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【漫画原作】『マイ・シガレット・ロマンス』【恋愛】

読切用の漫画原作です。
短編なのでさくっと読めます。
複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。

ジャンル

ほんのり恋愛のような

あらすじ

煙草を喫う為に、毎晩墓地にやってくるちょい悪系な男性。墓地には男性を待つ一人の少女が。少女は煙草を喫う姿を見るのが好きだそうで…。

本編

〇墓地(夜)
 天使の石像に寄り掛かる一人の少女。
(少女:十八歳。赤毛のウェーブ、白いドレス風の服装)。
 電池式のランタンを手に、少女に近付く男性。
(男性:三十代半ば。背が高く、ガタイが良い。ニット帽、厚手のジャケット、ジーパンで全身黒づくめ。ツンツンした感じ)。
少女「遅~いっ! 遅刻するなら連絡してよね!」
 腰に手を当て、頬を膨らませる少女。
男性「どうやって? 電話持って無ぇのに」
少女「あっ、そうだった」
 石像にランタンを掛け、少女の隣に立つ男性。ポケットから煙草の箱とライターを取り出す。慣れた手付きで煙草を咥え、ライターの火を点ける。
少女「なら紙に書いて置いといて」
男性「風で吹っ飛ぶ」
少女「じゃあ、地面に枝を並べる」
男性「野良猫が壊しちまう」
少女「それなら墓石ね。水性ペンならすぐ消えるでしょ」
男性「したくねぇよ、罰当たりな事」
 男性をじっと見つめる少女。
少女「してるじゃない。墓地で煙草喫ってる」
男性「良いんだよ、後でちゃんと謝るから、神様に」
少女「ホント? そんな風には見えないけど」
男性「これでも信仰心は篤いんでね。それに、墓地で喫わなきゃいけねぇ理由があるから、な」
 優し気な顔で、少女を見つめ返す男性。
 目が合う。頬が赤くなる少女。
 携帯灰皿を取り出す男性。灰皿の縁に煙草を当て、指でトントンと叩く。灰皿の中に灰が落ちる。煙草を咥え、フウーッと吐く。(美味しそうに煙草を喫う)。その様子を愛おしそうに見つめる少女。
男性「にしても、変わってるな。煙草喫うのを見るのが好きって」
少女「だってカッコイイじゃない」
男性「ヤニ喫ってラリってるのが?」
少女「煙草を掴む指とか、物思いにふける表情(かお)とか、画になるのよね」
 両手の親指と人差し指を伸ばし、カメラマンが構図を決めるようなポーズを取る少女。
 煙草を咥え、物思いにふける顔を見せる男性。ちょっとわざとらしい。
男性「こうか?」
少女「ダメ、あざとすぎ」
男性「……」
少女「それに面白いじゃない、口から煙を吐くのって。絵本に出てくるドラゴンみたいで」
 煙草を咥えたまま少女を見つめる男性。突然口を開け、少女にブハっと煙を吹き掛ける。
男性「ガオ~、スモークドラゴンだぁ~」
 煙塗れになる少女。手で煙を払いのける。
少女「ちょっと! 臭うでしょ! 折角、薔薇の香水つけてもらったのに!」
男性「香水?」
少女「薔薇の花弁を水で浸したのを、神父様が撒いてくれたのよ」
 墓地内に小さな薔薇の庭園。手入れされ、綺麗な花が咲いている。
少女「ありがとうって、私の代わりに伝えてくれない?」
男性「言えよ、自分で」
少女「イヤ。貴方と違って怖がるもの」
男性「見慣れてるだろ、幽霊くらい」
少女「…そうだけど…」
 恥ずかしそうな少女。
 察する男性。
男性「言っとくよ。香水、台無しにした詫びに」
 煙草を喫う男性。上を向き、フゥーッと煙を吐く。喫煙終わりの合図。灰皿の底に煙草を押し付け、火を消す。
男性「さて、今夜はこれでおしまいだ」
少女「明日も来てくれる?」
男性「用事が無けりゃな」
 ランタンを手に、歩く男性。後ろをついてくる少女(身体がフワフワと浮いている)。
少女「ねぇ、いい加減教えてくれない? 何の仕事してるの?」
男性「人の話聞いてる」
少女「カウンセラー?」
男性「説教もしてる」
少女「先生?」
男性「本だって山ほど読んでる」
少女「政治家?」
男性「残念、全部ハズレ」
少女「ヒント!」
男性「人前じゃ煙草喫えねぇんだわ」
少女「カウンセラーも先生も政治家も人前じゃ喫えなくない?」
男性「そう言われるとそうだな」

 少女の墓の前。比較的新しい墓石。男性に背を向けて浮かぶ少女。
少女「…ありがと」
男性「礼なら未だ言ってねぇぞ」
少女「それじゃなくて。あの日から毎晩会いに来てくれるじゃない、寒いの我慢して。変な幽霊に付き纏われて、どうでも良い話聞かされて。本当は暖かい部屋で、一人でゆっくり喫いたいでしょうに…」
男性「まあな。でも好きでやってるからな、煙草も話聞くのも。人間だろうが幽霊だろうが関係無いさ。俺の行いを喜んでくれるなら」
 振り返る少女。
 優し気に微笑む男性。
 意味深な空気。頬を染め、微笑む少女。男性の頬に唇をつける。
少女「おやすみなさい」
男性「おやすみ、良い夢を」
 笑みを浮かべ、消える少女。
 墓石の前に跪き、十字を切る男性。立ち上がる。
男性「さて、私も寝るとしますか」
 墓地に隣接した教会へ向かう。ニット帽を取り、ジャケットの内ポケットからメガネケースを取り出し、メガネを掛ける。ツンツンした感じが消え、優し気な雰囲気が漂う。
男性「墓地なら誰にも見られないと思いましたが、まさか幽霊にバレるとは。念の為に変装していて良かった」
 ポケットから煙草の箱を取り出す。
男性「でも、嬉しいですね。今の時代、喫煙者は毛嫌いされるのに、カッコイイと言ってもらえて。あの子の事ですから、司祭服を着て喫煙したら何と言うでしょうね」 

「マイ・シガレット・ロマンス」  終

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