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10月14日 地球・生ビール・怨嗟

「とりあえず生で!」

オフィス街近くに位置する大衆居酒屋には、仕事終わりと思われるサラリーマンが密集していた。

5、6人のサラリーマンたちがぞろぞろと入店する。

店員が駆けつけ告げる。「お飲み物お伺いします!」

サラリーマンたちはみな一様に言う。「とりあえず生で!」

注文の作業が終わると店員は去り、サラリーマンは語り始める。近ごろの異常気候について、気になるニュース、身の上話、取引先の話、愚痴、冗談、テーブルに並んだ食べ物について、地元、家族、将来、現在……。

互いに互いを労う。「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」「お疲れ様です」……。

グラスは空になり、そして満杯になる。

日は変わり、朝日が昇る。

店内には誰もいない。

将来の話をした。

店はもうない。

「とりあえず生で」

声がいつまでも残響し続ける。

そこは、とりあえずに落ち着いた生ビールの怨嗟が積もりに積もった。

再び時間が動き出し、葉が生い茂るとき、大地は鳴動し、雲は垂れ、風が告げる。

「別にとりあえずって言わなくてよくない?」

晴れ
『地球の未来』

(2022/10/14)

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