2026年 巴里の女

雨の電気信号 空をひび割り 水平線の向こうに逃げた
味の電気信号 寄せてくるのは甘さ適度な整った波

女「巴里に五年いたの」
その瞬間、顔が華やいだ
人が巴里について話すときのあれだ
雨の逃げた先 東京湾の向こうに巴里がある

女「あたしは2、ドーナツは0、この足は1」
女は昨日巴里で食べ残したドーナツを見てオイラー数の話をした
万物の形を司るオイラー数
巴里のドーナツは甘さが足りない

女「自転車もキックボードも苦手なの」
露わな足 紫色の丸 赤色の線群 皮膚を感じる
巴里では人間が働かない ストライキ 機械化
自動運転車の立ち往生 狭い路地 路上駐車の車間
眼下の一人用自動運転車ゴッホの滑らかな筋
どこまでも続く傷だらけの足

星の電気信号 午後八時の八筋の流れ星
女「運命すら操ろうとはまるで神様気取りよね」
もう生身の人間には立場がない
活動を機械に奪われた 成果を神様に奪われた
その間で人間の存在を主張する色味のある足