いがジビエの店やっとるだ。クマ食うた事あるか?」
 仲睦まじく話すあいむとシゲ。不思議そうにその様子を見る三人。
ちえろ「二人とも、仲良しさんだね」
まもぴ「恋人みたい」
しいゆ「あいむ! やっぱヤったんじゃねぇか~~!」
あいむ「勘違いしないでよ~! ただ、火を貰っただけなのに~!」

 

『私、ただ火を貰っただけなのに』  終

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