スポーツ庁 地域移行検討会議提言(2022.6.6)についての執行部見解

スポーツ庁「運動部活動の地域移行に関する検討会議 提言」についての執行部見解

2022年6月12日
IRIS(愛知部活動問題レジスタンス)執行委員会

 スポーツ庁「運動部活動の地域移行に関する検討会議」が、6月6日にスポーツ庁長官に提出した「運動部活動の地域移行に関する検討会議 提言」(以下「提言」)について、IRIS執行部としての見解を示す。

 提言に示された各種分析や改革の方向性は、IRISの見解と概ね一致するものであり、基本的には歓迎したい。とりわけ、学習指導要領から部活動についての記述を削除する可能性にも言及したこと、部活動を学校教育ではなく社会教育として位置づける方向性を示したことは、日本の部活動の歴史的転換点を示すものとして高く評価したい。
 しかしながら、教員の働き方改革に逆行する部分や、改革が不十分と思われる部分がある。それらについて、問題点を指摘するとともにIRISとしての考えを示したい。

<休日から地域移行を進めることについて>

 今回の提言は、「まずは休日から地域移行の取組を進めていくことが適切と考えられる」(p.12)という前提に立ってまとめられている。IRISとしては、休日と平日を分けることなく直ちに地域移行を進めるべきだと考えているため、基本的立場の違いがあるが、そうした違いを差し置いてもなお容認できない箇所があるため指摘しておきたい。
 「『指導者の確保』という観点からは平日に仕事がある保護者や地域住民にとって休日の方が参画しやすい」(p.12)とあるが、この表現に怒りを覚える教員は少なくないと思われる。論理的に解釈すれば、保護者や地域住民から「新たに」指導者を募集するには、という文脈に置かれているため、特に問題はないようにも思われる。しかし、平日に仕事があるのは教員も同じである。保護者や地域住民と区別する必要があるだろうか。保護者や地域住民の事情は考慮するが、教員には負担を押し付けて当然という認識が垣間見える。

<兼職兼業について>

 提言では「教師が実際には指導を望んでいないにもかかわらず、保護者等からの要望や周囲からの同調圧力等により兼職兼業の許可を申請するなどして従事せざるを得ないような事態が生じることを防がなければならない。」(p.23)とするものの、そのための具体的な手立ては示されていない。例えば、文書での意思確認を義務化したり、強要まがいの行為を処分の対象としたりするなど、顧問の決定にあたり教員の意向が真に反映される仕組みを整備することが求められる。

<保護者の金銭的負担について>

 「学校の運動部活動においては、各運動部において部費等として(中略)一定の金額を集めている。ただし、教師が指導を担っているため指導料が生じず、比較的低廉な額となっている。」(p.35)という記述は、客観的にはその通りである。しかし、指導料が生じない理由について、「教師が指導を担っているため」とするだけではなく、問題点として掘り下げる必要がある。
 現状では、平日の勤務時間外の指導は完全に無給、休日の指導についても最低賃金以下の手当で教員が担わされている。教員が賃金という形で本来得られるはずの利益は行政によって搾取され、保護者に不当に配分されている。長年に渡り、このような「不当利益」を保護者が(無意識のうちに)得てきたことについて、問題点として取り上げるべきである。

<部活動の強制加入について>

 提言では、「部活動は生徒の自主的・自発的な参加により行われるものであり、生徒の意思に反して強制的に加入させることは部活動の趣旨に合致せず不適当であること」(p.42)について、国から通知を発出することが求められるとしている。IRISとしても、この方針に賛成である。
 しかしながら、「強制」を狭義に解釈し、実態としては生徒の意思に反して部活動加入を強制しておきながら、行政調査等には「強制していない」と回答する自治体や学校が存在することを指摘しておかなければならない。その典型は、「特別な事情があれば部活動非加入を認めているので強制ではない」というものである。部活動加入が任意であることを全生徒に対して説明し、生徒が真に自由な意思にもとづいて選択できる条件が整っていなければ、強制が行われていないとは言えない。「強制」の解釈にまで踏み込んだ通知内容にしなければ、現場で都合よく解釈され、実効性を持たないものになってしまう。

<高校入試の調査書について>

 高校入試で使用される調査書について、提言では、「単に活動歴や大会成績だけではなく、活動からうかがうことのできる生徒の長所、個性や意欲、能力(例えば、自ら取り組もうとする意欲や態度、責任感、協調性など)に言及するなど、記載を工夫する必要がある。」(p.46)としている。
 こうした内容を的確に評価し、書類に記載するためには、部活動顧問による観察や生徒への聞き取り、学級担任と顧問との連絡調整など、膨大な業務量の増加が見込まれる。このことは、「必要以上に調査書の記載量を増やさないよう留意するなど、調査書の作成に伴う教師の負担を考慮することも必要である。」(p.46)という箇所と矛盾する。また、「生徒や保護者が、学校部活動等における活動歴や大会成績が高校入試で評価されると認識していることによって、自主的・自発的な活動である学校部活動等の本来の趣旨を損なうような状況になってしまうことは改めなければならない。」(p.46)としながら、調査書の記載範囲を拡大することは、論理的に整合しない。
 一般入試用の調査書からは、活動歴や大会成績を含め、部活動に関する記述をなくすべきである。こうすることで、教員の負担軽減が図られると同時に、部活動への参加状況が入試に影響しないことを生徒や保護者に示すことができる。

<達成時期の目途について>

 提言では、「目標時期については、少子化の進行や学校の働き方改革の進展を踏まえ、できる限り早期とすることが望ましいが、一方で、地域におけるスポーツ環境の整備充実には 一定の時間を要することから、令和5年度の休日の運動部活動の段階的な地域移行開始から3年後の令和7年度末を目途とすることが考えられる。」(p.56)と述べられている。
 そもそも部活動の地域移行が進められているのは、教員を長時間無償労働させることによってしか存続できない部活動の違法性を解消するためである。「できる限り早期とすることが望ましい」のではなく、必ず早期に実現しなければならない。仮に、3年という長期間の準備期間を経てもなお、地域におけるスポーツ環境の整備充実が達成できなかった場合には、一切の条件をつけず直ちに地域移行を断行すべきである。

*補足
 高等学校等においては、「義務教育を修了し進路選択した高校生等が自らの意思で運動部活動への参加を選択している実態」(p.3)があるとされているが、高等学校等においても、部活動への強制加入が広く行われている実態がある。高等学校等の部活動のあり方についても、早期に議論を進めていただきたい。

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