[サンプル] C94販売論考 リベラリズム諸派の紹介とマリー・ロスバードにおける政治学と自然法の概念
ご覧頂きありがとうございます。こちらは拙著『リベラリズム諸派の紹介とマリー・ロスバードにおける政治学と自然法の概念』の抜粋サンプルとなります。
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第1篇 リベラリズムの諸派
第1章 二つの自由概念(Two Concepts of Liberty)
「自由とは何か」この問いを考えるとき、最初に触れておきたいのはI.バーリン(Berlin, Isaiah)とB.コンスタン(Constant de Rebecque, Henri-Benjamin)でしょう。イギリスの哲学者I.バーリンは著書『自由論』(“Four Essays on Liberty”(1969) Oxford University Press, 2002.)において、「消極的自由 Negative liberty」と「積極的自由 Positive liberty」という、「2つの自由概念Two Concepts of Liberty」を提示しました。消極的自由とは、他者の強制的な干渉が不在の状態であること。自分の髪型や服装を強制されたり、ある一定の考え方などを強いられないこと。これは信教や思想の自由などです。積極的自由とは、“他者を強制してでも”自己の目的を実現しうること、またその能力がある・持つことができる自由を指します。誰かを誘って何らかの目的を達成することや、自己の目的のために社会の人々に協力してもらうことを指します。これは貧富の格差を解消する社会権などです。この積極的自由の実現には税の徴収が必要など、一定の他者の消極的自由を奪うこと(この税の場合は個人の所有権を強制的に奪っています)も多いです。
このバーリンの区分の過去にも、フランスの作家B.コンスタンが、『近代人の自由と比較された古代人の自由について』(“De la liberté des anciens comparée à celle des modernes.”)というパリの王立アテネ学院での講演で、バーリンのいう積極的自由の概念を「古代人の自由 Liberté des anciens」、消極的自由の概念を「近代人の自由 Liberté des modernes」という言葉で表現していました(Constant, 1819)。
バーリンはこの2つの自由のうち、消極的自由のほうを擁護しました(Berlin, 1969)。バーリンは自由の実現のために、強制的に干渉してくる“他者”を自由の危険物と見なしましたが、この“他者”についてさらに詳しく、他の政治哲学者の意見も聞いてみましょう。
私たちが中学校の歴史の授業で触れた『リヴァイアサン』(“Leviathan” (1651) Oxford University Press, 2008.)で有名なイギリスの思想家T.ホッブズ(Hobbes, Thomas)も、自由の障害は、暴力をもって生命を脅かす、いつ自分の寝首を掻いてくるかわからない“他者”といったネガティブな他者認識から、他者からの危害を防ぐための制度として国家を構想しています(Hobbes, 1651)。
またフランスの哲学者M.フーコー(Foucault, Michel)は、著書『監獄の誕生――監視と処罰』(“Surveiller et punir, naissance de la prison”gallimard,1975)において、監獄について、監獄生活の中では監守などの監視の眼が、個人の肉体や精神を規律化していくと論じました。そして、この肉体や精神の規律化が学校や一般社会の生活においても当てはまると主張しました。簡単に言うと、学校や社会で“他者”から私たちが普段突き付けられる、何らかの「正しさ」への同調圧力(見えない権力)のことです。この「正しさ」は、例えば「女子なら可愛くなくちゃ!」とか、「男なら泣くな!」など、無根拠なものも多くあります。「生‐権力 bio‐pouvoir」という言葉で国家や他者からの同調圧力を表現した(Foucault, 1975)このフーコーの権力論は、私がいた大学でも、他者からの同調圧力を感じた経験を思い出して共感される方が多かったです。
これらの自由を侵害する“他者”に対してあるルールを提唱したのが、功利主義で有名なイギリスの哲学者J.S.ミル(Mill, John Stuart)です。バーリンと同じく日本語訳で『自由論』(“On Liberty, Utilitarianism and Other Essays” (1859)Oxford University Press, 2015.)という本を執筆した彼は、正当に権力を行使して“他者”に干渉し、禁止することが許されるのは“他者”に危害を与える行為のみという「危害原理Harm principle」を提唱しました(Mill, 1859)。逆に言えば、他者に危害を加えない限り自由。これも消極的自由と近いものでしょう。彼は後世のリベラリズム諸派にも多く参照され、実際にバーリンも自身の『自由論』の中でミルに触れています(Berlin, 1969)。
これらの議論からでも、“他者に自由を侵害されない・他者の自由を侵害しない”ことを極意とする消極的自由の重要性は十分に感じられます。もちろん積極的自由にも重要な面がありますが、ここからもう少し消極的自由の世界へ、深く潜りたいと思います。
■筆者:いりえったより
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■著書
いりえった"リベラリズム諸派の紹介とマリー・ロスバードにおける政治学と自然法の概念" (初版:エスノメソドロジー研究会様会誌『エスノメソドロジー研究会01』へ寄稿/増補版:いりえった個人サークル「深夜の研究所」で販売中/イラスト:華沢かんじ様)
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