見出し画像

【漫画原作】『WEIRD TO LIVE, RARE TO DIE-メタラーとガイコツの単独ツアー』【すこしふしぎ】

読切用の漫画原作です。
昔話『歌う骸骨』をオマージュしています。
また、とある洋楽バンドのネタも入れています。

複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。


ジャンル

すこしふしぎ。男女バディーもので、コメディ多め。

あらすじ

ミュージシャンの青年・雄利は、メジャーデビューを夢見るも上手くいかず山中で自〇しようする。そこでガイコツになった少女・さらと出会う。さらは江戸時代の人間で、ある目的の為に旅をしていたが、道半ばで命を落としていた。目的を叶える為、一緒に旅をしようと提案するさら。渋々了承する雄利だったが、カネが無く、空腹や疲労で困り果てる。カネ稼ぎのため、さらとバンドを組み、目的地を目指して旅、もといツアーをする。

登場人物

・雄利(ゆうり)
三十代前半の青年。レザージャケット、穴あきスキニー、シルバーネックレス等、メタラー風の格好。背は高く、やや痩せ気味。金髪で、口や耳にはピアスをつけている。派手な外見とは裏腹に、根は優しい。芸名はブレンドン雄利。ギター担当。
・さら
十代の少女でガイコツ。江戸時代の人間。ある目的の為に旅をしていたが、道半ばで命を落とし、それが悔いで成仏しきれず、ガイコツとなってこの世に留まっている。十代とは思えない程、しっかりとした性格。芸名はさらスマイルズ。ヴォーカル担当。

本編

出会い

〇山林(春頃・午前中)
 人気の無い林の中。
 パーティー風の装飾品が付いた枝や幹。発声練習する一人の青年。
雄利「ンー、ンー。アー。…なんか調子出ねぇな。やっぱ観客か、ライヴっつったら。おーい! これからヤベぇモン始まるぞぉ! 聴かなきゃ一生後悔するぜ!」
 その場で叫ぶ。何かに気付く。
 少し離れた場所、地面に刺さる杖(握る箇所に布切れが巻かれている)、その下に土や苔に覆われた頭蓋骨。

 切り株の前。ぽつんと置かれた頭蓋骨。
 切り株の上に立つ雄利、エレキギターを構え、ノリノリで叫ぶ。足元には路上ライヴで使うアンプ。
雄利「hey guys! 会えて嬉しいぜ! 思う存分楽しんでくれ! なんたって、ブレンドン雄利、最初で最期の単独ライヴだからなッ!」
 サァと風が吹き、装飾品が揺れる。
 雄利の顔が曇る。笑みが消え、虚しさが浮かぶ。
 木に立て掛けられたギターケース。〈weird to live, rare to die〉と書かれている。
雄利「……。夢だった、世間を賑わす音楽家ミュージシャン。型破りに生きて、レアな死に方して。未来永劫語り継がれる。でも、思い通りにゃいかねぇモンよな、人生ってのは…」
 雄利の背後、風に吹かれポロポロ落ちる装飾品。枝には首吊り縄だけが残る。
 全てを受け入れつつも、どこか悔いが残る様子の雄利。
雄利「…旅、したかったな。ハイエースで駆け回るんだ、メンバーと一緒に。笑って、ケンカして、バカやって。どんなハプニングも乗り越える。会いたかったなぁ、そんな仲間に…」
さら『ほいだら、おらとするだ』
 喋る頭蓋骨(さら。生前の姿は後述)。
 顔から血の気が失せ、腰を抜かす雄利。
雄利「アアアアァァァッ!! ホネが喋ったァアア!! だっ、誰だァ、お前っ!?」
さら『おらぁ、さらだ。おらも旅ぃしてぇけぇど、骨ぇなっちまってなぁ、何処いも行けねぇだ。だで、連れてってくれ。なぁ?』
 ニッと笑う頭蓋骨。

旅の始まり

〇村役場
 窓口。地図を広げ、対応する職員。
 杖を肩に掛け、ギターケースとアンプの入ったリュックを背負う雄利。杖の先端には汚れた風呂敷で包んだ荷物。(中身はさらの遺骨)。
職員「ヨシミツデラ…、在りませんね、この村には。近隣の村や町にも見当たりません」
雄利「だよなぁ。大体残ってるワケ無ぇよ、千年も前の仏像なんて。地震で壊れてパアだわ」
職員「仏像…。もしかして、アレかな」
 指さす職員。壁に貼られた県内(長野山県)の観光ポスターが数枚。その中に良志光寺のポスター。寺と仏像の写真、〈良志光寺 御開帳祭 秘仏公開〉の文字。
職員「今、県内でやってるんですよ。村からもバスが出てまして。確か、高速で三時間…」
 ダンッと、カウンターに杖と荷物を叩きつける雄利。怒り心頭、早足でその場を去る。
雄利「高速で三時間だぁ!? 歩いて行けるっつうからOKしたんだ! ったく、何だよ寺参りって! 御縁がありますようにってお願いしろってか!? ンな余計なお世話…」
さら『背中に背負しょっとるの琵琶ずらなぁ? 瓢箪みてぇな形しとったけぇど、ちゃんと鳴るんかぁ?』
雄利「!!」
 驚く雄利、振り返る。
 カウンターに置かれた荷物、結び目が解け、骨が丸見えに。ケタケタと笑う頭蓋骨。
 呆然とする職員や市民たち。
職員「ホ…、ホネが…、喋って…」
雄利「こっ、これは…、その…」
 しどろもどろになる雄利。尚も喋り続けるさら。
さら『(ジャケットを見て)可笑しな半纏はんてんだわぁ。栗のイガ縫ってある。ぬくてぇだかぁ?』(※ぬくたい=暖かい)
雄利「おいっ! こんなところで喋んな…」
さら『(ベルトを見て)腰巻も変わっとるでぇ。ここ、くわに似とるなぁ。畑でも耕せるんかぁ?』
 ドン引きする周囲。恥ずかしくなる雄利。
雄利「分かった! 連れてく! だからヤメロォ!!」

バンド結成

〇村内(午後)
 点在する民家。畑や田んぼが広がる。〈三ノ州街道〉と書かれた小さな看板。交通量がほとんど無い道路。石碑(庚申塔)の台座に腰掛ける雄利。傍には荷物が付いた杖。
雄利「疲れたぁ、休憩~」
さら『休んだばかでねぇか。へぇ、年寄りだで、すぐごしたくなるずらな』(※ごしたい=疲れる)
雄利「年寄りって、三十二なんだが…。てかムリじゃね? 一般人が歩いて行く距離かよ?」
 雄利の頭上。道路標識の青看板、〈飯田森 16km〉〈駒々ヶ根 50km〉〈長野山 180km〉の文字。
 二人の目の前、走り抜ける軽トラ。
さら『んだら、くるうま・・・・だ。おら乗ってみてぇだよ』
雄利「カネ無ぇの! 死ぬ気だったから、全財産使い切ったわ」
 グウウと、雄利の腹が鳴る。項垂れる雄利。
雄利「腹減った…。食いモン無ぇか…?」
さら『働かんとまんま食えんで。庄屋様とこ行くだ。まんま食えるし、銭こも貰える』
雄利「働くってよぉ…。あるワケ無ぇだろ、こんなド田舎でオレみてぇなの雇う店は…」
 雄利の視界に入るギターケース。

 とある畑。休憩中の老夫婦。
 ギターを構える雄利、足元にアンプ。アンプの上にぽつんと置かれた頭蓋骨。
雄利「hey guys! オレはギタリストのブレンドン雄利! 彼女はシンガーのさらスマイルズ! 唯の骸骨だって? No kidding! コイツはなぁ、世にも珍しい、謳う骸骨なんだyeaaaaaaah!」
 テンションが高い雄利。困惑するさら。
さら『おらもやるだか?』
雄利「連れてけっつったのオメェだろ? 鼻歌でも子守唄でもイイ。オレが音付けるから」
さら『…分かっただ』
雄利「okaaaay! are you ready? Yeees! ワンツースリー!」
 ギターをかき鳴らす雄利。メロディに合わせてカタカタと動く頭蓋骨。目を丸める老夫婦。眼窩がカッと光る。頭蓋骨の上顎と下顎が動き、口を開く。

  歩道を歩く雄利、おにぎりを頬張る。肩に掛けた杖の先端(荷物とは反対方向)におにぎりやお菓子が入ったビニール袋が下がる。
雄利「デビューにしちゃ上出来だせ! …にしても、不思議な唄だな。巨人が山作っただの、池から龍が出ただの」
さら『〈昔語り〉っつうだわ。昔あったことをな、唄にして聴かせるだ。他にもあるで』
雄利「誰に教わった?」
さら「ゆうりみてぇなもんだわ」
 遠い目をするさら、当時を思い出す。
 真剣な様子で聞く雄利。
さら『琵琶持って、あっちの村ぁこっちの村ぁ、旅しとってなぁ。何でも知っとったわ。東にゃふじい・・・言う高ぇ山がある、西にゃおおいせ・・・・さまがる。良志光寺の仏さまもだ。たんと聴いたら、おらも見たくなってなぁ。鉄漿かね付けしる歳になったら旅するて、決めたんだわ』
 (※鉄漿付け=長野県の古い成人式。女性は十三歳で大人入りする。その際、鉄漿(お歯黒)を付ける習慣があった)
 〈さらの過去:村にやってきた旅人。寺に集まる村人たち。琵琶を弾き、謳う旅人。聞き入るさらや村人たち。庄屋で働く。鉄漿付けの儀式。旅人の格好をし、嬉しそうに家を出る〉(※回想シーンでは、さらの顔は分からないように描写する)
 悲し気な顔になるさら。
さら『…ほいでも、ずく出しすぎただな。苦しいなぁ思って、へぇ、それっきりだわ…』(※ずく=やる気)
 〈過去:山道を歩く。胸を押さえ、その場に倒れる〉
雄利「そう言う理由コトか。やりてぇことやれずに居たら、誰だって成仏出来ねぇもんな」
さら「だで、見れたら逝くで。それまでは、ちぃと我慢してくれな」
雄利「イイぜ。何処でも連れてってやる。だが、ちゃんと唄ってくれよ」
 手にしたおにぎりを見つめる雄利。生き生きとした目、独り言を呟く。
雄利「さらとなら、なれるかもしれねぇな」

*****

単独ツアー開始

〇ツアー(ライヴや生活等、二人の様子)
※数ページ。絵のみで文字(セリフや説明文)は無い。

【ライヴ・生活】
 ・公園や畑でライヴ。軽食や小銭を貰う。ライヴの様子をスマホで撮影する客の姿。
 ・川。身体や下着を洗う。
 ・無人の寺で寝泊まり。

【トラブル】
 ・分かれ道。行先で揉める。
 ・アンプの乾電池が切れる。雄利は手で擦り、さらは息を吹きかけて温める。
 ・交番。テーブルに置かれたさらの遺骨。尋問する警官。しどろもどろになる雄利。(骨格は模型のように関節部を針金で繋げている)。

【二人の仲】
 夜。空き家。
 畳の上、風呂敷を掛けられた遺骨。
 月光を頼りに小銭を数える雄利。傍に置いた靴を見る。鋲が付いたブーツ、全体的に痛んでいる。
 
 リサイクルショップ。
 靴コーナーをウロウロする雄利、ふと何かに気付く。
 ギターケースに括りつけた荷物。そこから覗く頭蓋骨。目線の先、レディースコーナー、ロリータ風のワンピースドレスを着たマネキン。羨ましそうに見るさら。
 
 人気の無い公園。休憩所。
 購入した品がテーブルに並ぶ。(小さめのスーツケース、小物入れ、黒色のガムテープ)。ベンチに座るワンピースを着た遺骨。嬉しそうな頭蓋骨。

 その日の夕方。駅前で路上ライヴ。ギターを弾く雄利。傍で踊るワンピース姿の遺骨。開いたギターケースに小銭や飲食物が次々と入れられる。

*****

単独ツアー中盤 

〇ツアー(午後)
 とある町。スーツケースを引きながら歩く雄利。(頭蓋骨の風呂敷はスーツケースの上部に置いてある)。
雄利「さ~て、今日は何処に泊まろっかなぁ~」
 ふと立ち止まる。視線の先、こじんまりとした民宿。入口に〈空室あります〉〈天然温泉〉の案内板。
雄利「宿か。偶にはイイよな」

〇宿(夜)
 温泉。入口に〈貸切中〉の看板。入浴中の雄利と遺骨。
雄利「かぁ~…、沁みるぅ~…。日帰りでも入れるんだな、宿の温泉って。なら余所でも探せば良かったわ」
さら『ほいでも、おらも入るで。みんないやずらな』
雄利「そうだなぁ、骨が入浴してりゃ…、って、混浴!」
さら『手拭で何隠しただぁ?』
雄利「見るなっ!」
 
 部屋。テーブルに並ぶ食事、山菜の天ぷらや川魚の塩焼き等の田舎料理。
 浴衣姿で座椅子に座る二人。
 美味しさそうに食べる雄利。
雄利「ンめぇ~~っ! こりゃ毎日食いてぇぜ! えっと、酒は…」
 徳利を手に取る雄利、お猪口に注ぐが酒が出ない。
雄利「もう終わりか? 一口しか呑んでねぇのに…」
さら『ゆぅりぃ、このみず、うめぇなぁ。ヒック』
 頬が赤い頭蓋骨。
雄利「おいっ! 未だ十三歳だろ、子供は酒飲むな!」
さら『おらぁ、むこさん、とれるだでぇ? へぇ、ゆうりぃ、どうでぇ?』

 主室に敷かれた二組の布団。内一つに遺骨が横たわっている。
 広縁(窓際の空間)。席には雄利と頭蓋骨。机に長野山県の地図、辿った道に線が引かれ、宿泊地やライヴ地に丸印や日付が書かれている。
雄利「ここの寺。ボロい見た目して、中は結構キレイだったよな」
さら『きのこ食うて腹壊したんはここだでな』
雄利「そうそう! カエルみてぇにゲロゲロ言ってな!」
 ははは、と仲良く笑う二人。
雄利「思ったより悪くねぇな、オレらの旅。飯には困らねぇし、カネはそこそこ稼げる。客の反応だって最高だ」
さら『ゆうり、これ何でぇ?』
雄利「美術館、絵が飾ってある家だ」
さら『へぇ、見てぇなぁ』
雄利「丁度通り道にある、明日寄ってくか」
 終始、和やかな雰囲気。
 外。ぽつぽつと雨が降り始める。

*****

単独ツアー終盤

〇峠道(後日・午前中・晴れ)
 山頂辺り。〈長野山市〉と書かれたカントリーサイン(市町村の境界を示す標識)。その傍に立つ雄利。
雄利「おっしゃー! 長野山市入りーっ! 雨のせいで予定狂っちまったけど、無事に来れたぜ!」
 坂道を下る雄利。杖を突き、アンプ入りのバッグを乗せたスーツケースを引く。スタート時に比べて、精悍に見える。肩に掛けた風呂敷から覗く頭蓋骨、興奮気味のさら。
さら『じき見れるだなぁ。おらぁ、どきどきしてきただぁ。なぁ、ゆうり。ちぇき撮ってくれなぁ。仏さんと写りゃ、ばえるでねぇ』
雄利「イイねぇ~。サイン付けて売るか!」
 立ち止まる雄利。目の前に立て看板、〈通行止め〉〈この先土砂崩れにより通行不可〉。バーが付いた三角コーンも置かれている。
 眉を顰める雄利。
雄利「道崩れたから迂回しろってか。ゴール目の前にして、そんな面倒するかよ。悪ぃが行かせてもらうぜ」

  地図を見ながら坂道を下る。普通の道路が続く。(往来する車は無い)。
雄利「えっと、この山下りたら左と。寺は町ん中か。こりゃ道に迷いそうだな。有名なイベントなら、案内くらい出てるよな」
 何かに気付くさら。ふと脇の斜面を見上げる。
さら『…逃げるだ、ゆうり』
雄利「えっ?」
さら『来るだ…、山の蛇が…』
 ゴゴゴ、と轟音。斜面が崩れ、土砂が二人を襲う。

 走馬灯。雄利の過去が断片的に浮かぶ。高校時代、休み時間。箒をギター代わりに構え、バンドマンの真似をする。盛り上げる友人達。嬉しそうに熱唱する雄利。

さら『…うり…、ゆうり…』
雄利「……」
 目覚める雄利、道路脇の斜面に横たわる。目の前に頭蓋骨。
さら『ゆうり! うんと声掛けても起きねぇもんで、心配しんぺぇしたわ』
雄利「…っ!!」
 足に激痛。靴が脱げた右足、足首が赤く腫れている。
さら『怪我しとるで、良くなるまでじっとしとるだ。…へぇ、良くなってもやれねぇかもしれんけぇど…』
 悲し気なさら。
 ぼんやりと周囲を見渡す雄利。散らばった荷物。針金が外れた骨格、泥塗れのギターケース、壊れたアンプ。
さら『みぃんな、駄目になっちまったわ。あんなになりゃ、謳えねぇ、踊れもしねぇ…。へぇ、おしめぇだわ、おら達の旅は…』
雄利「……、やるぞ」
 立ち上がる雄利。足を引き摺り、ギターケースの元に向かう。
さら『ゆうり…。無理しねぇで、足わりぃだけ』
 右足に激痛。力が入らず、その場に倒れ込む。
さら『ゆうり!』
 動かない雄利。
 諦めた様子のさら。
さら『…もうええわ…。ゆうりは、うんとやってくれた。歩くんも、らいぶも、流行りもんだってたんと教えてくれた。おら、それで満足だわ。だで…』
雄利「やめる、ってか…?」
 俯せのまま話す雄利。
雄利「ざけんじゃねぇ!! オレはなぁ! 折角掴んだチャンスをよぉ、捨てる気なんかこれっぽっちも無ぇんだ!!」
 顔を上げる雄利。真剣な眼差し。上体を起こし、匍匐前進のように地面を這う。
雄利「なるんだよ! 世間を賑わす音楽家ミュージシャン! 型破りに生きて、レアな死に方して。未来永劫語り継がれる! もう諦めねぇ! 挫けたりしねぇ! 夢叶えるまで、オレはこの旅を続けンだ!」
さら『……』
雄利「さらにもあンだろ! 見てぇって夢が! 生きてる内に叶わなかった、だから死んでもずっとこの世に居る! オメェの旅は、それ見るまで終わらねぇだろ!」
さら『ゆうり…』
 雄利の言葉がさらの胸に響く。
 ケースの目の前。腕を伸ばす雄利。指がケースに触れる。雄利の手に重なる骨格の手。骨格が女性の手に変わる。はっとする雄利、隣を見る。幽霊体のさら、優し気に微笑む(実年齢より大人びた雰囲気)。
さら『ゆうりの言う通りだわ。まだ終われんわ、おらの旅』
 ケースを開ける。無傷のギター。微笑む雄利。
雄利「音楽の神様も言ってるわ、ここで終わるんじゃねぇぞって」

〇峠道
 〈通行止め〉の看板。傍に立つヘルメットを被るアナウンサー。
アナ「今朝、新たに崩落個所が見つかり、全面復旧には少なくとも三ケ月は掛かると関係者は話していました。以上、現場からお伝え致しました」
二人「あああああぁぁっ!!」
 坂道を勢いよく下る二人。遺骨に背負われた雄利。(右足は枝で固定され、背中にはギターケースが括りつけられている)。
 躓く遺骨、カメラの前で転ぶ。驚くアナウンサーやスタッフ達。
スタ「なっ…、何だぁ?」
雄利「だから言ったろ! ホネが背負えるワケ無ぇって!」
さら『ほいでも、これしかねぇで。ゆうり連れてくんわ』
雄利「大体、恥ずかしいんだよ、女におんぶされるって。代われ! オレが連れてく」
さら『そりゃ、いけねぇで!』
 口喧嘩する二人。呆然とするスタッフ達。
アナ「ホ…、ホネが喋ってる…」
スタ「喋るホネ…。もしかして、この辺で路上ライヴしてます?」
雄利「ええ、まぁ…」
スタ「やっぱり! ウワサなんですよ、歌う骸骨連れたミュージシャン。いつか取材したいなって思ってて。良かったらどうです? お礼はしますので」

 街中を走る中継車。後部座席に座る雄利と遺骨。開いた窓から顔を覗かせる遺骨。
 
 病院。捻挫の手当てをする。

 テレビ局のスタジオ。客を入れた公開ライヴ。用意された衣装を着た雄利。小さなクッションに置かれた頭蓋骨。演奏を披露する。 

*****

単独ツアー全国拡大

〇良志光寺(後日・晴れ)
 賑やかな境内。並ぶ露店。
 店先の休憩スペースでくつろぐ雄利と頭蓋骨。
 頭蓋骨の傍、着物姿の幽霊が漂う。
さら『ありがとぉな、ゆうり。おらぁ一人じゃやれねぇ旅だったわ。うんと賑やかだったなぁ。おらぁ、いつまでも忘れんわ』
 満足そうなさら。どこか寂しさが残る。
 無言で席を立つ雄利。
さら『…達者でな。あっちで見守っとるで』
 薄くなる幽霊のさら。背を向けたまま話す雄利。
雄利「どんな気分かなぁ、ふじい・・・の山の上で謳うのは」
さら『!』
 ハッとするさら。身体の色味が元に戻っていく。
雄利「おおいせ・・・・さまの目の前で弾くのは気持ちよさそうだな」
さら『…ゆうり…』
 振り向く雄利、笑顔を向ける。
雄利「終わらねぇよ、オレらのツアーは」
 さらの顔に笑みが浮かぶ。

 路上ライヴの準備をする雄利。
雄利「まずはハイエースの資金集め! 歩くのは、ごしたくてしょうがねぇ」

  

『WEIRD TO LIVE, RARE TO DIE-メタラーとガイコツの単独ツアー』 終
ちなみに画像は2022年善光寺御開帳の写真です。
参拝した際に撮りました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?